音響屋さんやDTMerやDJだけではなく、一般的にも音楽を聴くのに使用するヘッドホン、ヘッドホンと言っても各社から多様なモデルが発売されていて、どれを使えば良いか悩むことも多いと思います。
今回はそんな時に役立つヘッドホンの選び方について解説していきます。
確実におすすめできる方法は、実際にヘッドホン売り場で試聴するといったものですが、生活圏や環境もあるので厳しい方もいらっしゃると思います。試聴可能な売り場でも膨大な中から聴いて選んでいくと、途中で聴き疲れて判断が出来なくなっていきます。
この記事では、ヘッドホンのカタログなどから大体のサウンドの傾向を読む方法をお伝えしていきます。
目次
ヘッドホンのスペックの読み方
ヘッドホン売り場や各メーカーのカタログ、ホームページを見ると仕様・スペックなどの欄があります。
この欄内の数字類の意味を大体把握することで、そのヘッドホンの想定使用目的などが見えてきます。
以下、項目ごとに見ていきます。
密閉型or開放型
ヘッドホンの耳当て部分の裏側が密閉されているか、開放されているかについての項目です。開放型はオープンエアー型とも言われます。
密閉型ヘッドホンの特徴
密閉型は音漏れが少なく、周囲の雑音も耳に届きづらいので、比較的騒がしい場所での使用などに適しています。
音質的には密閉されていることで特定周波数の共鳴が起こりやすくなり、音の歪みが発生しやすくなります。当然メーカーも対策を行っているので、大きな問題として捉えるほどのことではないですが、ピュアオーディオの方にはあまり好まれないタイプです。
また、装着している感が強く、長時間使用していると耳のヘッドホンに当たる部分が痛くなってきたりします。
ライブ会場で使用する音響エンジニアや、ステージ上で次のトラックをモニターするDJ、夜間作業が多いDTMerにおすすめなのがこちらのタイプです。
オープンエアー型ヘッドホンの特徴
対するオープンエアーは耳を覆う部分の裏側がメッシュ地などで覆われ空気が抜けて行きます。そのため、外部からの音もしっかり聞こえてきますし、自分が聴いているものも外部に丸聞こえです。
音質的には特定周波数の共鳴も起こらないため、自然にそこで鳴っているかのような音のような聞こえ方をします。
また、装着感もあまり強くないため、長時間の使用でも疲れにくい傾向にあります。
ご自宅などで純粋に音楽を楽しみたいリスナーの方にはこちらのタイプのヘッドホンがおすすめです。
ドライバ口径
ヘッドホンの内部のダイヤフラムの口径で、単位は直径mmで表されます。
理論的には大きいほど低域の再生には有利ですが、ハウジングの設計も音質には関わってくるので参考程度にするのがよいでしょう。
インピーダンス
ヘッドホンのインピーダンス値(交流抵抗値)で単位はΩ(オーム)です。
原理としては抵抗値が大きいほど音は小さくなるのですが、特に気にする必要はありません。高感度のヘッドホンは比較的インピーダンス値が高い傾向にあります。
感度
聞きなれない言葉ですが、ヘッドホンに1mWの信号を入力した時の出力音圧で、単位はdB(デシベル)です。多くのヘッドホンは90dB〜110dB位です。
単純に数字が大きければ音の大きいヘッドホンだと思っていただいて問題ないですが、前述のインピーダンスや最大入力との兼ね合いもあるので、この数字だけ見ても実際に使用する際の音圧は読み取れません。
最大入力
そのヘッドホンに出力可能な最大入力の値で単位はmW(ミリワット)やW(ワット)です。
この値が大きければ、音量調節の幅が広いと思っていただいて問題ありません。モニターヘッドホンやDJ用ヘッドホンなど、インピーダンスが高いものの方が大きい値になっていることが多いです。
ポータブルオーディオプレイヤーなどに直接接続する場合は、入力信号が小さく十分に鳴らしきれない可能性もありますが、よほどの音量で聴くのでなければ特に問題にはならないと思います。
再生周波数帯域
文字通りヘッドホンが再生可能な周波数帯域で、表記としては(◯◯Hz〜◯◯kHz)という感じです。
メーカーによって計測方法がまちまちですが、この数字の幅、特に上限が高いものは高品位なヘッドホンと言えます。ハイレゾオーディオなどを聴く場合は上限が40kHzとかになっているものを選ぶとよいでしょう。
最低でも人間の可聴帯域(20Hz〜20kHz)をカバーしているものを選んでおけば間違いないでしょう。
再生周波数特性がグラフで表示されているモデルの場合、20Hzから20kHzの間に大きな山や谷が無いものがモニター用としては優れていると言えます。
小さい音量で聴いているときには低域でのマスキングが起こりづらく、高域が目立って聞こえることが多いため、意図的に低域が出ているモデルもあります。このようなモデルはリスニング用には良いのですが、モニター用として使用する際には注意が必要です。
MIX用のモニターに低域がよく出るヘッドホンを使用した場合、エンジニアの耳には低域がよく聞こえるため、低域を削ったMIXになる傾向にあります。低域だけに限らずどこかの帯域が強調されたヘッドホンを使用すると、MIXは逆にその帯域が物足りない仕上がりになります。
当然、ヘッドホンへの慣れというものがあるので、慣れたヘッドホンでこんな感じで鳴っていれば大丈夫という基準はあります。
ケーブル/プラグ形状
ヘッドホンと再生機器を接続するケーブルとプラグについての項目です。
ヘッドホンのケーブルは簡単には延長出来ないため、ケーブルの長さは事前にチェックしておいた方がよいでしょう。
DJ用ヘッドホンなどはカールコードが採用されている場合が多くそのままバッグなどに入れると、バッグの中身を全て巻き込んでしまったりするので注意が必要です。
また、ヘッドホンの中で一番外部からのダメージに弱いのがケーブル部分です。ケーブルが着脱可能なモデルは故障の際の対策も取りやすいので便利です。
プラグはポータブルオーディオなどに使用可能なステレオミニプラグと、DJ機器やプロオーディオ機器に使用可能なステレオ標準プラグのどちらがついているかを用途を考えて見ておきましょう。近年のヘッドホンはステレオミニプラグが付いていて、ステレオ標準プラグへの変換コネクタが付属しているものが多いです。
変換コネクタを装着すると、電気的な接点の数が増えて音質的に不利になる、との理由から変換コネクタを付属せず、ステレオ標準プラグのみのヘッドホンもあるので注意が必要です。
参考までに、業界標準であるSONYの MDR-CD900STは2.5メーターのケーブルにステレオ標準プラグのみの仕様となっています。
重量
本体の重さです。100〜300g位のものが多いでしょうか…。
中にはとんでもなく重いヘッドホンもあるので注意が必要です。金属の方がプラスチックよりも重いことを考えると、逆にあんまり軽いのも強度の面で不安が残ります。
ヘッドホンの選び方
上記のようなスペックも参考にしつつ、実際にヘッドホンを選ぶときに注目すべきポイントを挙げていきます。
ヘッドホンの使用目的
ヘッドホンはリスニング用、モニター用、DJ用など使用目的に分けて幾つかの種類に分類されています。
分類以外の使用をすると音が鳴らない、などということはなく、メーカーが行っているサウンドチューニングの目安として捉えることができます。
リスニング用ヘッドホンの特徴
リスニング用ヘッドホンは、チューニングはそれぞれで比較的個性的なサウンドのモデルが多いですが、全体的な傾向としてはMIXされたものがしっかり混ざって聞こえるヘッドホンで文字通りリスニングに最適です。
MIXに使用するとすれば、出来上がった2MIXをリスナー目線で聴くときでしょうか。エンドユーザー目線で聴いてみることは非常に重要です。
モデルによってはかなり低域を強調しているモデルもありますが、このタイプのヘッドホンで聴いたときにMIXが破綻しているときは、どこかMIXに問題があると考えてよいでしょう。
モニター用ヘッドホンの特徴
モニター用ヘッドホンは、音の分離の良さ、安定した定位、フラットな周波数特性を目指してチューニングされており、原音忠実なサウンド傾向です。
音を扱う作業ではほぼ必須のヘッドホンで、MIXだけでなく、録音時にプレイヤーが使用するヘッドホンにも使用されます。
リスニング用ヘッドホンに比べると最大音圧が高く設定されており、内部、外部ともに耐久性も高めです。
参考までに、PA現場でのミキサー位置の音圧は音の大きい現場だと100dB〜110dBにもなります。その轟音のなかで一つの音を聴く(CUEする)ためにはかなり高い音圧を連続的に出力することが出来るヘッドホンが必要になります。
リスニングにモニター用ヘッドホンを使用すると、音の分離の良さ、安定した定位などが逆効果で、各パートがバラバラで真っ平らな空間で音が鳴ってるような、つまらないMIXに聞こえてしまいます。
逆を返せば、モニター用ヘッドホンで他人のMIXを聴くことで、どういった定位感で、各パートのセパレーションをどのように取っているのか、を聴くことができます。これを利用したMIXの勉強などにはよいと思います。
DJ用ヘッドホンの特徴
DJ用ヘッドホンは、持ち運んで使用することが前提となってるために、全体的に耐久性に優れたモデルが多い傾向にあります。
使用時に不用意に垂れ下がらないように短めのカールコードが採用されていたり、ハウジングが回転可能だったり、持ち運びがしやすいように折りたためる構造になっていたりするモデルが多いのが特徴です。
また、DJブース内で使用する際に、正確にトラックの頭出し、リズム合わせを行うために、最大出力音圧も高く調整されています。
サウンド面ではリスニング用ヘッドホンよりですが、高めの音圧で使用する想定であるため、小音量時のバランスはあまり良くない傾向にあります。
以下、DJ用ヘッドホンを選ぶ際に重要視すべき項目2つについて解説します。
1.ハウジング回転の可否
個人的にはとても重要なポイントです。
どういうことかと言いますと、よくDJがハウジング(耳に当てる部分)を回転させて片方の耳だけにヘッドホンを当てていますが、あれが出来るかどうかはDJだけでなく音響エンジニア的にも素早くスピーカーとの聴き比べをするために大変重要です。
余談ですが、DJが片耳に当てて何をやっているかというと、会場の音のリズムと次に再生するトラックのリズムを合わせたり、次のトラックの再生ポイントを探っているんです。別にファッションでやっているわけじゃないんです。
しっかり耳に押し付けて使用するので、イヤーパッド(耳に当たる部分)の柔軟性や強度も重要なポイントです。
2.折りたたみの可否
これは他の種類のヘッドホンにも言えることですが、ヘッドホンを持ち歩く場合に折りたたんで収納出来るかどうかは大変重要です。
折りたためないヘッドホンは持ち運びの際に大変かさばりますし、移動中に故障する可能性も高まります。
交換用パーツ供給の有無
ヘッドホンには内部のダイヤフラム、外部のイヤーパッドなど部品のなかに消耗品が含まれています。
これらの消耗品がパーツ単位で入手可能かどうか、手頃な価格で入手可能かどうかも、ヘッドホンを長く使っていく上ではとても重要です。
特にイヤーパッドは使用すればするほど劣化していき、繊維がボロボロになってきます。こうなると空気が抜けやすくなり、サウンド面にも悪影響が出てきます。
3行でまとめると
- モニター用途には密閉型がよい
- オープンエアーは主にリスニング用
- 音質だけでなく持ち運びや使用目的も考えて
最後に
今回ヘッドホンの選び方についてだったのですが、正直なところモニター用ヘッドホンについては『慣れ』の要素が非常に大きく、ある程度のスペックのものであれば慣れているかどうかが最も重要です。
どんな用途にでもおすすめ出来る万能型ヘッドホンというものは無く、業界標準のSONY MDR-CD900STもリスニング用としては音が分離しすぎていて聴いていて疲れる、良い音とは言えないヘッドホンです。
スペックから読み取れない要素として、耳や頭の形との相性というのも大きいと思います。相性の悪いヘッドホンはすぐに耳のふちが痛くなってきたりするので、モニタリング、リスニングどころではなくなってしまうので、可能であれば一度実際に装着してみるのが一番かと思います。
また、ヘッドホンの購入直後は大音量を突っ込まずに、ある程度の音量でダイヤフラムを慣らす作業(エイジング)を行うのがおすすめです。エイジングにより、鳴りづらかった帯域が自然に出るようになり、音の硬さも取れてきます。
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