以前の記事でシングルコイル・ハムバッカーそれぞれのメーカー別オススメピックアップをいくつかご紹介してきました。
個別のピックアップはご紹介してご好評をいただいているのですが、どう組み合わせるのがよいのか、という質問もいただいているので、実践的な組み合わせ術をご紹介して参ります。
以前の記事は以下のリンク先です。
この記事では、レスポールに代表されるHH配列(2H配列)=ツーハム配列のギターにオススメのピックアップセットをご紹介していきます。
目次
HH配列のオススメピックアップセット
HH配列のギターではハムバッカーの持ち味である『音の太さ』を活かしつつ、ブライト感・音抜け感をキープするのが重要です。
上記の命題の回答として、各メーカーはフロント(Bass/Rythem/Neck)側にローパワーなビンテージ系ピックアップを、リア(Treble/Bridge)側にハイパワーなモダン系ピックアップを組み合わせることを推奨しています。
ビンテージ系ハムバッカーを語る上で外せないのが、『PAF』ピックアップです。PAFとは、Gibsonがハムバッカーを開発した当初、特許出願中という意味のPATENT APPLIED FORと刻印されたシールをピックアップの裏面に貼り付けていたところが由来の名称です。
オリジナルPAFは今でも高値で取引がされるほど信者が多く、本物のビンテージサウンドはコレしかない、という人が後を絶ちません。現在でもPAFのサウンドには人気があり、多くのビンテージ系ハムバッカーはPAFのレプリカです。
フロントはリードプレイ時の音抜けや、クリーントーン・クランチトーンがこもらないようにブライトなピックアップを、リアには硬くなりすぎないハイゲインサウンドに対応可能なピックアップをマウントすることで、幅広いジャンルに対応させて行こうという意図を感じます。
シングルコイルほど顕著ではないですが、パワーとブライトさはある程度反比例する点は変わりません。この間でバランスを取って選んで行くことになります。
また、HHレイアウトのギターはレスポールやPRS、Schecterなどのマホガニーボディで低域〜中域が膨よかなものから、SuhrやFenderテレキャスターデラックスのようにバスウッド材やアルダー材などの各帯域のバランスが良いもの、アッシュ材などの高域に特徴のあるものまで様々です。
今回はこのあたりも含めて、HH配列にオススメのピックアップセットをご紹介させていただきます。
Seymour Duncan
SH-2n / SH-14
セイモア・ダンカン氏が推奨の組み合わせはSH-2nとSH-4なのですが、ちょっと一般的すぎるのと、わざわざここでオススメするまでもないと言うことで、軽く変化球にしてみました。レスポールに載せるピックアップセットとしては定番以外のもう一つの答え、みたいな組み合わせです。
フロントのSH-2n JAZZ MODELはブライトさを求めるのが一番難しいポジションであるフロントハムバッカーとは思えないほど、綺麗に抜けるブライトなサウンドが特徴です。
クリーン・クランチトーン時はもちろんのこと、ハードに歪ませてリードプレイをした際にも音像が前にスッと抜けて来る、どこかシングルコイル的なブライトさを持っています。ここまで綺麗な抜けを持つハムバッカーは他にはないのではないでしょうか。
リアには一般的にはSH-4 JB MODELを組み合わせます。言わずと知れたジェフ・ベックがテレギブに載せるために開発されたモデルです。JBはジェフ・ベックのイニシャルから来てるんですね。
SH-4のサウンド面は、ハイパワーな中でも中高域〜高域に大きなピークがあり、一つ前で鳴っているような抜けるサウンドが持ち味です。ただ、ヘヴィメタサウンドなどの、いわゆるドンシャリ系の音は苦手としていて、高域は簡単に抜けてくるのですが、低域が今ひとつ、ついてこない印象があります。また、中域をカットして歪ませて行くと、結構簡単に音が潰れます。
そこで、リアにはSH-14 Custom5を組み合わせるのをオススメします。
SH-14はSH-5 Duncan Customのマグネットをセラミックからアルニコ5に変更したモデルで、中域が程よく抑えられている他は帯域ごとのバランスも良好です。シングルコイルに低域が足されたような自然なブライトさがあるので、アンサンブルの中で中域が突っかかることもなく、自然に抜けていくのが特徴です。
オリジナルのSH-5もオススメですが、フロントのSH-2nとの相性を考えると、少し中低域とセラミックマグネット特有のクセの強い高域が出過ぎかな、と感じてしまいます。
レスポール系のメイプルトップ・マホガニーバックのボディにマウントするのはもちろん、ディンキー・ソロイストシェイプなど、アルダーボディやアッシュボディに使用するのにもボディの鳴りをそのまま出力してくれるので期待できます。
また、ダンカンのリアピックアップをトレモロ搭載ギターに載せる場合には幅広のトレムバッカーTB-14を選びましょう。
Seymour Duncan
SH-6n / SH-6b
こちらは、面白みに欠けるかも知れませんが、SH-6 Duncan Distortionのセットです。名前の通り、セラミックマグネットを使用した歪みサウンドが得意なピックアップで、コシのある太いサウンドが特徴です。
SH-6nはDuncan Distortionのフロント用モデルです。フロント用のモデルは弦の振幅が大きいフロントにマウントされることを想定されているため、基本的にはブリッジモデルよりもローパワーになりますが、直流抵抗値13.0kと先ほどのSH-14(直流抵抗値14.1k)と大差ありません。
実際のサウンドはそこまでパワー感を感じるわけではなく、適度なパワー感と抜け感を持っています。また、クリーントーンでもエフェクターノリがよく、使えるサウンドに落ち着くイメージです。
リアのSH-6bはダンカンSHシリーズの中でも最大級のハイパワーピックアップです。セラミックマグネットを使用しているため、深く歪ませても高域が残り、抜けるサウンドを得ることができます。逆に、ギター本体のボリュームや、ピッキングへの追従性についてはSH-14と比べると見劣りする印象があります。
ダンカンのラインナップはブリッジ用の高出力モデルと、ネック用の低出力モデルという取り合わせが公式にもオススメされていますが、ネック用のピックアップに選択肢がやや少なく、自由なコンビネーションを楽しみづらくなっています。このSH-6セットに関してはどちらもハイパワーという異色の取り合わせと言うこともあり、ご紹介させていただきました。
マホガニーボディでは押し出しの強い中域を強調したようなサウンド、アルダーやアッシュでは中域に特徴を残しつつも、ブライトなサウンドを得ることができます。
Gibson
Burst Bucker type1 / Burst Bucker type2
GIBSON / BURST BUCKER TYPE1 NICKEL
GIBSON / BURST BUCKER TYPE2 NICKEL
こちらは、本家Gibsonのレスポール用ピックアップセットです。ビンテージPAFのサウンドをモダンな出力で再現した、本家が作ったPAFレプリカです。
フロントには出力を抑えた温かみのあるトーンが特徴のBurst Bucker type1を、リアには少し出力を高めたBurst Bucker type2を組み合わせたセットです。
フロントのtype1はPAFレプリカとしてしっかりと機能し、甘さと抜けの良さを両立したクリーントーンと、歪ませた際のスムースなサウンドが特徴です。
リアのtype2は、程よいパワー感と豊かな中低域が特徴で、歪ませた際の中低域のコシは他のピックアップでは中々味わえないものがあります。反面、レンジは狭く、アンサンブルの中では埋もれがちなサウンドと言うこともできます。
Burst Buckerにはよりハイパワーなtype3もありますが、個人的にはPAF系ピックアップでtype3ほどのパワーは不要と考えています。サウンド的にも中域に音が集中する傾向がtype2よりもさらに強く、アンサンブルの中での音抜けは期待できません。
オリジナルPAFを使用したことがないので、あまり正当な評価は下せませんが、ビンテージレスポールでレコーディングされている(と思われる)年代のサウンドを聴く限りでは、現代のピックアップと比べて、音抜けが悪いのはオリジナルを踏襲してると言えるのではないでしょうか。
音楽シーンの変化とともに、ビルローレンス、ダンカンやディマジオなどのハイパワーで音抜けの良い、リプレイスメントピックアップにシェアを食われたのは仕方のないことだと思います。
ただ、CD等で聴く限り、本当のビンテージレスポールのサウンドに近いのはこちらなのかな、と思う次第であります。
Dimarzio
DP193 / DP155
ディマジオのハムバッカー定番の組み合わせです。
フロントにはDP193 Air Nortonを搭載します。中域の押し出しの強いリード向きのピックアップというイメージがあります。歪みを抑えると程よくブライトなトーンを得ることができますが、ダンカンピックアップに耳が慣れていると抜けが悪いと感じるかも知れません。
リアにはDP155 Tone Zoneをマウントします。中低域が非常に特徴的なピックアップで、ディストーションサウンドでその真価を発揮します。図太い中低域に比べて高域がやや物足りず、セッティングによっては抜けが悪いと感じるかも知れません。
以上がレスポールタイプなどのマホガニーボディにマウントした際の率直な感想です。一時期(今でもかな)Ibanezのj.custom製品の2ハムモデルにはこのコンビネーションでマウントされていましたが、個人的にはRGなどのマホガニーボディと合わせたサウンドは好みではありませんでした。
が、アッシュボディにマウントされたサウンドを耳にしたときには、この『抜けない』という評価は一変しました。
DP193は程よいブライト感とスムースな中域がマッチしていて、クリーンでもリードサウンドでもきっちりと抜けてきます。深めのディレイをかけてもサウンド自体が引っ込むことはなく、アンサンブルの中でしっかりと抜けてきます。
DP155は図太い低域〜中低域を持ちつつも、音抜けがよく、深く歪ませても潰れないサウンドを持っていました。サスティーンも綺麗に伸びきる印象を受けました。
というところで、どちらかと言うとアッシュ、アルダーボディのディンキー・ソロイスト系のギターにマッチしたピックアップという印象です。
ディマジオピックアップはトレモロブリッジ搭載ギター用のリアピックアップモデルとして、F-SPACEと銘打った幅広のモデルをリリースしています。FはFenderのFだそうです。トレモロ搭載モデルにはF-SPACEを使用しましょう。
Dimarzio
DP151 / DP100
ディマジオからもう1パターンご紹介して行きます。こちらはマホガニーを含めてどんなボディ材ともマッチしたオールマイティーな取り合わせですね。
フロントにはDP151 PAF Proを選びました。ディマジオピックアップの中では音抜けの良いピックアップで、フロントポジションでも埋もれないサウンドを出力してくれます。また、ピッキングやボリュームノブへの追従性も高く、コントロールしやすいサウンドが特徴です。
リアは名機DP100 Super Distortionをチョイスしてみました。ディマジオラインナップの中でも非常にハイパワーなピックアップで、ディストーションサウンドで音の塊を出力することが可能です。また、意外に繊細な面も持っていて、歪みを抑えたときにも程よいブライト感と中域が心地よいドライブ〜クランチサウンドを出力します。
さすがに、DP100はクリーントーンは苦手としますが、そこをフロントのDP151で補うような使い方がハマるのではないでしょうか。Dimarzioピックアップでは一押しの組みあわせです。
余談ですが、Dimarzioのピックアップの型番ロジックにはだいぶ悩まされています。Tone Zoneとか、Super Distortionと言われれば理解できるのですが、シングルコイルもハムバッカーもP-90も、全てDPxxxの型番で表されています。Dimarzio Pickupsの頭文字を取ったのだとは思うのですが、困惑します。
しかも、数字で判別可能なのはDP7xxやDP8xxの7弦や8弦モデルのみで、DP1xxの型番でハムバッカーもシングルコイルもソープバーも存在しています。重ねて、近年、各種アーティストモデルを多くリリースしているため、型番が埋まっていき、さらに混沌としています。
何が言いたいかと申しますと、ディマジオピックアップを購入するときには型番をしっかりと、3回位確認してから注文&購入しましょう、と言うことです。
EMG
89-X / 81
今回最後にご紹介するのは、EMGのアクティブピックアップです。駆動に9V電池が必要で、パッシブピックアップからの交換時には電池を収納するスペースを設けなくてはならないため、若干敷居が高いですが、特徴的なサウンドを持っているためご紹介させていただきます。組み合わせるボティは選びません。一説によるとベニア板にマウントしてもサウンドが変わらないそうです(実際にそんなことはないと思いますが)。
定番の組み合わせとしては、フロント85、リア81ですが、少しひねりを加えてみました。
まずフロントには89-Xをマウントします。89-Xは89の後継機種で、ハムバッカー85-XのサウンドとシングルコイルのSA-Xのサウンドをスイッチで切り替えて使用することが可能です。加えてXモデルでは内臓プリアンプのレンジが拡大されていて、ピッキングニュアンスをしっかりと拾うことが可能です。
また、Xプリアンプは9V電池を2個直列に使用し、18V動作をさせることでダイナミックレンジがさらに拡大します。さすがに9V電池2個をキャビティ内には収納できないので、電池用のザグリが新たに必要になりますが、試して見る価値アリです。
リアには定番の81を選択しました。EMG特有のレンジが狭く、コンプレッサーが掛かりっぱなしのようなサウンドが81-Xよりも得やすいというところが選定基準です。せっかくセラミック・スチールマグネットの全帯域しっかりと出力されるピックアップなので、張り付くようなディストーションサウンドを出して行こうという試みです。
81の弱点(?)は、エフェクトをしっかりとかけた、冷たいクリーントーンは得意とするものの、温かみのあるクリーントーンは若干苦手な部分でしょうか、それをフロントの89-Xで補っていく方向性です。
EMGのアクティブピックアップ全般の特徴として、エフェクターの乗りが抜群にいいことも挙げられます。アンプの歪みをボリュームやピッキングでコントロールする使い方よりも、マルチエフェクターなどを使用し、場面場面でピックアップとエフェクターのプリセットを切り替えて行く使い方がハマると思います。
近年のハムバッカーはそこそこにローノイズなものが多いので、大きなアドバンテージにはなりませんが、アクティブピックアップはピックアップ自体は低出力で、それを内臓プリアンプでブーストして出力している結果、非常にローノイズです。これもパッシブピックアップと比べてハイゲインサウンドに向いている点ですね。
89-Xをレスポールやソロイストなどのリアルート(ピックガードにアッセンブリーが付いていないタイプ)のギターにマウントする場合には、いくつかの注意点があります。85-XサウンドとSA-Xサウンドを切り替えるスイッチは基本的にプッシュプルポットを使用します。
EMGピックアップに使用するポットは25kや50kと言うパッシブに比べると抵抗値の低いローインピーダンス用のポットを使用するわけですが、ボディ厚分しっかり届くロングシャフトポット(リアルート用のポット)が非常に入手困難です、しかもボディ穴形状によりミリとインチの区別があります。入手可能な場合でも他ポットと比べて大変高価です。
また、EMGは内部配線に半田ごてが必要ない、スナップ式のコネクタを使用しています。これが逆に曲者で、EMG純正のポット(高級品)以外を使用する場合には、ケーブルを加工する必要があります。
85-Xを使用することで、その苦労からは解放されるわけですが、ブライトなトーンを得るのが難しくなります。非常に悩ましいところですが、可能であればバッテリーボックスと共に楽器店さんに依頼するのがベターでしょう。
3行でまとめると
- お互いの弱点をもう一方で補完するような組み合わせを!
- フロントでブライトサウンドは得づらい!
- マグネットの素材にも注目!
最後に
EMGの項だけやたら長くなってしまいました。
2ハムのギターはトグルスイッチで切り替えるタイプだと配線であまり遊べないのですが、5wayのスーパースイッチがあると可能性は無限大です。コイルタップを絡めた配線ではピックアップが2つしか載っていないとは思えない位のサウンドバリエーションを誇るので、考えてみるのも楽しいのではないでしょうか。Ibanezの2ハムモデルとか、非常に参考になります。
ちなみに、コイルタップが可能なモデルは4コンダクターとか、3コンダクターのモデルです。コンダクターって言うとわかりづらいけど、ピックアップから出てる配線の数のことです。今回ご紹介したピックアップはEMGとGibson以外全てコイルタップ可能なモデルです。
皆様のピックアップ選びの一助になれていれば幸いです。
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