PC/Macを使用して音楽製作を行うDAWは都度オーディオファイルをHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)に保存して作業を行います。再生時にはオーディオファイルの保存先ドライブから読み出しを行ってしています。
このオーディオファイルの容量はCD音質=44.1kHz/16bitのステレオファイルの場合、概算で1分あたり10MB(メガバイト)となります。5分の曲なら50MBということですね。
ただ、これはステレオ1トラックの場合の容量です。例えば、44.1kHz/16bit環境、録り直し無しの一本化されたオーディオトラックがモノラル換算20トラックのセッションファイルが持っているオーディオデータの総数は5分で約500MBとなります。
さらに、96kHz/24bit環境で作業を行っている場合には上記と同じ条件でおよそ1.6GB(ギガバイト、1GB≒1024MB)のディスク容量が必要です。今やTB(テラバイト、1TB≒1024GB)の時代なので、大した容量ではないと考えることも出来るかも知れませんが、上記の参考値は録り直し一切なしで20モノラルトラックで5分の曲1曲分のオーディオデータの容量です。
実際には全て1テイクでOKと言うことはないでしょうし、コミットやトラックバウンスでオーディオファイルは増加して行きます。DAWの設定次第では全てのトラックがステレオトラックとして扱われて、実質容量が上記の2倍になります。大きめのセッションでは、1フォルダで20GBを超える容量になることも珍しくありません。
また、DAWで作編曲を行っている方はバーチャルインストゥルメントも使用されていると思いますが、これらのライブラリに含まれているサンプリングデータ容量も非常に大きいものとなっています。
参考までに私の使用しているNATIVE INSTRUMENTのKOMPLETEでは300GB以上、SpectrasonicsのTrillianでは35GB以上のライブラリ容量になっています。
これら全てをPC/MacのOSドライブに保存するのは現実的ではありません。
また、ドライブからは録音時には書き込みが、再生時には読み出しが、多くの場合は双方同時に行われます。ドライブの寿命はデータの総書き込み・総読み込みにデータ量によっても決まってくるので、オーディオドライブの寿命はデータ保存用ドライブなどと比べて非常に短くなります。寿命が来てしまうとドライブ内のデータにはアクセスすることが出来なくなります。
もしOSドライブに寿命が来た場合、PC/Macは起動できなくなります。
上記の理由から、私はオーディオファイルやライブラリを外部HDDやSSDを使用して管理しています。こうすることでここまでに紹介してきたリスクを効率的に回避することが可能になります。
目次
HDDとSSDの違い
HDD(ハードディスクドライブ)とSSD(ソリッドステートドライブ)にはどのような違いがあるのでしょうか。
まずはHDDですが、Wikipediaには以下のようにあります。
ハードディスクドライブ(英: hard disk drive, HDD)とは、磁性体を塗布した円盤を高速回転し、磁気ヘッドを移動することで、情報を記録し読み出す補助記憶装置の一種である。SSDと比べ、大容量でも低価格なことが特徴。
ここでのポイントはプラッタという円盤状の記録媒体が高速回転をし、磁気ヘッドがその上を動いてデータの読み書きを行う、という点です。このときプラッタと磁気ヘッドの間隔を例える話ではジャンボジェットで地上1mmを飛行するのと同程度と言われています。
そのため基本的に衝撃には弱く、稼働パーツの寿命もあるので定期的な買い替えが必要となります。
続いてはSSDです。近年ではノートPCのOSドライブに使用されていることも多いですね。
ソリッドステートドライブ(英語: Solid State Drive, SSD)とは、半導体メモリをディスクドライブのように扱える補助記憶装置の一種である。シリコンドライブ、半導体ドライブ、メモリドライブ、擬似ディスクドライブなどとも呼ばれる。
半導体メモリを記憶媒体に使用していることで物理的な動作が起こらず、HDDと比べて衝撃に強かったり、騒音が小さかったりという特徴があります。
HDDとSSDの比較
それでは、実使用においてHDDとSSDはどう違うのか、みていきましょう。
アクセス速度
大容量のオーディオデータやライブラリデータをDAWの動作に合わせて読み書きするには、ディスクへのアクセス速度が重要になります。ディスクそのものの速度を考えた場合には、HDDと比べてSSDの方が圧倒的に速いです。
とは言っても、96kHz/24bit環境では1モノラルトラック/1秒あたりおよそ0.28MB程度です。これが40トラックあっても1秒あたりには12MB程度なのでそこまで気にする必要はありません。
問題はライブラリの読み込みで、一つの楽器で3GB以上のサイズを持つことも珍しくない大容量ライブラリを持つバーチャルインストゥルメントを保存するライブラリドライブにはSSDの方が向いています。
データの書き換え
オーディオデータなどの書き込みや削除を繰り返すことでドライブは劣化します。データそのものの削除を行わなくても、ドライブ上ではデータの整列のためにファイル構成の更新があるたびに書き換えが行われています。
この劣化速度はSSDの方がHDDより遥かに速いため、頻繁にファイル構成が変更されるオーディオドライブにはHDDの方が向いています。
逆に一度書き込みを行ったら基本的に読み込みだけを行うライブラリファイルではこの劣化速度の速さが問題にならないため、前述の速度の差もありSSDが向いています。
容量単価
近年ではSSDの価格もかなりHDDに近づいてきましたが、依然として容量あたりの単価を考えるとHDDの方が安価になります。
故障・データ損失の予兆
経験則によるところが大きくて恐縮ですが、HDDは故障する直前に異音がし始めたり、目に見えて転送速度が遅くなったりする傾向にあります。
対して、SSDはその仕様としてデータ保持期間は10年とあるものの、可動パーツを持たない関係で異音がすることもなく、ある日データが消失していることがあるようです。
ライブラリデータはインストーラーなどから再度ダウンロードすることが可能ですが、現在作業中でバックアップ前のオーディオドライブ内のデータは復元することが出来ません。
このことからもオーディオドライブにはHDDの方が適していると言えるでしょう。
DAW用PCに理想的なドライブ構成
HDD、SSDそれぞれの特徴をざっくり掴んだところで、ここからは本題のDAWを使用する際に理想的なドライブ構成についてみていきましょう。
基本的にDAW用マシンはOSがインストールされるシステムドライブ、セッションデータやオーディオデータを保存し編集・MIX作業を行うオーディオドライブ、バーチャルインストゥルメントのサンプルを保存するライブラリドライブ、バックアップデータを保存するバックアップドライブの4つから構成されます。
バーチャルインストゥルメントを使用していない方は、ライブラリドライブを必要としませんが、それでも複数のドライブを使用して作業を行うのが一般的です。
ここからは各ドライブに求められる要素と、それぞれに使用するのに向いているストレージについて解説していきます。
システムドライブ
DAWを走らせるPC/Macには多くの場合、事務用のものよりも高性能機を使用することになります。メーカー製PCではある程度以上のクラスの製品には標準でSSDをOS用のシステムドライブとして搭載しています。
OSドライブ上にインストールされたDAWソフトウェアの動作速度にも関わるので、ここはSSDドライブの使用をオススメします。
また、同じSSDでも接続インターフェースによって大きく速度が異なります。参考までに以下ディスク速度測定アプリで測定した私のライブラリSSD(Samsung製、USB3.0→SATA接続)とOSドライブ(Apple OEM Samsung製、PCIe接続)の測定結果です。
↑こちらがUSB3.0接続のライブラリドライブです。
そしてこちらがPCIe接続のOSドライブです。久しぶりに測定しましたが、容量が大きくなってきているからか、購入当初よりも速度が落ちてて恐怖しています。
ノートPCでは交換不可能になっている場合も多いですが、タワー型の自作PCなどをお使いの方はシステムドライブにNVMe接続のSSDなど高速なインターフェースを使用することで、DAW以外の動作もスピーディーになるのでオススメです。
また、SSDはドライブの空き容量が少なくなると書き込み・読み込み性能が低下します、概ね総容量の75%程度を目安にデータ整理を行うことで安定した性能を発揮してくれます。
Samsung製のSSDはMacBookProにも使用されている高速で信頼性の高いSSDです。近年では価格も安くなってきたので、タワーPCをお使いの方はOSドライブとして検討してみても良いかも知れません。容量は512GBあれば十分かと思いますが、普段使いのPCであれば1TBあるとなお安心です。
オーディオドライブ
頻繁にデータの書き込みを行うオーディオドライブには速度も必要ですが、ライブラリドライブやシステムドライブに比べれば速度はそこまで必要ありません。タワーPCであればSATA接続の内蔵型HDDを、ノートPCであればUSB3.xやThunderbolt接続の外付けHDDを使用するのがよいです。
前述の通り、オーディオドライブは頻繁にデータの書き換えが行われます。そのため現在のところ、SSDよりもHDDの方がオーディオドライブでの使用に適しています。
オーディオドライブは読み込み書き込み回数が非常に多く、同時にDAWを読み込んでいるシステムドライブをオーディオドライブと兼用で使用するとOSドライブに多大な負荷がかかります。結果としてOSドライブの寿命を縮めることになるので、オーディオドライブは必ずシステムドライブとは別に用意しましょう。
オーディオドライブに使用するHDDに求められる条件は以下の2つです。
- 回線数7200rpm以上
- 平均シークタイム10ms以下
これらはAvid社がProToolsシステム用オーディオドライブの必要条件に設定してる条件でもあります。
回転数とは字の如く、ハードディスクが回転する速度です。一般的にこの数字が大きいほど高速なハードディスクになります。ノートPC内蔵用の2.5インチHDDでは5400rpmのものも多いので注意しましょう。
シークタイムとは、磁気ディスクがハードディスクの目的とするデータに移動する時間です。複数ファイルを同時に読み書きする必要のあるDAW用のオーディオドライブではとても大切な要素になります。なのですが、近年のメーカー製HDDはこのシークタイム(アクセスタイム)を公開していない場合が多いです。困ったものですが、所謂コンシュマーモデルよりもハイスペックなエンタープライズモデルを使用するのが間違いないでしょう。
また、上記意外にも耐久性・信頼性のあるストレージが必要とされます。また、作業用として十分な容量があることも重要です。
オーディオドライブに不調があると、録音・再生が急に停止してしまったり、書き込まれたオーディオデータが破損してしまったり、正常に読み込めなくなる場合があるので、信頼性の高いメーカーのHDDを使用することをオススメします。
以下海外サイトですが、3メーカーのHDDを比較した検証データを載せているBACKBLAZEサイトへのリンクです。
BACKBLAZE – What Hard Drive Should I Buy?
シェアの大きいメーカーを比較しているデータで、少し前のデータにはなりますが各メーカーの信頼性を測る参考になります。
こちらは私がオーディオドライブとして使用しているHGST(旧・日立グローバルストレージテクノロジーズ)製のHDDの読み込み・書き込み速度です。Thunderbolt接続ですが、HDDだと速度はこの位になります。こちらも速度が落ちてきて恐怖してます。
SSDでもそうですが、HDDも空き容量が少なくなると動作速度が落ちてきます。私はこちらも総容量の75%程度を目処に使用しています。
以下、実際に私の環境で96kHz32bit floatの16chレコーディングが問題なく行えたHDDをご紹介致します。なお、その他の機器の状況にもよりますので、全ての環境での動作を保証するものではないことをご承知おきください。
HGST製の6TBハードディスクです。使用環境によってはもう少し小さい容量でも問題ないかも知れません。私が使用しているのは少し前の型なのですが、オーディオドライブ用外付けHDDとしてはベストな選択の一つだと思います。
Western Digital(WD)のクリエイティブモデルBlackの4TB HDDです。内蔵用HDDですが、ケースと合わせて外付けHDD化して使用するのもオススメです。こちらも信頼あるWD製で、中でもBlackはパワーユーザー向けに作られていて速度も十分です。
外付けHDDを使用する場合には接続方法についてしっかりと確認しておきましょう。現在はUSB 3.2 Gen 2やThunderbolt3が主流になっています。USB規格もThunderbolt規格も後方互換がありますが、本来のスピードが発揮できなかったり、別途変換ケーブルを用意する必要があったりします。
ライブラリドライブ
書き込みをほとんど行わず、大きなデータの読み込みを頻繁に行うライブラリドライブにはSSDを使用するのが最適です。
前述の通り、各種バーチャルインストゥルメントのライブラリは大容量のサンプリングデータを参照することが多く、本体のOSドライブを使用すると容量を圧迫するのでデスクトップPCの場合は専用SSDドライブを、ノートPCの場合には外付けSSDを使用するのがそれぞれ望ましいです。
タワータイプのデスクトップPCには、こちらのSATA接続のSamsung製2.5″ SSDがオススメです。私もSamsung製のSSDをデスクトップマシン用の各種ライブラリドライブや、USBケースに入れてバーチャルインストゥルメント用の外付けライブラリドライブやゲーム機用の外付けドライブに使用しています。
近年の大型ライブラリを備えたバーチャルインストゥルメント用に考える場合には、ライブラリ用のSDDには1TB以上の容量があった方が安心できます。
2.5インチSSDをタワー型PCに載せる際には2.5″→3.5″のマウンターが、外付けSSDとして使用するためにはケースがそれぞれ必要になります。
ノートPC用の外付けSSDでもSamsung製がオススメです。内蔵用同様に安定した動作と長い寿命を特徴としています。
既製品の外付けSSDは内蔵用SSD+USBケースと比べて相対的に高額になるケースが多く、私は内蔵用SSD+USBケースの組み合わせで使用しています。PCの知識があまりなくても簡単に組み立てが行えますが、不安な方は既製品の外付けSSDを検討してみるのもよいでしょう。
バックアップドライブ
再ダウンロードが容易なライブラリデータはともかく、DAWのセッションデータやオーディオデータ、OSドライブの定期的なバックアップは定期的に行っておく必要があります。頻繁ではなくとも大容量のデータを書き込むことが多いのとデータの長期保存が必要になるため、この用途にはHDDが向いています。
普段から接続しておく必要性はありませんがバックアップのタイミングですぐに使用できるようにデスク周りに置いておける、外付けHDDを用意しておくのがよいでしょう。PCのトラブルで内蔵HDDが機能しなくなる可能性と常時通電していることによる寿命の低下を考えると、この用途に限ってはデスクトップPCでも外付けドライブを使用することをオススメします。
転送速度に関しては、オーディオドライブほど重要ではありませんが大容量のバックアップを作成する時にかかる時間に直結するので、あまりにも低速なものを選ぶとストレスを受けます。
また、オーディオドライブ同様にデータの保守性が高いことが望まれるので、信頼性の高いメーカーのものを使用するようにしましょう。私はバックアップ用のドライブにもオーディオドライブと同様HGST製とWD製を使用しています。どちらの場合もエンタープライズモデルは必要ないかも知れませんが、しっかりとスペックを見定めて選択しましょう。
今のところ、バックアップに頼らざるを得ない状況に陥ったことはないのですが、備えあれば憂いなし、と言うことで定期的なバックアップは必ず行うようにしています。マーフィーの法則とでも言いますか、バックアップが不十分な時に限って起きてしまうのがトラブルです。
ディスクフォーマット
新規にHDD/SSDを導入した直後必ず行っておきたいのがディスクフォーマットです。ディスク形式をOSに適した状態にしておくことで動作が安定します。また、ディスクフォーマットが合っていないとデータの読み書きができなかったりと不都合が生じます。
Macではディスクユーティリティの[消去]から実行可能です。
現行のMacではAPFS(Aplle File System)が採用されていますが、High Sierra以前のOSとは互換性がないので外付けドライブのフォーマットには注意しましょう。実際のフォーマット方法についてはこちらのサイト様に詳しい解説があります。とてもわかりやすい解説付きなので参考にさせていただきましょう。
https://original-game.com/mac-ssd-hdd-format/
Windows機の場合は[コンピューターの管理]→[ディスクの管理]からです。現在メインのフォーマットはNTFSになります。
余談ですが、コンサート音響機器に使用するUSBメモリのフォーマットにFAT32形式が求められたのですが、その時、手元にはMacしかなくダメ元でexFATにフォーマットしても読まず、近くのネットカフェに駆け込んでFAT32にフォーマットした経験があります。
本題に戻って、Windows10環境でのディスクフォーマット方法は下記サイト様がとても詳しく解説しています。是非参考にさせていただきましょう。
http://reviewheavenly.jp/pc/format-yarikata
専門性の高い分野は専門家にお任せするのが私流です。
今はわからないことはインターネットの検索窓に入力すると教えて貰える時代なので、どんどん利用させていただきましょう。
3行でまとめると
- オーディオ・バックアップドライブにはHDD!
- システム・ライブラリドライブにはSSD!
- システムドライブへのRECは良くない!
最後に
今回はDAWで使用するPC/Mac周りのストレージについて解説してきました。
意外とシステムドライブだけで作業をしている方が多いことを聞いて驚かされますが、本文中でも触れた通り、DAWのオーディオデータをシステムドライブに書き込むことはシステムドライブの寿命を縮めるのでオススメしません。
用途に合わせた適切なストレージを選択することでトラブルの防止にもつながりDAWの動作も安定するので、是非DAW環境を整える一環としてドライブ構成を考えてみてください。
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