今回は、実践的ピックアップ選定HSH編です。HSHレイアウトでは、出せるサウンドの幅も広く、現代のエレキギターのピックアップレイアウトの一つの完成形ですね。
以前の記事でシングルコイル・ハムバッカーそれぞれのメーカー別オススメピックアップをいくつかご紹介してきましたが、本記事では実践的な組み合わせ術をご紹介していきます。
以前の記事は以下のリンク先です。
また、このシリーズの記事ではセットにするピックアップをそれぞれ単一のメーカーに統一してご紹介しています。
これには理由がありましてサウンドキャラクターの統一性といった理由と、それ以上に位相の問題が大きく関係しています。
ピックアップには必ず固有の位相というものがあります。この位相は正相(+)か逆相(-)で表され、これらが混在するとハーフトーン時にフェイズアウトしたサウンド(通常使いものにならない)が意図せず出てしまいます。テスターと簡単な電気の知識があれば、ピックアップの位相は切り替えることが可能ですが、それは別の機会にでもご紹介させていただきたいと思います。
目次
HSH配列のオススメピックアップセット
HSH(ハムバッカー/シングル/ハムバッカー)配列は、HH配列にハーフトーン用のセンターピックアップが追加されたピックアップレイアウト、と考えるのが良いのではないかと考えています。
しかし、通常、ハムバッカーはシングルコイルピックアップよりも高出力なため、シングルコイルとハムバッカーのハーフトーンではシングルコイル側の音が負けがちです。
ビンテージ系の音抜けの良いローパワーなハムバッカーはシングルコイルとハーフトーンにしてもシングルコイルが完全に負け切ってしまうことはありませんが、モダンでハイパワーなハムバッカーとビンテージ系のシングルコイルをハーフトーンにしても効果は非常に薄いです。
ハーフトーンを綺麗に出すためにシングル・ハム間の出力差を埋めるためには、ハイパワーなシングルコイル(スタックシングルなど)を使用するか、ハムバッカーをコイルタップして出力を落とすか、の2つの手段が考えられますが、ハーフトーンの音抜け感を最大限に得るためにはハムバッカー側をコイルタップしてシングルコイルピックアップとして使用するのがベターだと考えています。
そのため、フロントピックアップ・リアピックアップには他のピックアップレイアウト以上にコイルタップ時のサウンドの質が求められます。
コイルタップについては下記記事をご参照ください。
また、22(21)フレット指板のエレキギターに比べて24フレット指板のエレキギターでは同じピックアップ配列でも、フロント・センターピックアップのマウント位置がブリッジよりになります。このことで、ピックアップの間隔が狭まり、ピックアップごとのサウンドキャラクターにあまり差が出なくなります。
ストラトキャスターのように綺麗なハーフトーンを出力したい場合には、22(21)フレット打ちのギターの方が有利になります。
なお、HSH配列のギターにはトレモロ付きのモデルが多くなっています。トレモロ搭載ギターの場合、リアピックアップにはトレムバッカーやF-Spaceなどの幅広のピックアップを選択しましょう。
Seymour Duncan
SH-1n 4C / SSL-1 / SH-16
SEYMOUR DUNCAN / SH-1n BLACK 4C
こちらは、セイモアダンカンのオールマイティーなピックアップセットです。このピックアップセットでは、そこまで高出力のピックアップを選択せず、全体的な出力バランスと音抜けを最優先に考えています。
フロントのSH-1n ’59 MODELは59年のPAFレプリカピックアップです。現代のピックアップと比べるとローパワーですが、フロントの甘いトーンの中にもスムースな中域〜高域を持っていて、音抜けのいいピックアップです。4Cと付いているモデルは4コンダクターモデルで、通常の配線に加えてコイルタップ配線やパラレル配線が可能になっています。
センターピックアップにはSSL-1を選択しました。ダンカンシングルのベストセラーモデルで、ボディの鳴りをしっかりと拾ってくれます。ハーフトーンを補助するピックアップと考えると癖もなく、使いやすいピックアップと言うことができます。
リアにはSH-16 The 59/Custom Hybridを選択してみました。SH-1b ’59 MODELのアルニコ5ポールピースに片方はそのままSH-1bのコイルを、もう一方のコイルにはSH-5 Duncan Customのものを使用して高出力化を図っています。
ネック寄りのコイルが高出力コイルのため、コイルタップ時にネック側のコイルを残す(通常の配線)ことで、SH-14 Custom 5をタップした時と近い抜けのあるシングルコイルサウンドを得ることができます。ダンカンシングルだとSSL-6 Custom Flatに近いサウンドですね。
SH-16も十分な歪みを得ることができるピックアップですが、リアピックアップにさらに高出力が必要な場合には、SH-14 Custom 5を選択するのがよいでしょう。
リアハムのオーバードライブサウンドはもちろん、フロントピックアップでのスムースなリードサウンド、コイルタップを絡めたハーフトーンでのカッティングやクリーントーンとどんなジャンルでも対応可能なのが強みです。
ボディ材を選ばず使用できるピックアップセットですが、ローパワー故に鳴りに影響を受けやすいセットでもあるので、マホガニー材ではレスポール寄りのサウンド、アッシュやアルダー材ではストラトキャスターよりのサウンドになる傾向があります。
トレモロブリッジ搭載機にはリアにトレムバッカーを選択するようにしましょう。
Seumour Duncan
SH-6n / STK-S6 / SH-6b
ダンカンのハイパワーセットです。SH-6 Duncan Distortionの2ハムの間にSTK-S6 Custom Stack Plusを挟んだセットになります。
ネック側のSH-6nはリードプレイ時に力を発揮してくれます。フロントピックアップとしてはかなりのハイパワーピックアップで、ロングトーンでもしっかりと最後までサスティーンを拾うことが可能です。コイルタップ時には独特の高域の出方をします。音抜けがいいと感じるか、耳に痛いと感じるかは個人の感覚によると思われますが、セッティング次第では使えるサウンドです。
ブリッジのSH-6bはセラミックマグネットを使用したハイパワーピックアップで、深く歪ませてもサウンドの芯と高域が残り、音抜け感をキープすることが可能です。その分プレイのニュアンスは出づらい傾向にあるので注意は必要です。コイルタップ時には単体で使用するには若干抜けが悪く、しかもなぜか少し痛いサウンドに豹変します。リアシングル的なサウンドが欲しい場合には別のセットを選択した方が良いかも知れません。
センターにはフロント・リアとの出力バランスと、ハイゲインサウンドで使用する場合のノイズ対策を考えて、スタックシングルSTK-S6を選択しています。ハーフトーンでのクリーンサウンド時などに、セラミックピックアップの硬さ、サウンドの平たさを補完するイメージです。
単体では使いづらいリアのコイルタップサウンドと合わせるとリアハムのパラレル接続的なちょっと不思議なトーンが得られます。硬さが感じられる場合にはピックアップの高さのバランスで調整するのがよいでしょう。
こちらも基本的にはボディ材を選ばないセットですが、ピックアップが高域をよく拾うため、メイプルトップのアッシュボディでは少しサウンドが硬いと感じるかも知れません。
ドロップチューン時にもしっかりと音抜けを確保できる歪みが得られるので、ダウンチューニングでハイゲインサウンドを多用するヘヴィメタ系のギタリストには非常にオススメのピックアップセットですね。
注意点としては、リアをトレムバッカーにするかどうか、という点に加えて、センターピックアップの厚みを考える必要があります。また、ダイレクトマウントの場合、共振防止のウレタンをピックアップの下にしっかりと挟んだ方が良いかも知れません。
通常のシングルコイルピックアップに比べて、スタックシングルのピックアップは積層構造により厚みがあります。現在のピックアップのザグリ次第ではピックアップキャビティに干渉してピックアップが実用的な高さにセッティングできない可能性があります。
購入前にピックアップキャビティの深さも確認しておきましょう。ちなみに、STK-S6の全体の高さは21.6mmです。この高さに加えて、裏側に配線を通すスペースを考える必要があります。実際にピックアップはボディ面よりも2〜5mm程度出っ張った状態で使用しますが、しっかり確認しておきましょう。
Dimarzio
DP260 / DP415 / DP261
こちらは、ディマジオのパワー控えめセットです。いい意味でディマジオらしくない、音抜けのいい組み合わせになります。
フロントのDP260 PAF Master Neckは、PAFレプリカを少しパワーアップしたようなサウンドが特徴で、フロントピックアップ単体でのリードプレイ時に力を発揮します。他のPAFレプリカに比べて若干ブライトな印象があり、サスティーンも豊富です。クリーンセッティングでもそのブライト感が心地いいピックアップです。
リアには同シリーズのDP261 PAF Master Bridgeを選択しています。ピッキングニュアンスに忠実で、全帯域に癖のないサウンドを出力してくれます。帯域バランスが良好なためか、スペック値よりもパワーを感じることができます。また、深く歪ませてもサウンドが破綻することなく、バランスの良いキャラクターをキープしてくれるのが特徴です。
センターにはDP415 Area 58を選択しました。非常にブライトで突き抜けたサウンドが売りのピックアップです。フロント・リアの、ちょっと重ためのサウンドにハーフトーンで混ぜていくことで、音抜け感を追加することが可能です。
出力バランスを考えると、ハーフトーン時にはコイルタップをせず、ハムバッカーの太さにセンターシングルのブライトさをプラスしていくような使い方がハマるかも知れません。
ディマジオピックアップのトレモロ対応サイズはF-SPACEと呼ばれています。ブリッジモデルを選択する場合にはトレモロの有り無しで必要なピックアップが変わるので注意しましょう。
Dimarzio
DP193 / DP408 / DP155
ディマジオの定番HHレイアウトのセンターにDP408 Virtual Vintage 54 Proを追加してバランスを取ったピックアップセットです。
フロントのDP193 Air Nortonはピッキングニュアンスに忠実で、綺麗に出力される中域と合わせてリードプレイに最適です。また、アタック・サスティーンの両面で優れているので、クリーントーンやクランチセッティングでも使えるサウンドを出力してくれます。
リアのDP155 Tone Zoneはディマジオのらしい中域の押し出しの非常に強いピックアップです。また、高出力なわりにはピッキングに追従してくれるピックアップという印象です。元々の中低域が非常に図太いため、深く歪ませても腰砕けにならず、太いサウンドを出力します。
センターには出力、サウンドバランスを考えてDP408を選択しました。一つ前のセットでご紹介したDP415に比べて、低域・中域がよく拾われるピックアップで、フロント・リアの図太いサウンドと合わせたときに線が細くなりすぎないようにバランスを取っています。
HHレイアウトの記事でも触れましたが、個人的にはかなりボディを選ぶセットという印象を持っています。マホガニーボディのギターにマウントすると、強烈な図太さを強調できるものの音抜けが悪いサウンドになりがちです。
ドロップチューン時にもしっかりと音の芯を捉えてくれるピックアップセットなので、ヘヴィ系サウンドにもオススメできます。
このピックアップセットはアッシュ材やメイプルトップのアルダー材など、比較的ブライトな鳴りをするボディに組み合わせることで、それらの材の細さを補完するような使用方法がマッチすると考えています。
Tom Anderson
H1 / SA1 / H2+
高級ギターブランドのHSHピックアップセットその1です。非常に優等生なピックアップをラインナップしていて、どれを取っても使えるサウンドを拾ってくれますが、やはりギターメーカーだからでしょうか、載せるギターを非常に選ぶ印象があります。ボディ鳴りが弱いギターに載せると、全体的に薄っぺらさを感じるかも知れません。
フロントにはH1を選択しています。Hシリーズの中では高出力なモデルではありませんが、他メーカーとも比べて考えるとビンテージ志向のピックアップよりも若干パワーがあるように感じます。サウンド面では中域〜高域がブライトに抜けてくる印象で、アンサンブルの中でも埋もれないトーンを得ることができます。
リアにはH3と悩んだ挙句H2+を組み合わせてみました。H2+は中域〜中高域に若干のピークがあるものの、各帯域のバランスが非常によく、載せるボディ材を選ばない点と、個人的にブライトなピックアップが好み、という点からです。クランチ〜オーバードライブの広いレンジを得意とし、深く歪ませた際にも音抜けをキープできます。
センターはSA1です。SA1はスタック構造のシングルで、ノイズが少ない点と、Hシリーズのモダンなサウンドに合わせるのにはベストでという点で選出しています。
ボディ本体がブライトに鳴るアッシュ材や、メイプルトップのバスウッド、アルダー材などのギターにはリアをH3にするのもオススメです。H2+ほどのブライトさはありませんが、低域〜庭中域が太く、ボディ鳴りと相互に補完しあえるため相性は良好です。
ドロップチューンを多用するギタリストの場合、H2+では低域の押し出し感が物足りなく感じられるかも知れません、そういったスタイル場合、リアにはH3を使用するのがよいでしょう。
余談ですが、トムアンダーソンのピックアップのネーミングロジックは非常に単純明快でわかりやすいのが特徴です。シリーズを表すアルファベット+数字一桁で構成されていますが、この数字が大きければ高出力のピックアップという実にわかりやすい仕様です。
Suhr
SSV NECK / ML / SSH
高級ギターブランドのピックアップセットその2です。こちらも優等生系ピックアップをラインナップしているブランドですね。また、Suhr自体が様々なボディ材でギターを製作している関係からか、ボディ材を選ばずに使用できるピックアップが多いのが特徴です。ちなみにSuhr(サー)と読みます。
フロントにはビンテージ寄りのピックアップSSVをチョイスしています。ダンカンのSH-2nにちょっと似た感じのブライトさが特徴で、歪ませた状態でもクリーントーンでも音抜けが良く、アンサンブルの中でも存在感を失いません。また、出力が控えめなわりにエフェクターのノリがよく、クリーントーンのコーラスサウンドなどは絶品です。
特筆すべきは、コイルタップ時のサウンドで、シングルコイルっぽさ全開のシルキートーンを出力することができます。
リアにはSSHを選択しています。同社のSSH+ほどハイパワーではないビンテージ系とモダン系の中間くらいの出力ですが、その分、各帯域のバランスが良く、芯がある中でブライトさもあり使えるサウンドを出しやすいのが特徴です。当然、よりパワーが必要な場合やダウンチューニングで使用する場合にはSSH+を選択するのもアリです。
こちらもコイルタップ時のシングルコイルサウンドが素晴らしく、ハーフトーンだけでなく、リアピックアップ単体でも抜けの良いブライトなのサウンドを出力してくれます。
中域の太いピックアップに耳が慣れていると細く感じられることもあるかも知れませんが、アンサンブルの中でこそ生きる音抜け重視のピックアップと言えるでしょう。
センターにはMLを選択しています。フロント・リアどちらとのハーフトーンも綺麗に出力することが可能で、ブライトさを補完するというよりも、コイルタップによりSSSレイアウトのギターのようなサウンドバリエーションに切り替えられるのが大きなメリットです。
ちなみに、リアピックアップに関して、SSH+の直流抵抗がおよそ17kΩであるのに対してSSHはおよそ12.8kΩです。マグネットの材質やコイル径の影響もあり、直流抵抗値だけが出力を決めるわけではありませんがアルニコ5マグネットでも、12kΩを超えていれば十分ハイパワーなピックアップと言うことができます。
参考までに、同じアルニコ5マグネットのピックアップでは、ダンカンのSH-4 JB MODELが16.6kΩ、SH-14 Custom 5が14.1kΩ、となっています。
他メーカー同様、ブリッジモデルにはトレモロブリッジ用のサイズがあります、53mmないしはFender Style Spacingと付いているのがトレモロブリッジ用のピックアップです。
3行でまとめると
- HHレイアウト+αで広がるバリエーション!
- バランス型とパワー型に分類してみた!
- バランス型でも十分ハイゲインに対応可能!
最後に
スーパーストラトやディンキー、ソロイストと呼ばれるギターに非常に多いHSHレイアウトのピックアップセットをご紹介してきました。
ハードロック系のアーティストが使い始めたレイアウトと言っても過言ではないHSHレイアウトですが、マウントするピックアップ次第ではオールマイティーに機能するギターにすることが可能です。
また、近年のチューブアンプやエフェクターはローパワーなピックアップでもセッティング次第で十分に歪みます。帯域ごとの特性がピーキーなハイパワーピックアップを使用するよりも、フラットで若干ブライトなビンテージ+α系のピックアップを使用して、ギターアンプでゲインアップした方がバンドアンサンブル内でサウンドが団子にならず、抜けてくる、と言ったことも少なくありません。
逆に、音圧感・低域〜中低域の押し出し感に関してはハイパワーなモダンピックアップに軍配が上がります。
最近、ハイパワーピックアップを使用して、アンプでガンガンブーストするギタリストが多い気がします。元々、「Marshallはフルアップが基本!」と言っていた時代には今ほどのハイパワーピックアップはなく、ビンテージピックアップをアンプでドライブさせるためにフルアップしていたのですが、ハイパワーピックアップはそんなことしなくてもしっかり歪みます。
パワーのあるピックアップでハイゲインアンプをフルアップすると、どんなピックアップとギターアンプでも音は潰れます。ピックアップを選定するのはもちろん大切ですが、実際、GAINとEQを少し絞れば音抜けが良くなるという状況も少なくありません。
使用しているピックアップの性能を良く考えてアンプやエフェクターのセッティングを行うというのが、どんなピックアップをマウントする場合にも最も重要な点です。
あくまでも、個人的な好みですが、ギター本来のレンジ感を損なわないためには、ビンテージ+α位のピッキングに追従してくれるピックアップを使用して、アンプで歪ませるのがバランスがいいと感じています。
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