エレキギターの購入前に必ず確認しておきたいカタログスペックについて、ボディ&ネック編と電装系・ハードウェア編の2回に分けてご紹介してきました。
今回の記事では、2つの記事でエレキギター各部の性能や優先すべきスペックについてはなんとなくわかったけど、実際にスペックを比較するにはどうしたらよいのか、○○したらよいのかについて考えていきます。
各部のスペックの読み方優先すべきスペックについては以下の記事をご覧ください。
目次
スペックの比べ方
ここにメーカー、ボディシェイプが同じで、価格帯やコンセプトが異なる3本のギターがあります。
便宜上、エレキギターAとエレキギターB、エレキギターCとします。早速各部位ごとにスペックを比較していきましょう。
BODYのスペック比較
では、最も優先すべきボディについてのスペックを比較していきます。
BODY | エレキギターA | エレキギターB | エレキギターC |
---|---|---|---|
Material | Alder | Basswood | Alder |
Finish | Gloss Polyurethane | Polyester | Lacquer |
Body Materialの比較
エレキギターAとCがアルダーボディ、Bがバスウッドボディとなっています。
ここから読み取れることは、3本とも比較的素直な鳴りをする木材で組まれているということです。
強いていうと、アルダー材に比べてバスウッド材は軽量で柔らかい素材であることが挙げられます。また、部位や木材のグレードによるのですが、バスウッド材は他の木材に比べて比較的安価な木材であるため、エントリーモデルのギター材に多く用いられています。
Body Finishの比較
エレキギターAがポリウレタンフィニッシュ、Bはポリエステルフィニッシュ、Cがラッカーフィニッシュとなっています。
塗膜が薄い方がギター本来の鳴りがはっきりと出る、といったことを踏まえると、ボディ鳴りを邪魔しないのはラッカーフィニッシュ→ポリウレタンフィニッシュ→ポリエステルフィニッシュの順になっています。
この3本の中では、Cのギターが一番ボディ鳴りが生かされるギター、次いでAのギター、ボディ自体の鳴りがあまり生かされていないのがBのギターということになります。また、ラッカーフィニッシュの特性からCとA、Bの鳴りの差は時間が立つほどに開いていくことが予想されます。
楽器を作る側の目線で考えてみると、良く鳴るボディに鳴りが生かされない塗装をすることや、ボディがあまり鳴らないギターにボディ鳴りを生かす塗装を施すことは考えづらいことが想像できるのではないでしょうか。このことからも、Aのギターに使用されているアルダーのグレードよりもCのギターのアルダーのグレードの方が高いことが予想されます。
また、Bのギターに関しては、バスウッド材でボディが柔らかいため、保護のためにポリエステルで厚めの塗装を施しているという考え方もできます。
塗装の手間に関しても塗装の薄さと同じ順番にかかり、工賃もそれにしたがって上がってきます。
NECKのスペック比較
続いてはネックに関するスペックの比較をしていきます。
項目が多いですが、ゆっくりと見ていきましょう。
NECK | エレキギターA | エレキギターB | エレキギターC |
---|---|---|---|
Scale Length | 25.5″ | 25.5″ | 25.5″ |
Material | Maple | Maple | Maple |
Finish | Satin Polyurethane | Polyester | Lacquer |
Shape | Modern “C” | “Slim C” | “D” Shape |
Fingerboard | Rosewood | Rosewood | Maple/Rosewood |
Fingerboard R | 12″ | 7.25″ | 7.25″ |
Number of Fret | 22 | 21 | 21 |
Fret Size | Narrow Tall | Vintage | Vintage |
Nut Material | Synthetic Bone | Synthetic Bone | Bone |
Scale Lengthの比較
同一のボディシェイプ=シリーズに属しているギター同士の比較なので全て同一のロングスケール(≒648mm)となっています。
Neck Materialの比較
こちらも表記上は全て同一のMapleとなっています。この項だけでは材質のグレードが予想できませんが、先ほどのBody Finishの項でおおよそのグレードが判明しているため、おそらくCのギターの材の質が3本のなかで最も高いことが想像できます。メーカーによってはクオーターソーンメイプルやバーズアイメイプルなど材が高品位であることをアピールしていたりします。
Neck Finishの比較
ボディ同様材の鳴りを左右する塗装の比較です。
Aがポリウレタン、Bがポリエステル、Cがラッカーフィニッシュとなっています。ボディと同様の塗装が施されており、同様の理由でネックのMaple材のグレードもC>A>Bであることが予想されます。
Shapeの比較
この項目は材質やグレードではなく、演奏性に関わる項目になっています。
Aが現代的なネックシェイプのModern Cシェイプ、Bが薄めの作りのSlim Cシェイプ、Cがネック裏中央が平らなDシェイプとなっています。握りこむスタイルであればCシェイプが、手が小さい方にはSlim Cシェイプが、ネック裏で親指を安定させたい方にはDシェイプがそれぞれおすすめです。
ネックシェイプに関しては慣れの部分も大きく、使って行くうちに慣れて来ることが多いと思うのですが、2本目以降のギターが1本目とあまりにネックシェイプが異なると弾き心地が大きく変わってしまうため、持ち替え時に戸惑うこともあるかも知れません。
弾きやすさ、という面に多大な影響を持っているので、優先してチェックしたい項目です。
Fingerboardの比較
AとBはローズウッド指板、Cはメイプル、ローズウッドを選択可能です。
このようにカタログにMaple/Rosewoodなどと記載されている場合は、同一モデルにMaple指板のものとRosewood指板のものが存在する、という意味になります。
指板材によるサウンドへの影響は無視できませんが、ボディ材によるほどのものではないので、ここはルックス重視で選んでもよいと思います。
Fingerboard Radiusの比較
指板のカーブの比較をしてみると、Aが12″(≒300R)、BとCが7.25″(≒180R)となっています。
Aが現代的な仕様の平面に近い指板、BとCはクラシカルな丸みを帯びた指板になっています。チョーキングを多用したり、弦高を低く設定したい方にはAの現代的な仕様が、コードストローク主体であったり、ボトルネックを使用するなどクラシカルなプレイを好む方にはBやCの指板がマッチします。
Number of Fretの比較
Aが22フレット打ち、BとCが21フレット打ちとなっています。
ここもプレイスタイルによりますが、ハイフレットを多用する現代的なスタイルであれば、最終フレットのチョーキングが開放弦の2オクターブ上に綺麗に収まる22フレット打ちのギターがよいのではないでしょうか。
Fret Sizeの比較
Aが幅が狭くて背が高いナロートール、BとCがビンテージスタイルの小さなフレットです。
弾きやすさ、というところで比較すると圧倒的にナロートールが弾きやすいでしょう。高いフレットは弦を押さえる時に指板に引っかかることがないので弾きやすく、低めの弦高と高いフレットはモダンギターの標準的な仕様になっています。
逆に、かつての大物アーティストに近いサウンドが欲しいかたや、ブルージーなプレイスタイルであったりする場合にはビンテージスタイルのフレットの方が向いています。
Nut Materialの比較
AとBが人工の牛骨っぽいなにかで、Cが本物の牛骨です。
個人的にはあまりこだわりがないのですが、意識して聴き比べてみると確かに立ち上がりや余韻の部分に違いを感じることができます。
しかし、ナットの交換は工房や楽器店に溝切りごと依頼すれば、低予算で納期も短く上がって来る作業です。どうしても本物の牛骨を使用したい場合は、購入後でも交換することが可能です。
BodyとNeckの比較を終えて
さて、ここまでで交換不可、あるいは交換が非常に困難な部分のスペックを比較してきました。同一のメーカー、モデルを比較したことで共通する仕様、コンセプトにより異なる仕様、価格帯により異なる仕様というのが見えてきたのではないでしょうか。
ここから先の解説をするとA、B、Cの正体がバレてしまうので、先に正体を明かしてから続きを解説していきます。
詳しい方はすでにお気づきだと思いますが、これら3本のギターは全てFender Stratcasterです。以下に各ギターの詳細をあげていきます。
エレキギターAの正体
Deluxe Roadhouse™ Strat®はミドルクラスとなるメキシコ製フェンダーラインナップで、モダンな仕様と一部ビンテージ仕様を融合させています。
メキシコフェンダー製品は材も作りもしっかりしていて、現代的な仕様にラージヘッドが合わさったルックスも重なりファンも多い逸品となっています。
Deluxe Roadhouse™ Strat®は見た目は普通のストラトですが、ノイズレスピックアップとオンボードプリアンプを内臓しており、ストラトらしからぬサウンドを出力できるのも大きな魅力です。もちろんスイッチ一つでプリアンプをバイパスし本来のストラトキャスターサウンドを得ることも可能です。
エレキギターBの正体
Classic 60s Stratは日本向け、ジャパンエクスクルーシブシリーズのラインナップで、1960年代のストラトの仕様を模して作られています。
エントリークラスのギターながら、作りは丁寧でしっかりしており、初心者に優しい仕様のギターとなっています。さすがに高級グレードと比べるとサウンド面でのポテンシャルでは劣ってしまいますが、これからギターを始める方には初めの一本としてお勧めできるエレキギターです。
エレキギターCの正体
American Vintage ’59 Stratocaster®はカスタムショップ製を除くUSA製Fenderレギュラーラインの最上位にあたる機種です。1959年製のストラトキャスターの仕様を再現し、可能な限り当時の手法で組み上げがされていて、現代に蘇ったビンテージギターといったテイスト満載です。
個人的には、これを本物のビンテージっぽくボロくしたものがカスタムショップ製のレリックストラトという感覚です(本当はレリック加工以外にも材のグレードや、手巻きピックアップなどCS製品とは異なる点も多々あります)。
これに対して、モダンストラトの最上位機種は2017年現在American Eliteシリーズになります。
Electronicsのスペック比較
さて、3本のギターをネタバラシしたところで、ここからはピックアップなどの電子パーツを比較していきます。
個別記事でも述べたように、ここは好みに合わせて交換可能なパーツ群です。しかし、メーカーが出荷時にマウントしているものは、メーカー側で相性を考えて乗せられているものなので、どんなキャラクターを持ったエレキギターであるか、を推測する手がかりになります。
冗長になるので、共通する使用は省いてご紹介していきます。
ELECTRONICS | エレキギターA | エレキギターB | エレキギターC |
---|---|---|---|
Pickups | Vintage Noiseless™ Single-Coil Strat | Vintage-Style Single-Coil Strat | American Vintage ’59 Single-Coil Strat |
Control 1 | Master Volume | 1Master Volume | 1Master Volume |
Control 2 | V6 Rotary Switch | Neck Tone | Neck Tone |
Control 3 | Master Tone | Middle & Bridge Tone | Middle & Bridge Tone |
Pickupsの比較
ピックアップはそれぞれのシリーズが一式でマウントされています。Fenderは高品位なピックアップメーカーとしても定評があり、ピックアップ単体でも販売を行うシリーズもあります。
Aにはノイズレスピックアップが搭載されています。ノイズレスピックアップはスタック構造となっていて、原理としてはハムバッカーに相当します。サウンド面も従来のシングルコイルよりも高音の鈴なり感が抑えめな傾向がありますが、ノイズが少なく、ハイゲインセッティングでも音が潰れ辛いため、現代的なプレイに向いています。
Cはこの機種に載せるために開発されたピックアップのようです。ビンテージスタイルのエレキギター用に開発されているため、パワー感は抑えめであることが予想されますが、高域の鈴鳴りには期待ができます。
Bに関しても、ビンテージスタイルのピックアップがマウントされているようです。モダンスタイルと比べて出力は抑えめであることが予想されますが、初心者の方がしっかりしたピッキングを身につけるにはよいのではないでしょうか。
Controlsの比較
BとCは共通のコントロールです。ビンテージスタイルですが、3wayではなく5wayセレクターが備わっていて、リアピックアップにもトーン回路が配線されています。
Aは1マスタートーンとして、空いたポットにプリアンプのON/OFFをコントロールするPush-PushタイプのS-1スイッチと、6モードのプリアンプコントロールが付いています。プリアンプを駆動するための電池は、ピックガードを外さずにボディ背面の電池ボックスから直接交換できるような親切設計になっています。
HARDWAREのスペック比較
ここからはハードウェアのパーツを比較していきます。
しつこい位に言いますが、ここのパーツ群は購入後にも変更可能なものが多いです。
HARDWARE | エレキギターA | エレキギターB | エレキギターC |
---|---|---|---|
Bridge | 2-Point Synchronized Tremolo with Bent Steel Saddles | 6-Saddle Vintage-Style Synchronized Tremolo | 6-Saddle American Vintage Synchronized Tremolo |
Tuning Machines | Deluxe Cast/Sealed Locking with Vintage Style Button | Gotoh® Cast/Sealed | Single Line “Fender Deluxe” Vintage Style |
Neck Plate | 4-Bolt Asymmetrical | 4-Bolt | 4-Bolt Vintage-Style |
Bridgeの比較
遠目にみると全て同じシンクロナイズドトレモロブリッジに見えてしまいますが、よくみると、Aのブリッジは2点どめ、B、Cのブリッジは6点どめになっています。
2点支持のトレモロは6点支持のトレモロに比べ、可動域が大きく、大胆なアーミングをすることが可能です。
2点支持と6点支持のシンクロナイズドトレモロにはネジ穴位置の互換性がないため、交換時には木部を加工する必要がある点に注意が必要です。
Tuning Machinesの比較
Aはロッキング機構付きのロトマチックタイプのチューニングマシン、B、Cはロック機構なしのクルーソンタイプのチューニングマシンです。Aの2点支持トレモロとロッキング機構付きチューニングマシンは完全にモダンストラトの仕様ですね。
ロック機構付きのペグは便利ですが、後乗せすることも簡単なので、大きなポイントにはなりづらいと感じます。
注目はBのClassic 60s StratにGotohのペグが標準でインストールされているところでしょうか。エントリークラスにしては珍しい仕様ですね。
Neck Plateの比較
3機種共に標準的な4点どめプレートです。
AのDeluxe Roadhouse™ Strat®はネックとボディの接合部、1弦側が斜めに切り取られているため、非対称形のプレートが使用されています。
1弦側が切り取られていることのメリットとしては、ハイフレットでの演奏性が高まることが挙げられます。
3行でまとめると
- ギターのポテンシャルはボディ、ネックの木材、塗装に注目!
- 弾きやすさはネック、指板の形状に注目!
- 交換可能パーツは後回し!
最後に
さて、今回は実際にギターのスペックを見ながら、それを比較してエレキギターを選ぶ方法についてご紹介してまいりました。
何度でも繰り返しますが、ボディ、ネックの木部やブリッジ形状などは変更不可能であったり、変更に多大な労力と予算を必要とします。この部分のスペックを最優先して選び、他の部分が物足りなかったら適宜交換して行くのが当ブログおすすめの楽器選び方法です。
Fender社は全体的に公表しているスペックが多く、比較を行いやすいのですが、メーカーによってはこれの1/3ほどの情報量しか公開していない場合もあります。そういった場合も試奏を行うなどのタイミングでネックのシェイプやフレットのサイズ、ハイフレットの演奏性など一通りチェックしてみることをおすすめします。
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