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DAWの宿命!レイテンシー=信号遅延が発生する原因とその対策

DAWで、特に録音時に避けられない問題となる信号遅延=レイテンシー。再生、MIX作業中には気にならない遅延でも、楽器やボーカルの録音時には録音作業が困難になるほどの大きな遅延を感じる場合があります。

レイテンシーはDAWの設定や周辺機器の選択である程度抑え込むことが可能ですが、DAW内部から完全に取り去ることはできません。

今回は、そもそもレイテンシーとはなにか?なぜ発生するのか?対策は?などについてご紹介していきます。




目次

信号遅延=レイテンシーとは?

レイテンシーとは、デジタルレコーディングの信号経路で発生する信号遅延のことです。

レイテンシーは録音、再生、プロセッシングと至るところで発生しますが、以下が発生する主なタイミングです。

1.オーディオインターフェースでA/D、D/A変換する際に発生するレイテンシー

オーディオインターフェースに入力されたアナログ信号をDAWで使用するデジタル信号に変換する(A/D変換)時、逆にデジタル信号をモニターするためにアナログ信号に変換する(D/A変換)時にそれぞれレイテンシーが発生します。

高品位なAD/DAコンバーターを搭載しているオーディオインターフェースではこの段階でのレイテンシーは小さくなります。

2.オーディオインターフェイスのドライバーが出すレイテンシー

オーディオインターフェースの多くはレイテンシーの小さいASIOドライバー(Windows)、Core Audioドライバー(Mac)にそれぞれ対応しておりますが、それでも少なからずレイテンシーは発生します。逆に上記のドライバーに対応していないオーディオ入出力を使用すると大きなレイテンシーが発生してしまいます。

3.プラグインから発生するレイテンシー

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DAW内でプラグインを使用したプロセッシングを行うタイミングでもレイテンシーは発生します。

比較的処理の軽いプラグインでは気にならないレイテンシーでも、マスタリングプロセッサやアナログモデリングプラグインなどの処理の重いプラグインは大きなレイテンシーを持ちます。

多くのDAWには遅延補正機能が備わっているため、MIX作業中にはレイテンシーはあまり気にならないかも知れませんが、遅延補正はレイテンシーのあるトラックに他のトラックを合わせる方向で補正するため、DAW内の全トラックが遅延した状態になっていることに注意が必要です。また、マスタートラックには遅延補正はかかりません。

MIDIキーボードを使用してインストゥルメントプラグインを演奏する場合にもレイテンシーは発生しています。

4.バッファーサイズの大きさによって発生する遅延

バッファーとは、AD変換されたオーディオ信号がオーディオインターフェースからPCに届ける際に、一時的にデータを溜めおく処理で、このときに溜めおく量がバッファーサイズです。溜めおいている間の時間がレイテンシーとして現れます。

入って来たデータを安定して連続的に処理するためにはCPUが常にかなりの稼働状態を強いられます。そのため、一定の量を溜めて置いてから一気に処理することでCPUの負荷を軽減する必要があります。そのためにバッファー処理が必要になります。

CPUの処理速度が高ければバッファーサイズを小さめに設定して、レイテンシーを抑えることが可能ですが、トラック数が多かったり、プラグインを複数使用している場合にバッファーサイズを小さく設定すると、再生や録音が正常に行えない可能性があります。

イメージとしては水道から一定の量の水(オーディオデータ)が出ていて、バケツリレーをして目的地まで運ぶ際のバケツのサイズ(バッファーサイズ)が大きい場合と小さい場合の差です。

バケツが大きい場合はリレーする人は水が溜まってから次の人へ渡す(CPUの仕事)間隔が長いのですが、小さいバケツを使用する場合はすぐに水が溜まってしまうので、すぐにバケツを渡さなくてはなりません。

この処理は出力時にも行われるため、入力された音をモニタリングする行程ではバッファーによるレイテンシーは2回発生します。

レイテンシーで困ること

前述の通り、遅延補正が働いているDAWではMIX作業時にレイテンシーに悩まされることはほとんどありません。マスタートラックに重いプラグインを多くインサートした際に再生操作をしてから実際に音が流れ始めるまでがちょっと長くなる位なものです。

では、録音時はどうでしょう?

録音をする際には、プレイヤーのモニターのために録音する音をヘッドホンなどに返さなくてはなりません。そのモニター音にはAD/DA時のレイテンシー、ドライバーのレイテンシー、入出力バッファーのレイテンシーが重なり、かなり大きなレイテンシーが発生します。

最悪、自分の演奏音にディレイがかかったような聞こえ方になってしまう場合もあります。これではレコーディングどころではありません。

レイテンシーの対策

それでは、レイテンシーの影響をできるだけ受けないようにするために、発生要員別にレイテンシーへの対策を考えていきましょう。

1.AD/DA時のレイテンシー対策

オーディオインターフェース内で発生するA/D変換、D/A変換時のレイテンシーには以下の対策が講じられます。

高品位なAD/DAが備わったオーディオインターフェースを使用する

高品位なAD/DAコンバーターを搭載したオーディオインターフェースを使用することで、AD/DA変換時のレイテンシーを最小限に抑えることができます。

また、ThunderBoltやUSB3などPCと接続するインターフェースが高速であれば伝送経路でのレイテンシーも抑えることができます。

ダイレクトモニタリングが可能なオーディオインターフェースを使用する

ダイレクトモニタリングとは、オーディオインターフェースに入力されたアナログ信号をA/D変換してDAWに入力するルートとアナログ信号のままモニターやヘッドホンに出力することを指します。

こうすることで、AD/DA変換のみならず、PC内部で発生するバッファリングやプロセッシングなどの影響も受けないため、レイテンシーの影響を受けることなくレコーディングを行うことができます。

2.ドライバーが発生させるレイテンシーへの対策

WindowsではASIOドライバー対応、MacではCore Audioドライバー対応のオーディオインターフェースを使用しましょう。

余談ですが、ASIOとは“Audio Stream Input Output”の略称で、『アジオ』と読むことが多いです。ASIOドライバーはCubaseやVST企画で有名なSteinberg社が開発しています。

また、ドライバーやオーディオインターフェースのファームウェアを最新のバージョンすることで新たなレイテンシー対策がなされる場合もあります。その他にも、既知の不具合修正などがあるため、レイテンシー対策に限らずドライバー、ファームウェアは常に最新のものにしておきましょう。

3.プラグインが発生させるレイテンシーへの対策

ごく当たり前のことですが、録音時にはプラグインを使用しないことが挙げられます。レイテンシーの大きいプラグインは、設定が決まり次第フリーズやバウンスしておくとよいでしょう。

ボーカル録音をする場合、録音前にオケの2MIXを書き出して、録音用に別のセッションファイルを作成してから録音するのが非常に効果的です。ボーカルMIXを行う段階では、元のセッションファイルに録音したボーカルデータをインポートすれば続きを始めることが可能です。

4.バッファーサイズによって発生するレイテンシーへの対策

これも当たり前の答えになってしまいますが、録音中はバッファーサイズを小さくするのが唯一の対策になります。

と言っても、単純にバッファーサイズを小さくすると再生が追いつかなってしまうので、初期設定値から徐々に小さくしていき、再生ができなくなる手前のバッファーサイズに設定するとよいでしょう。

録音時はバッファーサイズを小さく、MIX時には大きめのバッファーと状況により設定を変えながら使用するのがよいでしょう。

ProTools環境での実戦的なバッファーサイズの設定方法については下記記事で詳しく解説しています。




最も有効なレイテンシー対策

幾つかのレイテンシー対策を見てきましたが、録音時にもっとも有効な対策はダイレクトモニタリング機能があるオーディオインターフェースやDSPミキサー内臓オーディオインターフェースを使用することです。

A/D変換→バッファリング→プロセッシング→バッファリング→D/A変換というレイテンシーが発生する経路を通さずにモニタリングすることが重要になってきます。

また、モニター用に小型のアナログミキサーを使用するのも効果的です。DAWの出力と楽器やマイクロフォンの出力をアナログミキサーに入力してモニタリングしつつ、アナログミキサーから楽器やマイクロフォンの音のみをオーディオインターフェースに出力すれば、録音時にレイテンシーはありません。

どちらの場合も録音中はDAWの録音トラックをミュートしておく必要があります。ミュートしておかないと、モニターからダイレクト音とDAW経由でレイテンシーがある音が重なって聴こえてしまいます。

エレキギターをライン録音する際のレイテンシー対策

エレキギターをライン録音する際にはエフェクトがかかっていないドライ音を録音し、後でリアンプをしたり、ギターアンププラグインを使用して歪んだサウンドを作っていくことが多いかと思いますが、上記のダイレクトモニタリングでは歪みサウンドをモニターしつつドライ音をレコーディングすることができません。

歪みサウンドをモニターするためにギターアンププラグインを使用してレコーディングを行うと、大抵の場合レイテンシーに悩まされます。バッファーサイズを下げると今度はギターアンププラグインが満足に動かなくなってしまったりもして非常にもどかしいです。

ギタリストのDTMで必ず壁になるのがこの部分です。ここからは、エレキギター録音時にドライ音を録音しながら、レイテンシーの少ない歪みサウンドをモニターする方法を3つご紹介します。

1.DIを使用して信号を分岐する

エレキギターの出力をDIに入力し、XLR出力をオーディオインターフェースに直接接続し、Para-Outをギター用エフェクターなどに接続、エフェクターの出力をオーディオインターフェースの別の端子に接続します。

DAW内に録音用のオーディオトラックとモニター用のAUX入力トラックを作成し、録音トラックにはDIのXLR出力を入力、モニター用トラックの入力にはギターエフェクターからの出力を選択します。

録音用は録音するだけ、モニター用は演奏中にモニターするだけ、と分けることで、ドライ音を録音しつつ、レイテンシーの少ない歪みサウンドをモニターすることが可能です。DSPミキサー搭載オーディオインターフェースを使用している場合は、DAWにモニター用トラックを作成せずに、DSPミキサーからモニターを行うことができます。

配線が煩わしいことと、2入力以上のオーディオインターフェースが必要なことがデメリットですが、DIのPara-Outは入力端子の並列回路であるため、音質的には一番原音に近い状態で録音が行えるといったメリットがあります。

2.DSPギターアンプ内臓のオーディオインターフェースを使用する

オーディオインターフェースのDSPミキサーにギターアンププラグインがインサート可能な場合、それらを使用するのがよいでしょう。録音する音にはエフェクトを行わず、モニター音だけにエフェクトを行うように設定を行う必要があります。

この方法ではエレキギターをオーディオインターフェースに直接接続するだけなので、最も簡単にセットアップが行えるのが利点ですが、内臓DSPギターアンプのレイテンシーは発生してしまうため、ものによっては効果が薄い場合もあります。

3.スルー出力のあるギタープリアンプなどを使用する

DIを使用する場合と似ていますが、スルー出力などドライ音を別の端子から出力可能なプリアンプなどを使用することでも快敵にライン録音を行うことができます。

プリアンプ出力をモニター用トラックやチャンネルに入力しつつ、チューナーアウトや、ダイレクトアウトなどのドライ出力を録音トラックに入力しレコーディングを行います。ギター用プリアンプなどのレイテンシーはライブで使用されることを前提としているため、レコーディング機器に比べて低レイテンシーであるため効果的です。

配線が比較的単純な上に、録音段階である程度サウンドを決めてプリアンプの設定を保存しておくことで、リアンプ時に保存したところからエディット可能になるのが一番のメリットです。逆にダイレクトアウトやチューナーアウトはバッファアンプが回路に組み込まれているため、少なからず音質が変化してしまうことがデメリットとして挙げられます。

上記3点、どの方法を使用する場合でもDAW内の録音トラックはミュートしておく必要があります。




3行でまとめると

  • 録音中は可能な範囲でバッファサイズを下げる!
  • ダイレクトモニタリングでゼロレイテンシー!
  • 録音とモニターで信号経路を分岐!

最後に

レイテンシーとその対策について、いかがだったでしょうか?

私もDTMを始めたときには、ギターのライン録音に散々苦戦していました。そのときは技術も知識も機材もなかったので、ドライ音をモニターしながら録音したり。歪みエフェクターを掛け取りしたりしていました。オーディオインターフェースのDSPで有名アンプがモデリングできるなんて、いい時代です。

ちなみに、レイテンシーはサンプルベースで影響を受けるので、サンプリングレートが高く、サンプル数が多い方が実際の遅延時間は短くなります。結局ハイサンプリングレート環境でCPU負荷を軽減するためにバッファーサイズを上げたりするので、どっこいどっこいだったりもするのですが。

以下の記事では、ProTools環境での実戦的なレイテンシー対策について設定検証などを行っております。合わせてご覧ください。

 


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