前回はリハーサル時間の有効活用法についてでしたが、今回は効果的にリハを進行するための、モニターオーダーの方法についての記事です。
ライブハウスでのライブ経験がある方なら、リハーサル時にPAから『モニターなに返しましょうか?』とか、『モニターいかがですか?』などと聞かれたことがあると思います。
この時の効果的な返答やオーダー方法についてご紹介していきます。
なお、この記事はキャパシティ300人位までの会場で、ステージの間口も比較的狭い場合について書いています。それ以上の規模の会場では当てはまらないこともあることをご了承ください。
目次
よくあるモニターオーダー
モニターの要望で最も多いものはボーカリストから、『自分の声を上げてください。』というものです。
ボーカルマイクをモニターから返す音量には上限があるので、残念ながらある程度以上には返すことができません。
これは、立ち位置付近の音響特性、ボーカルマイクへのモニター音の被り込みなどの要因から一定以上に返すとフィードバック(ハウリング)を起こしたり、モニタースピーカーやそれらを駆動するパワーアンプの出力によってはモニタースピーカーを破損させる恐れがあるからです。
また、単純にマイクと口の距離が遠いことが自分の声が聞こえない原因である場合も多いです。
多くの会場でボーカルマイクとして使われているSHURE SM58の適正距離は口の正面から1〜3cm位です。それ以上離れると、マイクに入るレベルが下がり、モニターから返せる音量も同様に下がってしまいます。
フィードバック(ハウリング)については以下の記事もご覧ください。
モニターオーダー方法
では、実際にはどのようにオーダーすればよいのでしょうか?
『自分の声を上げてください。』 = 自分の声が聞こえていない状態
この状態であることは間違いないのですが、例えば、『現在なにが聞こえているか?』という情報が加わるだけで別の対処法が生まれる可能性があります。
『今の状態だと、ギターの音が大きく聞こえていて、自分の声が聞きづらいので自分の声を上げてください。』というオーダーであれば、ギターの音量を下げることで相対的に自分の声の音量を上げる、という別の対処法が生まれます。
このように、モニターに関しては足し算ではなく、引き算のオーダーをすることで、全体的なサウンドが上手くまとまることが多いです。
ボーカルマイクのモニター音量が下がることで、ライブの天敵=フィードバック(ハウリング)も発生しづらくなります。
オケを使用したソロアーティストの場合の引き算はさらに単純です。
『自分の声を上げてください。』に対して、『これ以上は上がりません。』と返された場合、『では、オケの音を下げてください。』とオーダーすることでほとんどの場合は解決します。
また、モニタースピーカーには『指向性』と呼ばれる、音が聞き取りやすい角度があります。逆に言うと、この角度から外れると一気に音が聞き取りづらくなります。
モニタースピーカーの向きや、立ち位置を調整することでモニターが聞き取りやすくなることもあります。
会場によっては構造上、音が聞こえづらいデッドスポットもあるので、ある程度ステージ上を動き回りながらリハーサルをやっておくとよいでしょう。
モニターの適正な音量
それでは、モニターからはなにをどれ位返してもらうのがよいのでしょうか?
ドラム、ベース、ギター、ボーカルのシンプルな4人編成のバンドを例に考えて行きましょう。
リハーサル時の各自のモニター
- ドラマーには、ボーカルを大きく
- ベーシストには、ドラム、ボーカル、ギター
- ギタリストには、ドラム、ボーカル、ベース
- ボーカリストには、自分の声のみをかなり大きく
上記のようにモニターが返っている状態だったとします。
今にもボーカリストのモニターからフィードバックが発生しそうです。なぜこうなったかを考えると、以下のように想像できます。
各自のモニターの理由
- ドラマーにはギターアンプとベースアンプの音は十分に聞こえている。
だから、ボーカルを大きく返してもらった。 - ベーシストには自分のアンプの音が大きく聞こえていて他の楽器が聞こえづらかった。
だから、自分以外の音を全て返してもらった。 - ギタリストもベーシスト同様、自分のアンプの音が大きく聞こえていた。
だから、自分以外の音を全て返してもらった。 - ボーカリストは自分の声以外は聞こえていて、自分の声が聞き取りづらかった。
だから、自分の声をかなり大きく返してもらった。
恐らくモニター要望の理由はこんなところではないでしょうか?
この状態ではギターアンプ、ベースアンプの音量はかなり大きいことが予想されます。
ステージ上のアンプの音量が大きいと、当然客席にも大音量で届きます。
会場によってはミキサーでフェーダーを絞り切っても(メインスピーカーから出力しなくても)、他の楽器、ボーカルに比べてアンプの音量が大きい状態になってしまう場合も少なくありません。
だからと言って、上記のようにモニターが返っている状態から、ギターアンプ、ベースアンプの音量を下げると、今度はギタリスト、ベーシストが『自分の音が聞こえないから、モニターから自分の音を返してほしい』というオーダーを出してくることでしょう。
このように高いレベル(音量)でバランスを取ってしまうと、本番中にボーカルマイクがちょっと下を向いただけでフィードバックが発生してしまいます。そして、客席に漏れ出た音が大きくPA側で制御が効かない状況になってしまう恐れがあります。
また、本番中などに、モニターの指向を外れた瞬間に聞こえる音がガラっと変わってしまい、演奏がしづらい状態になります。
引き算でオーダーしたモニター
- ドラマーにはギターアンプとベースアンプの音は十分に聞こえている。
だから、ギターとベースのアンプ音量を下げてもらった。
アンプの音量が下がったことで、若干ギターとベースが聞き取りづらくなったので、
ベース、ギター、ボーカルを少しずつ返してもらった。 - ベーシストには自分のアンプの音が大きく聞こえていて他の楽器が聞こえづらかった。
だから、ベースアンプの音量を下げた。
アンプの音量が下がったことでドラムの生音が聞きやすくなったので、
ボーカルとギターを少しずつ返してもらった。 - ギタリストもベーシスト同様、自分のアンプの音が大きく聞こえていた。
だから、ギターアンプの音量を下げた。
アンプの音量が下がったことでドラムの生音が聞きやすくなったので、
ボーカルとベースを少しずつ返してもらった。 - ボーカリストは自分の声以外は聞こえていて、自分の声が聞き取りづらかった。
だから、ギターとベースのアンプ音量を下げてもらった。
アンプの音量が下がったことで、自分の声が十分聞こえるようになった。
ギターアンプとベースアンプの音量を下げたことで音が通りやすくなり、モニターから返っている音量が下がっています。
こうすることで客席に漏れ出る音量も下がり、PAスピーカーから客席全体に満遍なく音を届けることが可能になります。
余談ですが、音が大きいイメージのあるメタル系のバンドでも、中音は意外とすっきり小さめにまとまっていることが多いです。
※今回は説明の為に極端な例を出しています。
実際には、加工されたドラムの音をモニターから返してほしい、などのオーダーがあるため、楽器隊のモニターにはドラムの音を返す場合が多いです。
リハーサルスタジオでのバンドリハーサル、バンド練習の時には、スタジオ常設のPA機器にボーカルマイクと同期、キーボードなどのライン機器を接続し、ドラムと弦楽器はPA機器で増幅せず、生音とアンプの音でモニタリングすると思います。
このとき、一番音量を変化させられないのが、ドラムです。そのため、ドラムの生音に合わせて他の楽器の音量を決めて行くと思います。ライブハウスのステージ上でも同様に、ドラムの生音に合わせて各種アンプの音量を調節することで、モニターからの音量を最小限に抑えて、スッキリとモニタリングすることが可能です。
リハーサルスタジオのPAシステムを使用して効果的にスタジオリハーサルを行う方法については、下記記事をご覧ください。
実践的なモニターオーダー法
リハーサル開始時のオーダーで、メインボーカルが必要なモニターからメインボーカルを返してもらい、他の楽器類をモニターから一切返さない状態にします。リハーサルスタジオの状態を再現するイメージです。
この状態でリハーサルを始めて、ドラムの音量に対して他の楽器の音量を合わせます。ある程度音量が合ったところで、モニターから必要なものをもらいます。
慣れてくれば、始めからモニターを返してもらいつつ進めるのも良いと思うのですが、楽器アンプからの適正音量をつかめるまでは、この方法がおすすめです。ちなみに、ZAL的楽器アンプの適正音量は、『自分の音を自分で聞き取れる位』です。
3行でまとめると
- どうして聞こえないか、今なにが聞こえているかをPAに伝える!
- 足し算ではなく引き算のモニターを!
- アンプのボリュームは自分が聞こえる程度で!
最後に
モニターのオーダーで外音にまで影響は出るものです。モニターだけでなく、ボリュームが調整可能な楽器アンプも音量にも気をつけてみてください。
弦楽器隊はリハーサルスタジオの時に出していた音量を基準にすると大外れはないでしょう。
Marshall JCMシリーズやRoland JC-120、AMPEG SVTシリーズなどのメジャーなアンプに関しては、ある程度自分が使う時の目盛り位置を覚えておくのも良いと思います。
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