ストラトキャスタータイプなどのシングルコイルピックアップ搭載ギターは、レスポールタイプのようにハムバッカーを搭載したギターよりも繊細でキレのあるサウンドを得意としています。
しかし、シングルコイルピックアップは構造的に外来ノイズに弱く、深く歪ませたサウンドを出そうとするとしっかりとしたノイズ対策が必須となる上、ピックアップの出力がハムバッカーと比べて小さめのモデルが多く、いわゆる『太い』歪みサウンドを得るのが若干苦手です。
そこで、ピックアップをハムバッカーに変更する改造でハムバッカーサウンドを得ることが多いのですが、3シングルのストラトや、2シングルのテレキャスのルックス的な良さを台無しにしてしまいがちになります。また、ギターのザグリ(ピックアップや電装系を入れるための削り込み)の形状次第では、木部加工が必要になる大規模な改造になってしまいます。
前置きが長くなりましたが、今回はそんな悩みを解決してくれる、シングルコイルサイズのハムバッカーをご紹介してまいります。
スタックタイプのシングルコイルも、厳密にはハムバッカーに分類されますが、今回の記事ではハムバッカーサウンドを得られるピックアップに絞ってご紹介していきます。
目次
シングルコイルサイズハムバッカーとは?
読んで時のごとく、シングルコイルサイズのハムバッカーのことを指します。
前述の通り、木部に加工が必要なく、また、シングルコイルのルックスをある程度保てるので、ギターの見た目をキープしつつ、ハムバッカーサウンドを得ることができます。
全体的なサウンドの傾向はハムバッカーよりも若干繊細なサウンドです。ボディ材による影響も多分にありますが、フルサイズのハムバッカーよりも若干パワーが落ちる分、抜けが良いサウンドが得られる印象があります。
シングルサイズハムの使い所
実際にシングルサイズハムを搭載する場合について考えてみましょう。
シングルサイズハムをマウントする目的は、『ハムバッカーのように太いサウンドが欲しい』と言うところに集約されてくるかと思います。
そのため、もっとも多く使用されているシチュエーションはストラトキャスターなどのSSS配列(スリーシングル)のブリッジ(リア)ピックアップにシングルサイズハムを搭載する、という場合です。これにより、実際にはSSH配列となり、ブリッジポジションではハムバッカーの太いサウンド、フロントやセンターのポジションやハーフトーンではシングルコイルの繊細なサウンドをそれぞれ得ることが可能です。
元がSSH配列のギターのフロントピックアップをシングルサイズハムに交換するのもおすすめです。こちらはHSH配列となり、フロントピックアップでのリードプレイ時にハムバッカーの太いサウンドを得ることが可能です。フロント+センターハーフトーンの綺麗さではシングルコイルに軍配が上がりますが、フロントハムのサウンドが得られることと天秤にかけて考えましょう。
また、テレキャスタータイプの2シングルピックアップのギターでは、ピックアップ2つともシングルサイズハムに交換することが多いようです。注意していただきたい点としては、ハムバッカー搭載テレキャスターのサウンドを目指してピックアップを交換しても、テレキャスデラックスやテレキャスカスタムのサウンドには絶対にならない、という点です。
詳細に説明すると長くなってしまうので、要点だけお伝えすると、テレキャスデラックスやカスタムに搭載されているハムバッカーは通常のハムバッカーとは若干構造の異なる『ワイドレンジハムバッカー』と呼ばれるものです。当然サウンド面でも、通常の構造をしているハムバッカーとは全くの別物になっています。
コイルタップ機能について
シングルコイルサイズハムバッカーも、通常サイズのハムバッカー同様にコイルタップをすることが可能なモデルが多くあります。3コンダクターとか、4コンダクターとなっているモデルがそれに相当します。
フルサイズのハムバッカーと比べて、かなり小型のポールピースやボビンを使用している影響か、フルサイズハムをコイルタップしたようなすぐに使えるシングルコイルサウンドは得づらい印象があります。
しかし、多くのモデルで出力とローミッドがスコーンと抜け落ちるので、足下、アンプのセッティングと合わせて詰めて行けば十分に使えるサウンドが得られます。
Seymour Duncanのピックアップ
リプレイスメントピックアップと言えばダンカン、と言うくらい有名なピックアップメーカーです。名機と呼ばれるハムバッカーのシングルサイズハムバージョンを中心に展開しています。
全体的な傾向としては、ハムバッカーでは失われがちなブライト感を程よく残している印象で、シングルコイルのサウンドも捨てられないけど、ハムバッカー寄りのサウンドも出したい方におすすめです。
SJBJ-1b JB Jr
SEYMOUR DUNCAN / SJBJ-1b
名機SH-4 JB MODELのシングルサイズバージョン、通称JB Jrです。型番末尾の『b』の文字はブリッジモデルを表しています。
JBと同じギターに搭載しての聴き比べと言うのが実質的に不可能なため、主観的な感想の比率が高くなりますが、オリジナルのJBよりも若干出力が落ちていて、その分高域のピークが大きい調整になっている印象を受けます。
ただ、オリジナルJBはレスポールにマウントした個体を、JB Jrはストラトにマウントした状態での感想なので、ギター本体やボディ材の影響を受けまくっている可能性大です。全く違うギターにマウントしても、聴いてわかるJBサウンドを出力しているのは純粋に凄いことだな、と感じました。
ストラトっぽさをキープしたまま、ハムバッカーよりのサウンドが欲しい場合にはとてもおすすめできるピックアップです。
SL59-1n / SL59-1b Little ’59
SEYMOUR DUNCAN / SL59-1n
SEYMOUR DUNCAN / SL59-1b
’59 MODELのシングルコイルサイズ版です。シングルコイル搭載ギターでPAF系のサウンドが出せる逸品です。nがネック(フロント)モデル、bがブリッジ(リア)モデルです。
出力的には所謂ヴィンテージ出力と言われる、ハムバッカーの中でも小さめの出力のカテゴリーのピックアップですが、PAF系特有の粘りのあるサウンドが出力されます。個人的にはSSS配列にフロント・リア合わせて使用するのがおすすめです。
元々の出力が抑えめな分、ハーフトーンも比較的綺麗に鳴ってくれるので、そこまで深い歪みは必要ないけど、多くのジャンルに対応可能なギターを組む際に特におすすめできるピックアップです。
SHR-1b Hot Rails
SEYMOUR DUNCAN / SHR-1b
通称ホットレール、ハムバッカーを含めたダンカンのパッシブピックアップラインナップの中でも最高クラスの出力を持ったモデルです。 下手なフルサイズハムバッカーよりもハードに歪みます。
特徴的なルックスのため、好みが別れるところだとは思いますが、ストラトキャスターでモダンハイゲインサウンドを得る際に最適なピックアップの一つであることは間違いありません。
コイルタップをした際には、そのままハイゲインなシングルコイルサウンドを出力することが可能です。シングルコイルでの運用を前提に、ブースターを使用する感覚でハムバッカーと切り替える、というのも面白いかもしれません。
なお、こちらもモデルにもネック用のSHR-1nがあります。SSH配列のフロントに使用するのは良いと思いますが、SSS配列のフロントに使用すると出力差からハーフトーンが使いづらくなるので、ギターの組み上がりのイメージをしっかりと固めてから搭載しましょう。
STHR-1n / STHR-1b Hot Rails for TELE
SEYMOUR DUNCAN / STHR-1n
SEYMOUR DUNCAN / STHR-1b
こちらは、テレキャスター用のホットレールです。先ほどご紹介したストラト用と同様に太いサウンドが特徴です。
テレキャスタータイプの2シングルピックアップでは、離れたピックアップ同士のハーフトーンで特徴的なサウンドが得られます。その特徴を生かすためにもセットでの運用がおすすめです。
受けた印象を一言で表すと、『ハイパワーかつ抜けの良いレスポールサウンド』といった感じです。また、コイルタップを使用することで、抜けの良いシングルコイルサウンドを得ることができるため、ハーフトーンと合わせてサウンドバリエーションを増やすこともできます。
唯一の難点(?)と言えば、ルックス面と言ったところでしょうか、好きな方は好きだと思うのですが。
DiMarzioのピックアップ
ダンカンと並ぶリプレイスメントピックアップの大手メーカーディマジオからも多くのシングルコイルサイズハムバッカーがリリースされています。
先発してシングルサイズハムをリリースしていたため、かつてはツインブレードタイプのシングルサイズハムと言えばディマジオ、と言う位の流行を見せていました。
かなり独自の型番ロジックを持っているため、型番からピックアップを想像することが難しいです。
ほとんどのモデルで非常に太い中域を持った、完全なハムバッカーサウンドが得られるため、シングルコイル寄りのサウンドを出すためにはコイルタップがほぼ必須になります。
DP189 ToneZone S
名機ToneZoneのシングルサイズバージョンとのことですが、いい意味で本家とは違う印象を受けるピックアップです。正直なところ、ストラトらしいサウンドは得られませんが、バランスの良いハムバッカーサウンドを得ることができます。
ブリッジ用ハイパワーピックアップとして本家同様に押し出しの強い、太い中域が特徴的なサウンドですが、本家よりも低域がスッキリして、高域に抜け感を感じることができます。そのため、深めに歪ませても輪郭を失うことなく、一歩前に出るサウンドが得られます。
また、コイルタップをすると、中低域が抜けてサウンドがガラっと変わるため、豊富なサウンドバリエーションを得ることも可能です。
若干クリーントーンが苦手な印象がありますが、SSS配列のギターなら別のピックアップでクリーンを出す、などして旨いとこだけを使うような運用がおすすめです。
DP180 AirNorton S
DIMARZIO / DP180
こちらも名機、AirNortonのシングルサイズ版です。Airの名を冠していますが、エアバッカー構造にはなっていません。
メーカー側はブリッジ用ピックアップとして再開発をした、と謳っていますが、個人的には本家AirNorton同様にブリッジのToneZone Sと合わせて、ネック側ポジションにマウントするのがおすすめです。ピックアップ自体を若干低めにセッティングすることで、フロントとしては若干太すぎる低中域あたりが扱いやすいレベルまで抜けてきます。
高域の抜けはあまりよくありませんが、裏を返せば、ハイが暴れることがないので、ハイゲインな中でも落ち着いたトーンを出力することが可能です。
コイルタップすることで、低域、中域が抜けるためハーフトーンでも比較的綺麗に鳴ってくれます。
DP384 The Chopper T
テレキャスター用ブリッジピックアップ、The Chopper Tです。テレキャスターのブライト感を保ったまま出力アップとローノイズ化が図れます。
個人的な意見ですが、テレキャスターにはピックアップをハムバッカーに載せ替えても、なんとかしてジャキジャキのサウンドを出していて欲しいものです。
DiMarzioのシングルサイズハムは、全体的な傾向として、低中域が太いモデルが多いです。テレキャス用ピックアップもその傾向が強いのですが、このThe Chopper Tは他と比べて高域が残るので、ジャキジャキ感はそこまで失われません。
3行でまとめると
- 見た目をある程度キープしてサウンドを変更!
- 抜けのダンカンvs太さのディマジオ!
- 高さ調整が意外とシビア!
最後に
今回はシングルコイルサイズハムバッカーをご紹介してきました。
エレキギターってサウンド面同様にルックス面も重要な要素だと思うんです。Fenderギターにフルサイズハムバッカーを載せるのは邪道、的な感覚ってあると思うんです。シングルサイズハムなら、最低限シングルコイルの形をしているので、ルックス的にもザグリ的にも大勢に影響なく(?)、便利に使えるのではないかと感じています。
ザグリ変更を伴わないピックアップ交換の最大のメリットは、気に入らなかったらすぐに元に戻せると言ったところです。試しにピックアップを交換してみることで、エフェクターやアンプのセッティングで太いサウンドを目指すよりも早く、理想のサウンドに近くことができるかも知れません。
当ブログのFacebookページです。
少しでも皆様のお役に立てたら「いいね!」していただけると歓喜します。