Microphone

現役エンジニアが教える、ドラム録音にオススメのマイク〜第2回〜

ドラムの録音に使用するたくさんのマイクの、選定基準や、立てる位置・角度についての疑問を解消して行こうという企画の第2回です。

第1回はバスドラム・スネアの録音に適したオススメのマイクを紹介してまいりましたが、今回はハイハット・タムタム類に使用するマイクをご紹介していきます。

第1回記事はこちらをご覧ください。

前回記事の冒頭・文中でドラムのレコーディングに関しての重要な点について触れているので、この記事に直接いらっしゃった方は先に第1回をご覧になっていただいた方がご理解も深まるかと思います。

記事内では、ドラムのレコーディングに適したマイクロフォンを、ドラムスの各キット、使用方法ごとにご紹介していきます。ドラム録音と銘打っていますが、ライブPA/SRでも使えるマイクや考え方なので、参考にしていただければ幸いです。



目次

ハイハットにオススメのマイク

hihat

金物(ハイハットやシンバル類)をマイク集音する際には、皮モノ(ヘッドを貼ってあるキット)よりも離れた位置から集音することが多いです。ことハイハットに関しては、あまりオンマイク(近接集音)で集音すると、オープンとクローズで音量が大きく変わってしまいます。

また、金物の生音は意外と多くの低域成分を含んでいます。極端な話、あまりオンマイクによる近接効果を受けてしまうと『お寺の鐘』のように「ゴ〜ンゴ〜ン」というような低域にマスキングされて、肝心な高域の「シャンシャン」が抜けて来ないことになります。

このことからオフマイク目に録るのですが、多くの場合、すぐ近くに音量最大級のスネアドラムが存在しています。ドラマーのセッティングやタッチの強さにもよりますが、ハイハットのマイクにはスネアがハイハットと同じ位の音量で被ってくるのが正常です。逆もまた然りで、スネアのマイクにもハイハットは多分に含まれています。

基本的には表面側から10〜20cm程度離れた位置からマイクを立てて録りますが、エンジニアによっては裏面からマイクを立てたり、ほぼ真横からシンバルの合わせ目に向けて地面と水平に近い角度で立てたり様々です。どの場合にも音源とマイクの距離感は概ね上記位の範囲です。ライブ音響よりもレコーディング時の方が若干オフマイク目に立てることが多いです。

マイクを向ける場所ですが、ヘッドの縁がリムに固定されている皮モノは中心の振幅が最も大きいため中心付近で基音に近い成分が録れ、低域成分が豊富でしたが、ハイハットやシンバルは中心部分が固定されているため、カップ部分よりもエッジよりの方が基音が豊富です。エッジに寄って行くと低音の効いた荒々しいサウンドになります。

また、ハイハットは2枚のシンバルが合わさった構造になっていますが、シンバル同士が触れる音がハイハットサウンドの特徴です。上品なサウンドが欲しければ中心付近に向けて行くのですが、あまり中心に向けるとこの特徴が拾えないことになります。

上記2点の間、カップ部分とエッジ部分の間のなだらかな部分ををボウと言いますが、このボウのカップよりの位置を基本位置に置いて、その位置から欲しいサウンドによって調整していくのがよいでしょう。

アタック音を狙ってスティックとハットが当たる場所に向かって立てると良さそうな印象がありますが、「カキンカキン」とうるさい上にスネアが大きく被り込んでくるためオススメできません。

AKG
C451B


コンデンサーマイクの雄AKG(アーカーゲー、アカゲなど)のペンシル型コンデンサーマイクC451(通称:シゴイチ)です。ダイアフラムが大きいサイドアドレス型のコンデンサーマイクよりも細長くて、マイクの向きを管理しやすいため、個人的にハイハットにはこちらのタイプがオススメです。

本体に備わったPADスイッチとHPFにより、マイクのキャラクターを調整可能な部分が使いやすく、ドラムのシンバル類からアコースティックギター、ピアノなどの集音に使用することが多いです。

c451b_f

f特は非常に綺麗な平面型をしています。2種類のHPFを入れた状態でも低域が綺麗にロールしていっていますね。

高域は10kHzから15kHzあたりになだらかなピークがあります。MIX段階で作為的に倍音を足さなくても録り音の段階で十分に集音出来る印象です。

ちなみに、周波数特性グラフの測定条件はメーカーによってまちまちだったりします。第1回の同社D112mkIIを見てもそうですが、AKGは比較的甘めの測定結果をパターンにしている印象を受けます。が、実際にC451はペンシル型コンデンサーマイクの基準にもなっているマイクロフォンで、癖がないため色々な楽器に使用できるマイクです。

C451のようなコンデンサーマイクを使用する場合には、ファンタム電源をオーディオインターフェイスやマイクプリアンプから送ってやる必要があります。現代ではほとんどの機種が内臓していますが、一応注意が必要です。

AKG
C480B COMB ULS/61


こちらもAKGのコンデンサーマイクです。複雑な名前になっていますが、プリアンプ部C480B ULSに単一指向性カプセルのCK61 ULSが取り付けられたものです。一般的にはカプセル込みでC480で通じます。480(ヨンハチマル)と呼ばれています。

こちらも低域のフィルターとPADスイッチが備わっていて、様々な音源に適用できます。

c480_f

ウルトラフラットの売り文句と実際のサウンドイメージもf特とほぼ同様で、ひたすらにフラット、という一言につきます。

C451のように高域にピークが設けられておらず、鳴っている音をそのまま拾ってくるマイクです。落ち着いた雰囲気のサウンドを狙う場合にはこちらの方が合うかもしれません。また、薄めのハイハットをC451で集音すると若干ですが、耳障りに感じる時があります。そんなときにこちらのC480に差し替えてみると、高域が落ち着いて、うまい結果になることが多いです。

SHURE
SM57-LCE


金物にはコンデンサーマイクのイメージが強いですが、ダイナミックマイクでも狙いがしっかりしていれば集音が可能です。さすがに超高域の特性ではコンデンサーマイクには及びませんが、マイキングに気をつければ十分に使えるサウンドを拾ってくれます。

sm57_f

5kHzあたりのピークが若干うるさく感じる面もありますが、ここをEQで均してやるとその上のハイハットに適したピークが浮き上がってきます。エッジ側を狙うとうるささが際立ってしまうので、コンデンサーマイク使用時よりも若干内側、カップよりを狙うのがよいでしょう。

コンデンサーマイクはハードルが高い、という方にはこちらもオススメです。同社のBeta57Aも同様の使用方法でハイハットに使えます。



タムタムにオススメのマイク

toms

タム類もスネアドラム同様に音は筒状の胴の上下に抜けます。スティックとヘッドのアタック音を録るために打面に立てるのが基本ですが、演奏の妨げにならないよう、リムの側から角度を付けて狙ってやる必要があります。

振幅が大きい中心付近を狙えば基音付近の低域が中心に録れ、リムの近くを狙えば倍音成分が中心に録れます。タム類に関してもどのマイクを使用するか、と同じかそれ以上にマイクの立て方が重要になってきます。

タムが複数ある場合、基本的には同一のマイクロフォンを使用します。フロアタムには別のマイクを当てる場合もありますが、同じシリーズのタムのサウンドは同じシリーズのマイクで拾った方がセットとしての一体感が出しやすいです。

また、キャノンタムやメロタム、ロートタムなどボトム側にヘッドが貼られていないタイプのタムサウンドは、裏側から抜けるサウンドが特徴となります。そのため、打面からマイクを立てるよりも裏面にマイクをセットした方が、『らしさ』の部分をうまく拾うことができます。

上記画像は左上がメロタム、左下がロートタム、右側がキャノンタム(ロケットタム)の画像です。

逆側からマイクを当てるということで、当然のごとく位相は逆になっています。タムの場合、他のタムと同時に叩くことも考えられるので、位相反転させておくのが無難です。

余談ですが、バスドラムは打面の反対側からマイクを当てているため、考え方としては他のキット類とは逆相になっています。あまり気にすることはありませんが、フロアタムなどとの絡みが悪かったりする場合、位相を反転させてみるとうまく行くことがあります。

SENNHEISER
MD421-II


MD421-II初代のころから何にでも使える系マイクの鉄板421(ヨンニーイチ)、通称クジラです。現代風の小型マイクに比べるとマイクアレンジに手こずる場合がありますが、本体のHPFコントロールと合わせて多彩な音源を集音することが可能なマイクロフォンです。

タムやスネア、ギターアンプ、サックスなどの管楽器に使用されることが多いのですが、タムに使用する場合には使用するマイクスタンドに気をつける必要があります。

マイクにそこそこのサイズ感があるので、ショートブームのスタンドでタムに向かう場合には、アームを伸ばしきった状態で使用することになります。マイクの重量でブーム部分が下がって来てしまうことがあるので、可能であればボーカル用などに使用するレギュラーブームスタンドを使用するようにしましょう。

また、マイク本体とマイクスタンド取り付け部を繋ぐ部分の強度に若干の不安があります。レコーディング使用の場合には問題になるケースは少ないですが、ライブ音響で使用する場合には、当該部分をインシュロックなどで補強するなどして強度を確保するのが無難です。

md421ii_f

さて、f特ですが、5段階のHPFがOFFの状態で80Hzから1kHzまでがフラットです。当然近接効果による低域の増大があるので、このまま録れるわけではありませんが、ダイナミックマイクとしては非常に綺麗なグラフをしています。

また、近接効果を軽減するためにHPFスイッチがついています。XLR端子の根元部分が回転し、M(Musical)→S(Speach)に向かって低域が削れていきます。個人的にタム類に使用する場合は1段位のカットがちょうど良いのかな、と感じています。高域のピークは5kHz付近に見て取れ、15kHzあたりまではかなりはっきりと出てくれます。

このあたりの倍音が豊富に録れていると、元気な、ハリのある、派手な印象のサウンドになります。ロックドラムには最適なマイクの1本だと言えるでしょう。

また、MD421はバスドラムに使用するマイクとしても一般的です。その場合にはHPFはOFF(M)の状態で、近接効果を活かして低域を補充するイメージで使用します。低域に存在感がありつつもタイトなサウンドが集音できます。

SENNHEISER
e904


同じくSENNHEISERのe904です。今更ですが、SENNHEISERはゼンハイザーって読みます。

スネアの項でもご紹介しましたが、マイキングに場所を取らないのが最大の利点で、自由なアレンジができるのが強みです。前述の通り、タムの録音にはマイクチョイスと同じかそれ以上にマイクアレンジが重要になってくるため、設置に自由が効いて、集音中にヅレて来ないe904は非常に有利です。

ドラムセット全体の振動によるタムの鳴りを録りたい場合にはスタンドで設置することも可能です。

e904_f

こちらも421同様に80Hz付近から1kHz付近までがほぼフラットな特性になっています。500Hz付近から少しずつハイ上がりになって行くのですが、高域に作為的なピークがないため、421よりはジャンルを選ばない印象です。

フラットな特性で、マイクアレンジに幅があるために、センター狙いで低域を集音する場合から、リム狙いでほぼ真下を向けて高域狙いで集音する場合まで、マイキングとサウンドの関係の重要さを教えてくれるマイクです。

SHURE
Beta56A


SHUREのマイクロフォン、Beta56Aもタムに非常に適したマイクです。

首の部分が稼働するためにマイキングが楽で、ケーブルも上部に出っ張らないので狭いところにも行けたりします。

 

f特はご覧の通りです。さすがに3mmへの設置はないかと思いますが、25mmあたりは現実的な距離になってきます。低域のピークが200Hz付近に現れるのですが、この辺りは個人的に魔の帯域と呼んでいる位、混み合うと厄介な帯域となっていますもう少し重心が低ければよかったのですが。ちなみに、一番下の0.6mmは0.6mの誤植ですね。

高域に程よいピークがくるので、抜けは良いのですが、SENNHEISERと比べると、若干オフマイク気味にセットするのがよいでしょう。高域のピークも嫌味がないのでジャンルを選ばず使えるマイクということができます。

beta57a_f

ちなみに、こちらはBeta57Aのf特です。

同シリーズということでかなり似た特性になっています。というか、私自身区別が付く気が全くしません。ボーカルマイクとしても使用可能な形状のBeta57Aを入手して、楽器の集音に使用するのもアリです。当然SM57をタムに使用するのもアリです。極端な話、バスドラム以外の楽器全て57でもありです。

余談ですが、私はライブ音響でギターアンプにBeta56Aを使用することが多いです。狭い会場などではSM57のようなマイクを使用することでケーブルが出っ張るので、真下にケーブルが落ちてくれるBeta56Aは便利に使用できます。



3行でまとめると

  • ハイハットは外側に基音成分が多い!
  • タムは内側に基音成分が多い!
  • どちらもマイクの向きが超重要!

最後に

第1回、バスドラム・スネアドラム編に続き、今回はハイハット・タムタム編をお届けしてまいりました。

バスドラムやスネアドラムと比べるとマイキングがいい加減になりがちですが、よりマイキングが重要になってくるのはどちらかというとこっちです。

ハイハットはロック調の曲でガンガン叩くのか、バラード調の曲で足で鳴らすことが多いのか、などによっても目指す方向が変わってきます。マイクチョイスとマイクアレンジでプレイヤーの表現を逃すことなく取り込む必要があります。

タムに関しては、曲中での登場回数もスネアやバスドラムよりもかなり少ないですが、多くの場合、ドラムの見せ場、フィルインで使用されるので、ここのサウンドがかっこよく決まるとメリハリの効いた、良いドラムになってきます。

こちらに関しても、EQやフィルターを使ってどの帯域にどんな成分が存在するのか、を確認し、欲しい成分が録りやすいマイクで、録りやすいマイキングで録音することで仕上がりにまとまりがでてくるでしょう。

第3回の記事は以下のリンクからどうぞ、オーバーヘッドマイクやアンビエントマイクについての記事です。

 


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