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MIX師必見!MIXの基礎講座その1〜オケとボーカルのMIX1〜

近年ではDAWの普及により、オンラインでオーディオデータをやり取りしてMIXを行う『MIX師』と呼ばれる方々が増えています。

実際に直接MIXのコツなんかを聞かれることもあるのですが、どうしても感性によるところが大きく、はっきりしたことをお答えできないのが申し訳なく感じています。

その1となる今回は2MIXのオケトラックとボーカルトラックのMIXについて、オケトラック側の処理をしていく方法をご紹介して行きます。




目次

2MIXのオケとボーカルトラックのMIX

先にお断りしておきますが、エンジニアが音源製作の現場で2MIXのオケとボーカルのMIXを行うことはまずありません。バラデータと呼ばれる、各楽器ごとのオーディオデータを受け取りMIXすることがほとんどです。

製作現場ではなく、ライブPA現場ではCDオケなどの2MIXとボーカルトラックのMIXは日常的に行います。

そのため、今回の記事ではライブPAでのMIXに近い方法でMIXをする方法をご紹介していくことをご了承ください。

2MIXオケの状態を確認する

まずは、2MIXになっているオケデータの状態を確認します。

リミッターやマスタリングプロセッサによりレベリングが行われている状態など、データを受け取った段階で波形が『海苔』の様な状態になっているオケだった場合、素直にリミッティング、マスタリング前段階のデータを再送してもらいましょう。

premaster-wave nori-wave

上の画像が理想的なオケデータ、下の画像が『海苔』のようなマスタリング後のデータです。

もし、マスタリング前段階のデータが用意できない場合、一気に難易度が上がってしまいます。

というのも、しっかりリミッティング、マスタリングをされた状態のオーディオデータは各帯域に隙間がありません、つまり、声の入る『スキマ』が埋まっているのです。こういった場合はかなり大胆なEQ処理が必要になるため、原音を保ったままでボーカルを入れる『スキマ』を作るのが大変困難になります。

オケデータの処理

2MIXのオケデータでは、楽器ごとのバランスを取ることができません。そのため、オケトラックを適切に処理してボーカルが入る『スキマ』を作る作業が必要です。

ここからは、オケデータに『スキマ』を作るための処理方法について解説します。

EQでボーカルと被る帯域をカットする

EQ-CUT

オケの中でもセンター定位のスネアドラムとセンター付近に定位したギター、歪んだハモンドオルガンの様なトーンは中音域の主役となるボーカルと周波数帯域が被っています。このままボーカルトラックを重ねると中音域が混み合ったMIXになってしまい、結果としてボーカルが抜けてきません。

単純にEQを使用して中音域をカットするだけでもオケと声の馴染みがよくなります。使用するEQはDAW標準のEQで十分です。

ボーカルトラックとオケトラックを合わせた状態、かつボーカルトラックが少し小さいバランスで聴きながらEQでカットする帯域を動かして行き、声が抜けるようになるポイントが当たりです。

EQポイントの見つけ方については下記記事で詳細にご紹介しています。

M-S処理を行い、Midの中音域をカットする

ボーカルが定位するセンターのボーカルと被る帯域をカットすることで、単純にEQでカットを行うよりも効果的に『スキマ』を作ることができます。

Midの中音域をカットすると、同じくセンター定位のリードギタートラックなどカットされてしまうため、歌メロが無いセクションなどはオートメーションを使用してカットした中音域を戻すのが良いでしょう。

M-S処理とは?

本来ステレオである2MIXをMid成分(L+R)とSide成分(L-R/R-L)に分けて処理する方式のことをさします。

M/SプロセッシングM/S処理: mid/side processing)とは、ステレオ音声の処理方式の1つで、和信号と差信号によって処理をおこなうものである。

ステレオ音声は通常、左(left;L)と右(right;R)の2チャンネルの信号によって構成される。ここから和信号MをL+Rとして、差信号SをL-Rとして得られる。この和信号Mはモノラル成分であり、差信号Sはステレオ差分成分である。また同形のアルゴリズムでL信号をM+S、R信号をM-Sとして復号できる(ただし2倍に増幅される)。

Wikipedia M/Sプロセッシングより

具体的には、モノラルトラックのL+R信号をセンターに定位させ、L-RとR-LをPANのL100とR100に出力アサインさせる方法です。

それぞれのトラックにプロセッシングを行うことで、ステレオ音場の中心と両サイドの音のみを加工することができます。最終的に3つのトラックを合成すると、2倍になったステレオ2MIXが復元されます。

M/S処理については下記記事で詳細に解説しています。そちらもあわせてご参照ください。

オケトラックのPANをほんの少し狭める

ボーカルリバーブの広がり感が他の楽器の定位と被らないようにするためオケトラックのPANをほんの少し狭めるのも有効です。

逆にボーカルリバーブのPANを少し狭めた方が馴染みが良い場合もあります。

M-S処理を行う方法

それでは実際にどのようにして、このM-S処理を行うのかを見ていきましょう。

M-S処理については下記リンク先で詳細に解説をしています。マスタリング用の解説ですが、やっていることは同じです。

詳細に知りたい方は上記リンク先のページをご参照ください。当ページでは以下に簡単に解説をしていきます。

1.M-S対応プラグインを使用する

HEQ

1つめはM-S処理に対応しているプラグインをインサートする方法です。M-S処理に対応したプラグインを持っていれば、この方法が簡単です。

画像のWaves HEQでは簡易的なスペクトラムアナライザー(周波数グラフ)がついているので、作用させる周波数帯域を選択するのが簡単です。

2.手動でM-S処理を行う

2MIXからL-R、L+R、R-Lを作成し、それらを組み合わせてM-S処理を行う方法は以下の通りです。

  1. ステレオの2MIXオケデータをLRそれぞれのモノラルトラックに分割する。
  2. モノラル化した2つのトラックのみをフェーダー0位置、PANセンター位置で書き出してから再度インポートし、Mid成分を作成する。
  3. モノラル化した2つのトラックに位相反転スイッチ付きのプラグインをインサートする。このとき、必ず同じプラグインを両方のトラックにインサートしてください。
    インサートするプラグインは原音を変化させないものが推奨です。EQならフラット、ダイナミクス系ならリダクションメーターが動かない設定にしてください。
  4. R側のトラックのプラグインのみ位相を反転させて、手順2と同様に書き出してからインポートを行いSideのL成分を作成する。
  5. L側のトラックのプラグインのみ位相を反転させて、手順2と同様に書き出してからインポートを行いSideのR成分を作成する。
  6. 手順4と5で作成した2本のトラックのPANをLRに振り切り、グループ化しておく。

上記手順で1つのモノラルトラック(Mid)と擬似的に1つのステレオトラック(Side)が出来上がり、この2つのトラックを同時に再生することで元のステレオトラックが復元されます。

プラグインを使用する場合は、片方のトラックには使用しない場合でも必ず3トラックに同一のプラグインをインサートするようにしてください。そうしないと、サウンドにばらつきが出るだけでなく、プラグインレイテンシーが発生し最終的なステレオ2MIXの時間軸に悪影響をもたらします。

レイテンシーについては下記記事をご参照ください。

今回の『スキマ』作成ではMid側に声の入るスペースを空けることが目的なので、Mid成分の中域〜高域で数ポイントカットするのが良いでしょう。

カットする帯域は前述のEQでボーカルと被る帯域をカットする方法を参考にしてください。




3行でまとめると

  • ボーカル用の『スキマ』を作るのが第一!
  • M-S処理でMid成分に『スキマ』を!
  • マスタリング前のデータを用意したい!

最後に

今回は第一回、オケの2MIXデータの処理編でした。

次回はボーカルトラックの下処理を行う方法をご紹介していきます。

次回記事は下記リンクよりどうぞ

 

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