いきなり昔話を始めます。
いまはコンパクトエフェクターの機種が数えきれない位ありますが、私がギターを引き始めた頃には街の楽器店で必ず置いてあるコンパクトエフェクターと言えばBOSS製でした。他にもIbanezやMXRはあったのですが、今ほど多様なメーカーのものは流通していませんでした。
OD-1やOS-2、BD-2にSD-1など数多くの歪みペダルや、CS-3やDD-5、CH-1などどんなカテゴリーでもBOSS製品を使用している人が多かったように思います。
現在では色々なメーカーのコンパクトエフェクターが入手可能で、サウンドサンプルも無料で聴くことが可能なため、選択肢に困ることはありませんが、依然としてBOSS製品がボードある方は多いのではないでしょうか。
かつて流行したコンパクトエフェクターをリイシューしてリリースしているメーカーは多いですが、BOSSからはWAZA CRAFTとして8種類のエフェクターがオリジナルを進化させたモデルとしてリリースされています。
今回は、BOSSのWAZAシリーズのコンパクトエフェクターをご紹介していきます。
目次
BOSSとは
BOSS(ボス)はギターアンプJC-120などで有名なRoland(ローランド)のグループ企業で、静岡県浜松市に本拠をおく日本企業です。コンパクトエフェクター以外にもGTシリーズなどのマルチエフェクターやギターシンセサイザーなど、ギター関連製品を数多くリリースしています。
コンパクトエフェクターの筐体は長年続いている特徴的なデザインのアルミダイキャストボディで、エフェクターによってカラーリングこそ違うものの一目でBOSS製品とわかります。外装がしっかりしているのでペダルの耐久性にも不安がありません。
ちなみに、ファズペダル以外のひずみエフェクターはカラーリングが黄色→橙色→赤色の順に歪みが深くなっていきます。本体が黒や寒色系のモデルでは、エフェクター名称の印字カラーで歪みの深さを表しています。
WAZA CRAFTとは
WAZAはそのまま日本語の「技」を意味していて、現在までに積み上げられたBOSSの持つ高い技術力を活かして再設計されたブランドです。
創業以来、BOSSのエンジニアはアナログ回路設計から最先端のデジタル技術を駆使したDSPまで、あらゆる技術や培ってきたノウハウ、そして音に対する熱いスピリットを注ぎ込み、最高のギター・サウンドを追求し続けてきました。そのクラフトマンシップの結晶といえるコンパクト・ペダルが「技 WAZA CRAFT」です。熟練のエンジニアにより、一つひとつのパーツの選定からこだわり抜き、丹念に組み上げられたアナログ回路を搭載。細部に至るまでこだわったメイド・イン・ジャパンの「技 WAZA CRAFT」は、極上のサウンドと卓越した弾き心地をギタリストに提供します。
BOSS WAZA Pedal より引用
コンパクトエフェクターに関して砕けた言い方をすれば、BOSS本家からリリースされている高品位なMOD品と言っても過言ではないでしょう。
また、今回はご紹介致しませんが、WAZA CRAFTではコンパクトエフェクター以外にもギターアンプやワイヤレスヘッドホンもラインナップされています。
WAZA CRAFTのコンパクトエフェクター
それでは、ここからはWAZA CRAFTのコンパクトエフェクター全8種(2020/5現在)をご紹介していきます。
BOSSのエフェクターはエフェクター名称の略語+数字(Overdriveの一号機=OD-1など)のように型番が振られていますが、WAZA CRAFTシリーズの型番ではその末尾にWが付きます。
SD-1W Super OverDrive
SD-1Wは70〜80年代の名機SD-1 Super OverDriveのリファインモデルです。サウンドイメージはジェフ・ベックとか、エリック・クラプトンが近いかと思います。
原型となったSD-1は伝説のオーバードライブ=OD-1にトーン回路を追加したモデルで、チューブアンプをドライブさせたようなナチュラルなオーバードライブをエフェクターで得ることで音量調整も容易になり、プロアマ問わず多くのミュージシャンに愛用されました。
ミッドレンジに特徴のある真空管ライクなサウンドで、広いゲインレンジを活かしてクランチから深い歪みまでカバー範囲が広いのも特徴です。
また、真空管アンプのブースターとしても優秀で、トーンを抑えめにしてシングルコイルピックアップをブーストすることで、骨太ながらに抜けるサウンドを得ることが可能です。
リファインされたSD-1WではオリジナルSD-1のキャラクターに忠実なスタンダードモードと、レンジが拡張されてピッキングニュアンスにより忠実なサウンドを特徴とするカスタムモードをスイッチ一つで切り替えて使用可能です。カスタムモードでは少しゲインアップもされているようです。
スイッチはGAINのみに作用するわけではなく内部回路全体が切り替わるので、回路的には別のエフェクターと踏み換えている状態と同じになります。
BD-2W Blues Driver
オリジナルのBD-2は抜けの良いクランチトーンに最適なオーバードライブペダルとして知られています。ナチュラルに歪ませたクランチカッティングと言えば名前が出てくるエフェクターで、個人的にはテレキャスターにベストマッチなエフェクターだと感じています。邦楽ギターロックのイメージです。
また、SD-1同様ブースターとしても非常に優秀で、抜けの良さを活かしたトレブルブースターとして今でも多く活用されています。深く歪ませると抜けが悪くなりがちなハムバッカーピックアップをブーストするのに最適です。
BD-2Wではオリジナルを再現したスタンダードモードと、抜け感を残しつつも低域がパワーアップしゲインも一段上がったカスタムモードを切り替え可能です。
本来真空管アンプなどのナチュラルな歪みでは、歪みを抑えると低域が不足しがちなのですが、BD-2Wのカスタムモードでは低域もしっかりと追従してくれる印象です。ブースターとしてトーンの補正に使用するのも面白そうです。全体的な歪み量はSD-1Wよりも少し控えめな印象です。
MT-2W Metal Zone
MT-2はMetal Zoneの名が表す通り、ヘヴィメタル向けのディストーションペダルです。同軸2連ノブを2つ使用した3バンドEQを搭載していて、ドンシャリサウンドからミッドが分厚いサウンドまで幅広いサウンドに対応できるのが特徴です。パンテラのイメージですかね。
中域を担当するMIDバンドのEQが周波数可変なので、ドンシャリサウンドのためにカットするEQにも骨太サウンドのためにブーストするEQにも柔軟に対応可能です。EQでコントロール可能とは言え、個人的な印象としては歪みの個性が非常に強い印象があります。また、ドンシャリサウンドの方がその特徴にマッチしているイメージが強いです。
以前MT-2を使用していたのですが、DRIVEツマミを11時以上に上げて使ったことがありません。それくらい歪みは深いエフェクターです。
MT-2Wでは、オリジナルに忠実なスタンダードモードと、低域・高域ともに伸びているカスタムモードから切り替え可能です。カスタムモードはダウンチューンなどでも輪郭を失わずタイトな低域が特徴です。どちらのモードで使用する場合にも、やはりドンシャリが似合うエフェクターです。
DC-2W Dimension C
Dimension Cと言われてもどんなエフェクターか想像がつかない、という方もいらっしゃると思いますが、所謂コーラスペダルです。4つのボタンからコーラスモードを選択して使用します。番号が大きいほど深いコーラス効果が得られます。
DC-2Wでは、機械式だったコーラススイッチが電子式になり操作性が向上しています。スタンダードモードではオリジナルDC-2のサウンドを、SDD-320モードでは、ラックコーラスの名機Roland SDD-320 Dimension Dのサウンドをそれぞれ再現しています。
また、2つのボタンを同時に押すことでオリジナルにはなかったコーラスモードを使用可能になります。各単体モードと2つ押しで各モード10種類、それに加えてスタンダードとSDD-320で20種類から好みのコーラス効果を選択可能です。
デジタルコーラスの冷たい感じも好きですが、DC-2Wや後述のCE-2Wのような温かみのあるアナログコーラスを使用したクリーンアルペジオも深みがあってよいですね。
オリジナルはモノラル入力・ステレオ出力でしたが、こちらはステレオ入出力に対応しているのでステレオディレイの後段に置いて、より広がり感を出すことも可能です。。
CE-2W Chorus
CEシリーズはRoland JCシリーズアンプのコーラス・ビブラート回路を取り出したCE-1 Chorus Ensembleの流れを組むエフェクターです。初代のCE-1はBOSSのエフェクター第一号製品でもあります。
揺れの速さを決めるRATEとコーラスの深さを決めるDEPTHのみというシンプルな操作系ですが、Roland JCシリーズやBOSS CEシリーズでしか得られない特徴的なコーラス効果を得ることが可能です。
オリジナルはモノラル入出力でしたが、CE-2Wではステレオ入出力に対応し、ステレオ音場でも存分に効果を発揮します。
このステレオ出力がかなり特徴的で、Roland JCシリーズギターアンプと同じく、ステレオ出力接続時にはOUTPUT Aからはコーラス音のみ、OUTPUT Bからは原音のみを出力し、スピーカーから出た音が空気中で干渉することでコーラス効果を得ています。OUTPUT Aのみを使用したモノラル接続時には原音+コーラス音が出力されます。
また、スタンダードモードではオリジナルを再現したサウンドですが、CE-1モードではCE-1コーラスとCE-1ビブラートを使用することが可能で、まさにJC-120のようなコーラス効果をモノラル接続でも得ることが可能です。
VB-2W Vibrato
VB-2はBOSSエフェクターの中でもかなりの意欲作です。その効果は「入力音全てに音程が揺らぐビブラートがかかる」というもので、ある種飛び道具的なエフェクトと言えるかもしれません。正直な話、私はオリジナルのVB-2を見たことも触ったこともありません。
原理としては、コーラスエフェクトから原音を抜いた音程が周期変化している音だけを取り出して出力しているもので、前述のCE-2Wをステレオ出力したときにOUTPUT Aから出力されている音です。
RATE、DEPTHはそれぞれ揺れの速度と大きさをコントロールします。RISE TIMEはビブラートの幅が最大になるまでの時間を調節するツマミです。また、DEPTHは外部エクスプレッションペダルでリアルタイムにコントロールすることも可能です。
MODEツマミでは、エフェクトペダルの動作を設定します。UNLATCHではペダルを踏んでいる時だけエフェクトがかかり、LATCHとBYPASSではON/OFFを切り替えるためにペダルを使用します。LATCHとBYPASSの違いはエフェクトOFF時の回路で、LATCHではエフェクトOFFの間もBBD素子を使用したエフェクト回路を通過した音が出力されます。BYPASSに設定するとエフェクトOFF時はエフェクト回路を通過しません。
こちらにもオリジナルを再現したスタンダードモードと、周波数特性ごと変化させることでよりビブラート効果を強調したカスタムモードを切り替え可能です。
DM-2W Delay
オリジナルのDM-2はBBD素子を使用したシンプルな操作系のアナログディレイで、テープエコーをシミュレートした温かみのあるサウンドが特徴です。DM-2Wも基本的なサウンドは踏襲していて、アナログディレイ特有の温かみのあるサウンドが特徴です。
REPEAT RATEは所謂ディレイタイムですが、時計回りに回していくとディレイタイムが短くなります。ECHOでディレイ音の音量を、INTENCITYでフィードバック回数をそれぞれ設定します。ディレイタイムは外部エクスプレッションペダルを使用してコントロールすることも可能です。
また、通常は原音+ディレイ音をOUTPUTから出力して使用しますが、DIRECT OUTにコネクタが接続されている場合には、OUTPUTからはディレイ音のみ、DIRECT OUTからは原音のみと分けて出力を行います。
個人的にはコーラス同様デジタルディレイの涼しい感じが好きなのですが、アナログディレイ(BBD回路)特有の暖かいサウンドも良いものです。
スタンダードモードではオリジナルDM-2を再現したサウンドを、カスタムモードでは高域の減衰を抑えた、暖かい中にもブライト感が残る一風変わったサウンドを得ることが可能です。カスタムモードのディレイサウンドはDM-2Wの特徴で個人的にも好きなサウンドです。
TU-3W Chromatic Tuner
TU-3のWAZA CRAFTバージョンがこのTU-3Wなのですが、初めて見た時は「なぜ現行モデルのチューナーをリファインしたのか」が全くわかりませんでした。ただの色違いだと思っていました。そしてまさか、人生においてチューナーの試奏を行うことになるとは思ってもいませんでした。
TU-3との最も大きな差は、バイパス時の出力をトゥルーバイパスとバッファードバイパスで切り替え可能な点です。が、現在他メーカーのペダルチューナーではトゥルーバイパスモデルが多く、ラインセレクターを使用することでもバッファーの影響を無視することが可能です。
それではあまり特徴になっていないのですが、実はWAZA CRAFTシリーズはこのバッファーがレギュラーラインナップとは違うサウンド傾向にあります。
基本的にバッファーを通った信号は、「ナマったサウンド」と言われるようにサウンドの質が変化します。常時ONになっている歪み系などのエフェクターではバッファー込みでそのペダルのサウンドなのでさほど大きな問題にはならないのですが、サウンドに直接関係がない上にエフェクターの一番先頭に接続するチューナーではこのバッファーでのサウンド変化はあまり好ましく思われません。
単体ペダルなどのバッファ専用エフェクターも存在しますが、それらはサウンドとインピーダンスを能動的に変化させることをメインにした音楽的なバッファ が使われていますが、チューナーのバッファーの多くはその点をあまり考慮にいれていないものが多くなっています。
普通に考えたらノイズレスにON/OFFを切り替えるためのバッファーにそこまでの質を求めない、というところなのですが、TU-3Wではこのバッファーが単体機に匹敵する性能を持っています。TU-3Wをバッファードバイパスに設定して使用することで、軽くコンプをかけたようなサウンドに変化するため、後段のエフェクトノリがよくなる印象を受けました、
好みの問題もありますが、単体機のバッファ を先頭におくならTU-3Wでチューナーを兼用する使い方もよいのではないでしょうか。
3行でまとめると
- BOSSは安心と信頼の国産ブランド!
- 元となったエフェクターも名機揃い!
- モード切り替えで現代的なサウンドにも対応!
最後に
さて、今回はBOSSのWAZA CRAFTシリーズコンパクトエフェクターをご紹介してきました。歪みエフェクターは私もオリジナルモデルを全て使用してきましたが、WAZAシリーズもとても好感触です。カスタムモードでも基本的にはオリジナルを踏襲しているため、ちょっと足りないが手に入る感じがよいです。
また、BOSSと言えばコーラスと思っているのですが、コーラス2種とビブラートも洗練されたBOSSサウンドという感触で耳馴染みがよく、使いやすい印象を受けました。
今回一番驚いたのはTU-3Wでしょうか。音質変化を嫌ってチューナーをシグナルチェーンに繋ぐ習慣のない私ですが、TU-3Wでの変化ならポジティブに受け入れることができました。エフェクトボードの先頭でバッファーとして使用しつつチューニングも出来る、と考えるとボードの軽量化にもよいのではないでしょうか。抜けが良いのでDAWの入力段にも良さそうです。
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