EQ

EQの基本中の基本!カットから始めるEQのススメ

DAWを使ったMIXに限らずアナログミキサーを使用したMIXでも、ライブPAのようなライブミックスでも、MIX時に必ず使用するのがEQ=イコライザーです

EQを使用することで、各トラックの周波数帯域ごとのバランスを取ることが可能です。例えば、EQを使用することで、キンキンと耳に痛いエレキギターを大人しくさせたり、音がこもって抜けないボーカルを前に出したり、ということが出来るようになります。

また、DAWでのMIX時には、いきなり各チャンネルごとの単音を聴いてEQをするよりも、フェーダーである程度バランスを取ってからEQをした方が上手くいきやすいものです。

MIXの手順については下記リンク先で詳しく解説しています。

どちらの場合も、まず目標とするサウンドがあることが大前提です。EQ(イコライザー)とは、実際に耳で聴いている音と頭の中に思い描いている完成形の音の差を無くす、つまり、両方をイコールにする道具だと考えましょう。

今回の記事では、EQをブースト方向ではなく、カット方向に使用してMIXにスペースを作ったり、音の被りを少なくしてスッキリとさせる方法について解説して行きます。派手さはないですが、これがEQの基本中の基本なので、抑えておきましょう。

そもそもEQってなにっ?という方は下記の記事をご覧ください。

カットEQではなくて、ブーストEQはどうすればいいの?という方はこちらの記事が参考になります。




目次

失敗しないEQの方法

実際にEQを使用して行く前に、EQに関しての基本的な考え方を3つの要点に絞って解説します。

よくある失敗として、考えなしにEQを使っていった結果、どういうサウンドを目指していたのかわからなくなってしまって、結局1からやり直すというものがあります。この項で解説することを確認していただければ、そのような失敗には至らないのでご安心ください。

2MIXで聴いて違和感のあるトラックから手をつける

冒頭でもリンクを紹介したMIXの手順で詳しく解説していますが、EQなどを使用してトラックごとのサウンドを決める前に、まずはフェーダーを使用してトラック間のバランスを取っていきます

例えば、「ハイハットが耳に痛い」という場合にも、実際にMIX内で使われる音量よりも大きな音量で聴いていれば「耳に痛い」と感じる場合もあります。この状態でEQを使って高域を調整してしまうと、実際に使用する音量まで落とした時に、抜けが悪く感じることになります。

実際に完成形に近いバランスで聴いて行く中で、理想のサウンドと違う、サウンドに違和感を感じたトラックからEQで処理していきます。複数のトラックにEQでの修正が必要な場合、近代音楽ではドラムから、中でもバスドラムから手をつけるのが一般的です。

バスドラムをソロで鳴らした時のメーターの振れを全体の音量の基準に取ることも多く、まずは土台から組み立てていく、というのが基本になります。

必ずしもEQを使用しなくてもよい

意外と凝り固まりがちですが、違和感を感じなかったり、元ファイルがしっかりと処理されている場合、必ずしもEQを使用する必要はありません。

EQはあくまでも、理想のサウンドと違う場合や、MIXにスペースを空ける必要がある場合に使用するものです。特にアナログ環境では、EQを使用することで位相が乱れるため、不要なEQが他のトラックにも悪影響を及ぼす危険性があります。

実際に熟練のエンジニアさんの中には、マイクの選定、マイクの立て方、マイクプリの選定のみで音を作り、コンソールのEQがOFFのチャンネルがある状態のままで素晴らしいMIXを組み立てる方もいらっしゃいます。

ブースト方向よりも先にカット方向のEQを行う

ブースト方向のEQを行うとトラックの音量は上がります。そのため、DAW内部でのクリップに注意する必要があります。また、ブーストEQ主体のMIXでは、トータルのレベルも持ち上がってしまうために、MIX全体のマスターレベルも気にしなくてはなりません。

逆にカット方向のEQでは、一部の例外を除きトラックの音量は下がります。そのため、カットEQが原因でトラックがクリップしたり、マスターにピークが入ることはありません。

また、前述の位相の問題で、ブースト方向のEQでは位相が乱れた音が大きくなります。全体的にカット主体のEQを行ったMIXの方がスッキリと仕上がり、後の行程が進めやすくなります。

1.まずはHPFから手をつける

カットEQを行うトラックを決定したら、一旦そのトラックをソロにして作業を開始していきます。

まずは、低域によって高域がマスキングされて聞こえてこない状況を避けるために、必要に応じてHPFを使用します。HPFとは、High(高域を)Pass(通す)Filter(フィルター)の略です。つまり高域だけを通し、不要な低域をカットしてくれるフィルターです。その役割から、ローカットフィルターとも呼ばれます。

HPFは多くのEQプラグインに搭載されています。

基本的な考え方として、低域が重くて抜けがないから高域をブーストする、というのは確かに正しいのですが、前項の通り、レベルの問題と位相の問題が出てくるため、ブーストよりもまずはカットから手をつけるべきです。

HPFについては以下の記事で詳細に紹介しています。

2.Qを広めにとって、3〜6dB程度ブーストする

特定帯域の音にピークがあると、音がこもって聞こえたり、逆にキンキンしたりと聴きづらい状況になっています。その原因が、周波数帯の中のどこであるかを探るためにEQをブーストして探していきます。

EQをブーストすることでブーストした帯域の音が強調されて、違和感の原因が見つけやすくなります。この時、あまり大きくブーストすると、どんな帯域でも変に聞こえてしまうので、ほどほどにしましょう。

また、過度なブーストは聴覚やモニター環境に悪影響を及ぼす恐れがあるので注意しましょう。

カットEQのポイントに関しては、いきなりカットしながら探す方法もあるのですが、慣れないうちはブーストしながらの方がわかりやすいと思います。

3.ブーストした状態でFrequencyを上下させてポイントを探る

ブーストした状態でEQをスウィープさせて行くと、中心周波数付近の音が強調されて聞こえてきます。低域〜中低域付近では、モコモコといった抜けないサウンドに、中高域〜高域付近では、キンキンやシャリシャリといった耳に痛いサウンドに変化して行くのがわかると思います。

ブーストした帯域が問題がある帯域に近づくと、モコモコやキンキンといった耳障りな音がさらに強調されて聞こえてきます。

そこまで来たら次の行程です。



4.Qを可能な限り狭くして更に細かく探る

違和感がある帯域を見つけたら、今度はその範囲内のどこに中心があるのかを探っていきます。

Qを狭くした段階では違和感が減ったり、あまり感じなくなってしまうのですが、Qを狭くしたことで、違和感を感じる問題点とブーストしているEQの中心点がズレている場合が多いです。その中心地をさらに細かく探って行きます。

アナライザー付きのEQを使用している場合には、視覚も使用することでスピーディーにこの作業を進めることが可能です。

慣れてくると一手順飛ばして、初めから狭いQで問題点を探ったりもしますが、基本中の基本編ということでゆっくりと絞り込んでいきます。慣れて来たら自己流にアレンジしていってください。

5.ポイントを見つけたら大きくカットする

違和感の中心点を探り当てたら、思い切ってカットします。この段階では最大値までカットしても問題ありません。

この段階で、今までブーストされて強調されていた問題点が大きく解消に近づいているはずです。EQポイントが合っているかどうかを、EQをON/OFFしながら確認したりするのもよいでしょう。

また、GUIのEQポイントをマウスやトラックボールでドラックする場合には、この時に中心周波数ごと動かしてしまわないように注意しましょう。私は、数値を直接入力したり、パラメータをドラッグしたりと少々の操作ミスではポイントがずれないような方法でカットしています。

6.付近の違和感もカット出来るようにQを広げる

Q幅の狭いカットEQで問題点の中心はカットできても、周囲の周波数にも問題がある場合、問題点は完全には取りきれません。ここで、カットEQのQ幅を調整し、問題点が完全に取りきれるようにQを設定します。

カットEQで処理すべき周波数付近には、トラックごとの美味しい周波数があることが多いです。この段階でQ幅を広く取りすぎると、その美味しい帯域ごとカットすることになってしまうため、慎重にQを設定していきましょう。

7.違和感がないところまでGAINを戻す

付近の違和感ごとカットできたら、最後に実用的なカット量になるようにGAINを戻していきます。元のトラックによほど問題があったり、大きくサウンドを変更する意図がない場合、10dB以上のカットが必要なことは稀です。

1つのEQポイントを処理したことで、他の帯域の問題が見えてくることもあります。そうしたら、また、同様の手順で他の帯域を処理していきます。実際、カットEQが5ポイント以上必要になることはあまりなく、5ポイント以上必要性を感じたら、それは別の部分に問題があるか、カットポイントがズレている可能性が高いです。

近接してカットが多発している場合には、その中心を広めのQでカットした上で狭めのQで少しブーストしてやる方法もあります。アナログEQでこれをやると位相がぐちゃぐちゃになりがちですが、結果として求めるサウンドに近ければ問題はないと思います。

周波数の山を切り崩しているので、カットしたい帯域の処理が終わったら段階ではトラックのレベルは下がっています。適宜フェーダーなどでレベルを戻してあげましょう。

また、ソロを外して2MIXに戻した時に違和感がないか、繰り返し確認して行くことが非常に重要です。



3行でまとめると

  • EQは単音だけでなく、2MIXを聴聴きながら調整する!
  • ブーストしたい気持ちを抑えて、まずはカット方向のEQ!
  • Qの設定が超重要!

最後に

今回はEQの中でもカットEQについて解説して来ました。地味な印象は拭えないですが、これがMIXの基本=EQの基本中の基本になります。実際、私は大急ぎでオケのラフなどを作るときにはほとんどカットEQとフェーダー、仮リバーブだけで組み立ててしまいます。

当然ブーストEQやダイナミクス、サチュレーション系プラグインなどを使用していないので、MIX全体は派手さがなく、物足りないものになりますが、この段階でスッキリと聴きたいトラックを聴かせられる状態になっているのが理想です。

今回ご紹介した、基本的な手順で作業をしていくと、だんだん「この帯域はこんな感じの音が集まっているな」とか、「いつも同じような周波数をカットしているな」とかを感じられるようになってきます。

それらを感じられるようになったら、はじめに2MIXを聞いた段階で「この帯域はこの楽器を主役にしよう」とか、「この帯域が混んでるからこの楽器をEQでカットしよう」という方向に考え方をシフトしていくことが出来て、MIXのレベルも上がってきます。

 



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