TIPS

デジタル環境でもフェーダーを±0dB付近で使用するメリットについて

ごく当たり前のことですが、ミキサーには音量をコントロールするために一番手前にフェーダーがついています。また、DAWのミキサービューでも同様にフェーダーがついています。

小型のアナログミキサーなどではスペースの都合からフェーダーではなく、ロータリーフェーダーと呼ばれるツマミがついていますが、機能は同じですね。

一般的なフェーダーは下から8分目位の位置、ロータリーフェーダーなら時計の針で12時や2時、3時方向に0地点が来ているものが多くなっています。メーカーによっては0地点の代わりにUと書かれていたりします。これはユニティーゲインのUです。

今回は、なぜ8分目に0地点が来ているのか、0dB地点の近くで使用した方が良いのか、フェーダーによらないレベルコントロールの方法はあるのか、などについて解説をしていきたいと思います。

0dB地点=ユニティーゲインとは

フェーダー目盛りの0は入力された信号が増幅も減衰もされずにフェーダー回路を通過する地点です。これをユニティーゲインと呼びます。サウンドエンジニアは「規定」と呼んだりもします。

一般的なDAWでは新規トラックを作成するとフェーダーは0の位置に置かれた状態で作成されます。

アナログ回路でのユニティーゲイン

アナログ回路においてはこのユニティーゲイン=規定値は非常に大切です。

アナログ回路上で信号を増幅する際には前段までで発生したノイズが増幅された上に、増幅弾で生じるホワイトノイズが乗ります。

つまり、フェーダーをプラス域で使用すると信号が増幅されてノイズが多くなってしまいます。これをSignal/Noiseの比率=S/N比が悪いと表現します。

当然MIXには不要なノイズは少ない方が望ましいので、基本的にはプラス域で常用することはありません。

また、例えば-10dBなどマイナス方向なら良いのかというところですが、これもあまり望ましくありません。

アナログ回路で信号を減衰させるためには電気抵抗を使用するのですが、電気抵抗の周波数特性は完全にフラットではないからです。例えば、コイルは低域を多く通し、コンデンサは高域を多く通します。

コンサート会場のライブPAではソロパートなどでフェーダーを突いたときに0dB付近になるようにセッティングを行うこともありますが、基本的には0dB地点周辺で使用します。

前述のとおり、0地点ではフェーダー前の信号は増幅も減衰もされないため、信号に不要なノイズが乗ったり、周波数分布が変わったりというマイナス要因を最小限に抑えることが出来るためです。

デジタルミキサーでのユニティーゲイン

デジタルミキサーでは実際にフェーダー回路を信号が通過するわけではありません。フェーダーは数値をプロセッサーに送る入力装置です。

増幅・減衰回路は各メーカーによりますが、多くのミキサーではユニティーゲイン付近とそれ以外の位置でサウンドに与える影響はアナログミキサーよりもはるかに小さいです。

それでも無視できない、という点と主に後述の理由で0dB地点近くで使用するのが一般的です。

DAWでのユニティーゲイン

DAWのフェーダーは実際に触れるわけではなく、画面上の操作子として存在します。

当然信号回路があるわけでもなく、フェーダー位置でS/Nが変わったり周波数特性が変わることはありません。

一部のアナログモデリング系チャンネルストリッププラグインなどでは、アナログフェーダー回路の周波数特性やノイズがモデリングされていますが、DAW標準のフェーダーは位置によって変化するのは音量だけです。

ここは個人差があると思いますが、私はオーディオトラックに関しては特に0dBを意識せずに使用しています。といってもプラス域で常用することはなく、マイナスも-10dB程度までで使用しています。サブマスターとマスタートラックは視認性のために0dBで使用しています。

余談ですが、ProToolsではマスターフェーダー以外はプリフェーダーインサート、マスターフェーダーはポストフェーダーインサートになっているのをご存じでしょうか。2MIXの音量が不足している際には、リミッターのスレッショルドを大きく下げるよりもマスターフェーダーを少し突いた方が仕上がりが良くなります。

フェーダーを0dB付近で使用する理由

前述のとおり、実際に信号を流すアナログ回路ではS/Nの悪化を阻止するため、周波数特性の変化を最小限にするために0dB付近で使用する、という理由がありました。

しかし、デジタルミキサーやDAWでも0dB付近で使用する理由があります。ここからはその理由について解説していきます。

操作性が良い

まずはこの画像をご覧ください。

ここで注目していただきたいのは、フェーダー横に振られた目盛りの間隔です。0dB付近では目盛りの間隔が広くなっているのが見て取れます。

例えば一般的な100mmストロークのフェーダーを上下に10mm動かしたときに、0dB付近であれば±5dB程度のコントロールになりますが、-20dB付近では±10dB位の大きなコントロールになります。

これは、フェーダーカーブが0dB付近で使用されるよう最適化されている結果で、0dB付近の方が繊細な調整が可能になります。これが小型ミキサーの60mmストロークフェーダーではさらに0dB付近にフォーカスされています。

レコーディングやMIX作業では瞬間的に大きなフェーダー操作をする必要はあまりありませんが、ライブPAの現場では特にボーカルフェーダーなどで瞬間的に大きな操作をする必要があります。

現在主流のデジタルコンソールでは、以前のアナログコンソールのような目盛りではなく、独自の目盛りを搭載することも可能ですが、サウンドエンジニアの経験と感覚に合わせて目盛りを目視しなくても細かいコントロールから大きいコントロールまで可能な目盛りが降られています。

DAWではそもそもフェーダーストロークの概念がありませんが、やはり下から8分目程度の位置に0dBポイントが置かれていることが多いです。これも従来の間隔に倣ってのことですね。

また、「このトラックを3dB下げたい」というような場合に、元の位置が-15dBなどでは目盛りが振られておらず感覚に頼ることになります。

センドポイントの影響を受けない

中~大型のコンソールではAUX SENDの信号を取り出すポイントをプリフェーダー、ポストフェーダーで選択可能になっているのが一般的ですが、小型ミキサーでは固定されていることが多いです。

プリフェーダーは主に本線返しのモニターやCUEを送るために使い、ポストフェーダーはエフェクトの送りなどに使用されます。

しかし、「本線以外にモニター回線を4回線用意する必要があるけど、AUXセンドが2Pre/2Postに固定されている」というような場合にはPost送りでモニターを返す必要が出てきます。

メインアウトを使用しているミキサーでPost返しをすると、フェーダー位置によってモニターの音量が上下してしまい、演奏が困難になります。

このプリフェーダーとポストフェーダーの出力レベルが釣り合うポイントが0dBポイントです。フェーダーが0dBに置かれていれば、Pre/Postに音量差が生じることはなく、全て同じ感覚で使用可能です。

パーツ精度による誤差の影響が小さい

フェーダーも機械のパーツである以上、必ず誤差があります。アナログデジタル問わず、フェーダーの目盛りは実位置とは少なからずズレています。

先ほどの目盛り間隔を考えると、0dB付近で使用した際に1mmの誤差が生じるのと、-10dB付近で使用した際に1mmの誤差が生じるのでは実際のズレは大きく変わります。

個人的な経験則ではロータリーフェーダーでの誤差が顕著で、ユニティーゲイン付近を少し外れると大きくズレが生じる印象があります。

レベル管理がしやすい

フェーダーはミキサーのチャンネルやDAWのトラックの最終段に位置します。対して、一般的なミキサーのチャンネル・初期状態でのDAWのトラックのメーターはフェーダー前の信号を表示しています。

これは-16dBの1kHz正弦波を録音した複数のトラックのメーターの様子です。フェーダー位置によらずメーターは同じレベルを示しています。メーター下のピーク値も-16dBで全チャンネル一定になっているのが見て取れると思います。

このメーターとチャンネル・トラック出力段の音量が一致するのがフェーダーが0dBに置かれているときです。

フェーダーをプラス域で使用していると、フェーダー前の段階ではクリップしていない信号が内部クリップを起こしていてもすぐには気付けません。

逆に大きくマイナスで使用していると、各入力間のレベル差やトラック間のレベルをメーターで監視することが困難になります。

また、大きくマイナスで使用しているトラックはそもそもの信号が大きい場合が多く、ダイナミクス系のエフェクトを使用するのが難しくなったりもします。

フェーダー手前でレベルを管理する方法

ここまでは、フェーダーを0dBで使用する理由について解説を行ってきました。

しかし、実際にMIXを行う際にすべてのフェーダーが0dB付近でバランスが取れることはまずありません。録音時のレベルが大きいトラックはフェーダーが低い位置で、録音時のレベルが小さいトラックはフェーダーが高い位置で決まってくるかと思います。

この状態からMIXを始めてしまうと、メーターとフェーダーの位置がちぐはぐで非常に作業がしづらくなります。

また、トラックにプリフェーダーインサートして使用するダイナミクス系のプラグインのコントロールが困難になります。

入力・録音レベルが大きいトラックはヘッドルームが小さく、プラグインで信号が増幅されると内部クリップを起こしやすくなり、レベルが小さいトラックではゲートやコンプのスレッショルドの設定を低いところで合わせなくてはならず、主に操作性において問題があります。

ここからはフェーダーよりも手前でレベルをコントロールする方法を紹介していきます。

ミキサーのGAINを調整する

アナログミキサーでもデジタルミキサーでも、ミキサーのインプットにはマイク・ラインプリアンプを備えたGAIN回路が存在します。補助入力にはGAIN回路が付いていない場合もありますが、少なくともマイク入力には絶対についています。

このGAINを調整してフェーダー前でのバランスを取っておくことで、全部のフェーダーが0dB付近でオペレート可能です。

また、デジタルミキサーでは上記のアナログGAIN回路の直後やEQセクションなどにデジタルGAINの調整機能を備えているモデルもあります。

音質をアナログGAINで決めて、後段に渡すレベルをデジタルGAINで決めることでS/Nや音質の改善をしながらフェーダーも扱いやすい0dB付近に収めることが出来ます。

DAWのクリップゲイン機能を使用する

呼び名はメーカーによって様々ですが、大抵のDAWにはオーディオクリップのGAINを調整する機能が備わっています。ProToolsではクリップゲインと呼ばれる機能です。

この機能では、オーディオトラック上のクリップのゲイン値を調整することで、フェーダー前段でのレベルをコントロールすることが出来ます。

私は主にレベルを下げる方向でこのクリップゲイン機能を使用しています。レベルを上げる際には後述のプラグインを使用して上げることが多いです。

プラグインを使用する

ダイナミクス系のプラグインやチャンネルストリッププラグインなどでは入出力のレベルコントロールが可能です。入力レベルはプラグインが作用するレベルを、出力レベルは後段のプラグインやフェーダーに渡すレベルをそれぞれコントロールすることが可能です。

私はトラックレベルが大きい場合にはクリップゲインを使用して小さくすることが多く。逆に小さい場合にプラグインを使用してトラックレベルを上げることが多いです。

クリップゲインなどのデジタルゲインそのままでブーストすると、解像度の低さが目立ってしまいますが、アナログモデリングプラグインを使用してブーストすることで、音楽的なカラーを付け加えつつレベルを整えることができます。

サウンドのキャラクターを付けたい場合には、先ほどのクリップゲインでレベルを下げてからアナログモデリングプラグインでブーストをしたりする使い方もあります。

こちらに関しては、最終的にダイナミクス系のプラグインやフェーダーに入ってくる段階で扱いやすい信号レベルになっていれば、途中で内部クリップを起こさない限り自分なりのやり方で問題ありません。

注意点を上げるとすれば、レベルを調整するプラグインの数は可能な限り少なくすることです。プラグインチェーンの全てのプラグインでレベルを操作してしまうと、どのプラグインで音量が上下しているのかを把握できなくなってしまいます。

3行でまとめると

  1. フェーダー0dB付近は音質的に有利!
  2. フェーダー0dB付近は操作性&視認性がよい!
  3. フェーダー0dB付近で使うために前段でレベリング!

最後に

今回はミキサーやDAWのフェーダーを0dB付近で使うメリットや、レベルを調整して0dB付近で使用する方法について解説をしてきました。

本文中でも紹介しましたが、ライブPAでもレコーディングでもフェーダーは0dB付近で使用した方が音質や操作性、視認性など様々な面で有利になります。

 

当ブログのFacebookページです。 少しでも皆様のお役に立てたら「いいね!」していただけると歓喜します。

 

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です