今回ご紹介するのは、ランチボックスタイプのチャンネルストリッププラグイン、McDSP 6050 Ultimate Channel Stripです。
6030 Ultimate Compressorと6020 Ulitimate EQは以前より使用していたのですが、かなりお得なアップグレードプランがあったので、サチュレーター目当てに導入してみました。
追加されたモジュールだけでなく、6020、6030に含まれていたモジュールも操作時のパラメーター表示というバージョンアップされて使いやすくなっていたのが嬉しい誤算でした。
6050 Ultimate Channel Stripの特徴はAPI500シリーズのように、ランチボックスタイプのモジュールを最大3つ組み合わせて自分好みのプラグインチェーンを1つのプラグインで構築できるところです。
同一シリーズのコンプとEQを組み合わせたものから、別のシリーズのコンプ+EQや、コンプ→EQ→コンプや、EQの3段がけまで、非常に自由度の高いルーティーンが魅力的です。
様々なダイナミクス系プラグインとEQプラグイン、サチュレータープラグインを揃えるとなると、かなりの労力を要することになりますが、これなら1つのプラグインで合計28種のモジュールを使用できるので、DAW初心者の方が最初に導入するプラグインとしてもオススメできます。
目次
6050のモジュールについて
さてここからは、6050 Ultimate Channel Strip(以下6050)に含まれるモジュールを種類ごとにご紹介していきます。
API500シリーズのようなモジュールを組み合わせてチャンネルストリップを作るのが、ハードウェアを弄っているようで作業のモチベーションが上がるのもよいですね。
EQモジュール
6050には12種類ものEQモジュールが含まれています。6020には10種だったので、2種類追加されていますね。
それぞれのEQが個性的で、全てを使いこなせているわけではないですが、自分の中のスタンダードから外したいときに非常に便利です。
E670
Fairchild 664 EQのモデリングですね。Fairchildといえばコンプのイメージが非常に強いのですが、通した時のサウンドはFairchildコンプを通した時のようなイメージに仕上がります。
Moo Q
牛の模様のMoo QもFarichildのモデリングEQです。真空管モデリングEQということもあり、サウンドはE670と近いのですがこちらの方が若干暖かいサウンドです。NEVEとかTubeTechがうまくハマらないときに試すと上手くいくことがおおいです。
iQ
ローエンドとハイエンドに作用する2バンドEQです。いまいち抜けて来ないトラックにこれを使ってみるとスッと抜けてきますね。
レゾナントカーブなのか、かなり派手にブーストしても痛くならない印象です。
E300/301
Opto-C/Lに最適なEQとのことです。「とのこと」というのも、ちょっと使ってみた印象では、あまりパッと来なかったのでそれ以来使用していません。
EQとしてのキャラクターは同一で、301の方がQが狭いです。
British-E
BritishでEって名前が付いているのでSSL4000E系のサウンドかと思いましたが、1073とか1084系の伝統的なNEVE系サウンドとのことです。
実際のNEVEサウンドとはあまり似ていないのですが、高域のGAINをあげていくとザラついていく感じとか、低域をブーストした時の盛り上がり感はNEVEっぽいと言えばNEVEっぽいかな、と。
HPFの効き方も自然で、ローエンドの処理に困ることもありません。
散々に言い散らかしていますが、実際のサウンドは『使える』サウンドです。他社のNEVEモデリングが上手くハマらなくても、British-Eが上手くハマることもあります。
EZ Q
dbx製のコンプレッサーにマッチするEQが無いからMcDSPが作ったというEQです。(McDSPホームページより)
これもあまり使用したことがないのですが、あまり味付けのないEQといった印象です。
EQ’76
SST’76(後述)に合わるのにベストなEQとのことです。UREI 545 EQをモデリングなのですが、残念なことに私は実機を知らないので、モデリング精度についてはよくわかりません。
ブーストもカットも器用にこなすEQですね。
FRG EEE
カエルの名前を冠したMcDSPのオリジナルEQです。ちなみに読み方は「フロッギー」です。ブーストカット共に素直な効きのEQで何にでも使用可能です。
VLZ時代のMackieの小型コンソールのEQのような、素直に効きながらガツっとブーストした時にサウンドの芯がグッと出てくるイメージです。
E357
D357(後述)に合わせるEQとのことです。ローバンド、ハイバンドをブーストするEQとして良く使用しています。あまり大きい可変幅でのEQはちょっと苦手なのかな、という印象があります。
ドラムやギターを纏めたバスの微調整に使うと、ほんの少しのブーストで効果的に抜け感やローエンドの質感を調整可能です。
MEF1
高域、低域のカットをするフィルターですが、ただカットしているだけではなく、EMPHASISでフィルターのカットから残された帯域をコントロールすることが可能です。
このEMPHASISコントロールの効きが絶妙で、通常複雑なEQの組み合わせを行わなくては再現不可能なカーブを描くことが可能です(グラフ表示があるわけではありません)。
E404
普段使いでFilterBankを使用しているので、そちらのE606を使用してしまうことが多いため、使用していません。
実際に使用してみたところ、FilterBankとほぼ同じ切れ方をしてくれるので、カット方向のEQとしては大変優秀です。カットEQはこれで決まりでしょう。
コンプモジュール
こんどはコンプモジュールです、その数実に10種類!各社バンドルよりも多いですね。
こちらもEQ同様に各モジュールごとに使用ポイントなどご紹介していきます。
各モジュールが6020 Ultimate Compressorのモジュールから、GAIN調整が可能な仕様にアップデートされています。次のモジュールへと信号を渡すための仕様変更だと思われます。
アップデートを受けてモジュール名が〇〇2とかになっています。元から数字が付いてたモジュールは数字が1増えています。そのため、変な数字のモジュールが多いのが難点です(笑)。
使用した感じでは、6020とサウンド面では変化は感じられません。
C671
早速変な数字のモジュールです、6030のU670とはアルファベットまで変わってますが、Fairchild 670をベースにしたコンプレッサーです。
現代風の670という印象で、味付けは他社製のプラグインよりもマイルドです。
MT2
BOSSのギター用コンパクトエフェクターで最も歪むアレと同一の名称ですが、これも真空管コンプとのことです。Moo Tube 2の略ですね。
C671と似たようなサウンドですが、アタックタイムを調整可能なので、アタックを逃しつつ、温かみが欲しい場合などに重宝します。
iC2
オートアタック、オートリリースのMcDSPオリジナルコンプレッサーです。主にレベリング目的での使用を想定しているのか、非常に素直に動作します。
余談ですが、McDSP 6030のページでは、iCompの紹介に「iPadではまだ使用できないよ」というアメリカンジョークが飛んでいます。マニュアルといい、アメリカンはどうして真面目な文章にジョークを入れ込んでくるのでしょうかね。
OPTO-C2/OPTO-L2
McDSPが光学式レベリングアンプの名機をモデルにした、と言っているので、実機の印字を考えるとLA-2Aのモデリングということで間違いないでしょう。
Cはコンプレッサーモード、Lはリミッターモードの動作をします。
これもあまり実機よりのサウンドでは無いのですが、癖が強すぎず、扱い安いモジュールです。
BC-22
6030ではBritish-Cというモジュールでした。なぜ22になったのかは不明です。
ネーミングから推察すると、33609あたりのNEVEコンプのモデリングなのかな、とか思ってます。
ガツっと潰してやるといい感じの歪み感が得られます。
OVER EZ2
dbxコンプのモデリングです。
dbxのソフトニー、OverEasyがよくシミュレートされています。dbxの特徴である必要以上にメーターが触れることはないので、実機同様のノリでメーターを振らせまくると潰れすぎるので注意が必要です。
SST’77
数字が増えて意味がわからなくなっていますが、1176のモデリングですね。どの年代の1176をモデルにしているかは不明ですが、概ね1176サウンドと言って問題ないでしょう。
1176について私が語ることはほとんどないのですが、素早い立ち上がりを逃さない個性派コンプレッサーです。
FRG445
効き目が非常にしっかりとしたコンプレッサーです。1176に近いのですが、こっちの方が潰れ方が好みでよく使用しています。
SST’77(1176)のようにドラムやパーカッション、アコースティックギターなどの立ち上がりの早いサウンドもしっかりと頭から潰すことが可能です。
D358
リダクションメーターがLEDを模しているコンプレッサーです。
公式の解説では最もアグレッシブなコンプレッサーとのことです。ハードにコンプレッションすると、いかにもコンプで潰しました、というサウンドになるのがよくも悪くも特徴です。
その他のモジュール
6050では[MORE]に分類されているモジュール群です。6020や6030にはなかったエフェクト群ですね。
実際、導入に踏み切ったのはこのモジュール群を使ってみたかったからです。
iX
McDSP独自のエキスパンダーモジュールです。使用してみた感じ、かなりしっかりと効果がわかるエキスパンダーです。サイドチェーンフィルターがあるので、狙った帯域にだけ反応して動作させることが可能です。
FRG X
FRGもMcDSPの独自開発エキスパンダーモジュールで、コントロールはiXと同様ですね。
特徴としてはRANGEコントロールにプラス領域が+24dBまであることです。スレッショルド以下の音を持ち上げるというゲート/エキスパンダーのあり方を考えさせられる使い方も可能です。
使い道を見出せれば面白いかもしれません。
EZ G
dbx 904、363x、463xあたりにインスパイアされたゲートモジュールとのことです。リリースがHOLDとRELEASE(Decay)に分かれていて、詳細にエンベロープを詰めることができます。
おすすめされているOVER EZ2モジュールと組み合わせると、往年のdbxコンプゲートの感じが確かに出ています。
S671
TONE付きのサチュレーターモジュールです。
SATURATIONの可変域が広く、ウォームな倍音付加からザラっとした歪みまで、使える範囲が非常に広いのが特徴です。
Moo-D
こっちは真空管のサチュレーターモジュールですね。
LOW CUTが備わっているので、低域が濁ることなくアナログ的な歪み感を得ることができます。
バスでの使用がおすすめとありますが、インプットトラックにもガンガン使えます。
D-100
強烈なディストーションモジュールです。
いまいち使い方が見えて来ないですが、スネアとかをSENDで使ってやると他にはない面白い感じが得られます。
その昔、元々はギター用のプリアンプだったTech21 SANSAMP PSA-1をなんでもかんでもインサートするのが流行ったのを思いだしました。それと近い感覚で使用できるモジュールですね。
6020、6030のモジュールとの違い
外観上の違いは各コンプレッサーにレベル調整用のGAINが追加されているところだけですが、各EQモジュールもサイレントアップデート(?)されています。
6020 Ulitimate EQでは、各コントロールの設定値を数字で確認することができませんでしたが、6050のEQモジュールではコントロールを動かしている間、現在のパラメーターが表示されます。
ツマミに目盛りがないので、現在どれくらいブースト/カットしているかがわからないという不便な点が解消されていて便利になっています。まぁ、目盛りが見えない方が思い切ったEQが出来て良い、という意見もありますが、私は不便を感じていたので、このアップデートには大満足です。
実践的なチャンネルストリップ作成例
ここまでにご紹介してきた28モジュールを好きな接続順で組み合わせて使用できるので、28×28×28=21952通りの組み合わせが考えられます。
そこで問題になってくるのが、その膨大な組み合わせの中からどんな組み合わせを使用するか、というところです。
6050は実機のAPI500シリーズなどよりも手軽に接続順やモジュールの入れ替えが可能なので、色々なパターンを切り替えながら使用していくのが面白いのですが、ここからは、ちょっと実戦的なチャンネルストリップの作成例をいくつかご紹介していきます。
サチュレーター→コンプ→EQ
初段にサチュレーターをインサートし、倍音、歪み感を付加する。コンプレッサーでピークを叩きながら音像を調整する。EQでサウンドの仕上げをする。
サチュレーターのところをマイクプリと考えると、多くのアナログコンソールや一般的なチャンネルストリップと同様の接続順、定番の組み合わせです。
同種のモジュールで組み上げるとサウンドに破綻もなく、綺麗に仕上がります。セットで使用する場合のおすすめはMooシリーズですね。コンプレッサーとEQの組み合わせでは、BritishやFRGもまとまり感があります。
セットでの使用だけでも十分なのですが、せっかくモジュールごとに入れ替えられる6050を使用するなら、もう一捻り欲しいところです。
Moo-Dサチュレーター→SST’77コンプレッサー→British-Eイコライザーなんて感じのチェーンは非常に効果的に機能してくれます。
EQ→COMP→EQ
カットEQやフィルターを使用して、トラックの余分な帯域を処理してから、コンプレッサーでしっかりと潰して、最後に仕上げのブーストEQをするパターンです。
前半のEQにはE404やMEF1を使用するのがおすすめです。コンプレッサーはトラックの中身や元のサウンドによって変わってきますが、この取り合わせではFRG 445を使ったりします。仕上げのEQはFRG EEEなんかが相性いいように感じます。
GATE→COMP→EQ
ドラムやパーカッショントラックにオススメのストリップです。GATEとコンプレッサーはどちらが先でも、といったところですが、ダイナミックレンジをできる限り生かすためにこちらの接続順にしてみました。
実際のモジュールでは、EZ Gゲート→OVER EZコンプレッサー→FRG EEEorBritish-Eなんかがおすすめです。
6050の便利なところ
なんと言っても一番はモジュールの入れ替えが可能、という点です。
もちろん、単一のシリーズで組み合わせれば、概ね他のチャンネルストリッププラグインと同様にマッチングが取れた調整が可能なのですが、自分好みのモジュールを組み合わせることで、6050一台でオリジナルのプラグインチェーンをお手軽に作成することが可能です。
プラグインチェーンについては下記記事もご覧ください。
また、EQ同士やCOMP同士など、同種のモジュール同士を入れ替えたときに、共通のパラメーターを引き継ぐ点も実際に使用する上で便利なポイントです。
通常、トラックにインサートしたプラグインエフェクトがハマらなくて他のプラグインに差し替える場合、現在の設定状況を引き継ぐことはできませんが、6020、6030、6050のMcDSP Ultimateシリーズでは、EQなどの設定を引き継いだまま、他のモジュールを試すことができます。
変更したモジュールがいまいちで、元に戻すときもいちいちシビアな設定を行う必要がないので、作業時間の短縮にもなりますし、いろいろと試して見る気力もわくことでしょう。
他にも、一つのプラグインウィンドウでダイナミクスとEQを同時に表示、操作可能な点は地味ですが非常に便利です。
積極的に音作りに使用するコンプレッサーの設定を微調整した際には、必ずと言っていいほどEQにも微調整が必要になります。これらを別々のプラグインで操作している場合は、2つ以上のウィンドウを見比べながら操作する必要がありますが、6050では同一のプラグイン内での操作のみで両方を調整することが可能です。
McDSPのプラグイン全般の特徴でもありますが、比較的負荷が軽い点もインプットトラックに多用するチャンネルストリップでは重要なポイントです。
ハードウェアと違い、プラグインエフェクトはライセンスさえ所有していれば、基本的には同時に複数トラックに使用できます。あまりに負荷が高いプラグインではこのメリットを活かしきれない場合がありますが、6050では一般的なセッションの全トラックにインサートしても問題ないほど低負荷で動作します。
※筆者環境での感想です。導入される方は事前に動作環境を確認し、可能であればDEMO版を試用してください。
3行でまとめると
- モジュールを組み合わせるハードウェア的な操作感!
- 各モジュールのクオリティーが単体のプラグインレベル!
- EQ12種、コンプ10種、ゲート3種、歪み3種の大ボリューム!
最後に
かなり端折ってご紹介したつもりですが圧倒的なモジュール数のために、かなり長くなってしまいました。
まだ使い所が見えていないモジュールもありますが、かなり面白いものが多いので、見出していきたいと思ってます。
一つのプラグイン内でEQやCOMPのクセの部分を手軽に使い分けることが可能なので、DTM/DAW初心者の方にも6050 Ultimate Channel Stripオススメです!
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