エレキギターのネックは使用しているうちに使用環境などの影響で反ってしまうことがあります。
ネックが反った状態では正確にチューニングをすることが困難な上、非常に弾きづらく、状態によっては音が出ないフレットなども生じてきてしまいます。また、弦高やブリッジ、ピックアップ高の調整はネックの調整が完了していないと行うことができません。
その他の部分の調整方法は下記記事をご参照ください。
今回はギター調整〜ネック編〜として、ネックが反ってしまったときの調整方法や、反っているかどうかの確認方法などをご紹介していきます。
※当ブログでは、本文の内容を含むギター調整などに関するトラブルに対して一切の責任を負うことができかねます。特にネックの調整はトラブルに繋がる可能性が高いので、実践する際には自己責任でお願いいたします。
目次
はじめに
最初にお断りしておきますが、ネックの調整は慣れるまで大変難しいです。この記事を読んで、無理だと思ったら絶対に自分ではやらずに楽器店さんに依頼しましょう。
また、無理に力をかけるとネックに深刻なダメージを与えてしまう場合があります。1日で調整が終わるものではないので、毎日少しずつ根気よく取り組みましょう。
ネックの構造
エレキギターのネックには6本の弦が張られています。弦はネックの表側に張られていて、弦のゲージにもよりますが、レギュラーチューニング時には6本の弦合計で約40kgもの張力がかかっています。ネックは木材なので、長期的に強い力がかかれば当然引っ張られた方向に曲がっていきます。
これがネックが反るメカニズムの基本的なところですが、実際にはちょっと違います。
大雑把に言うと、ネック内部には弦の張力と反対方向に引っ張るために曲がった金属製の長いネジが入っています。この長いネジのことをトラスロッドと呼びます。トラスロッドの締め具合を調整して、弦の張力とトラスロッドの張力を釣り合わせることで、ネックはまっすぐな状態を保っています。
トラスロッドの張力が弦の張力に負けると、ネックは指板の方向に反っていきます。これを順反りと言います。逆にトラスロッドの張力が弦の張力に勝っていると、ネックは裏側方向に反っていきます。順反りに対してこれを逆反りと言います。
ちなみに画像はストラトキャスターのネック裏ですが、異なる木材のラインが入っているのが確認できると思います。
このラインは模様とか、ルックス的な問題ではなく、ネック内部にトラスロッドを仕込んでから蓋をしたことを示しています。生産時期によってはネック裏に模様がないモデルもありますが、それらのモデルは指板側からトラスロッドを入れ指板で蓋をしています。
トラスロッドにはシングルアクションロッド(片効き)とダブルアクションロッド(両効き)の2種類があり、シングルアクションロッドは順反りの修正のみに作用し、ダブルアクションロッドは順剃り、逆反り両方の矯正に作用します。
ネック反りの確認方法
まず、左手で6弦の1フレットを押さえます。または、カポタストを1フレットに装着します。続いて、右手の小指で6弦の最終フレットを押さえます。
この状態で、12フレットと6弦の間隔を見ます。
同様に1弦側も確認します。
このとき、12フレットと6弦の間にハガキ一枚程度の隙間が空いている状態(ほんのわずかな順反り)が正常なネックの状態です。それよりも大きい隙間が空いている場合(順反り)や、全く隙間がない場合(逆反り)はネックの調整が必要になります。
また、この状態で12フレット上を右手の人差し指でタッピングしたときに音が鳴る状態であることも確認してください。隙間が目視できるのにビビった音しか出ていない場合、ネックが部分反りしている可能性があります。
部分反りはトラスロッドでは解決できない場合もあるので、楽器店さんにご相談するのが無難です。
わざわざ確認しなくても、順反りのギターは明らかに弦高が高すぎて弾きづらくなるし、逆反りのギターは音の詰まりやビビりが多発するので、何かがおかしいことにはすぐに気づくはずです。何かがおかしいことに気づいたときにネックの反りを疑う、というのも一つの方法です。
ネックが反るタイミング=ネック調整が必要なタイミング
ネックが反ってしまう原因は多岐に渡るため、簡単に特定はできませんが、概ね以下のような原因が考えられます。
逆に考えれば、以下のようなタイミングでネックのコンディションをチェックし、必要であれば調整するのが望ましいということです。
また、ネックは時間をかけて変化していきます。以下のタイミングですぐに動かずに、しばらく経ってから変化が現れることもあるため、継続的にチェックしていきましょう。
1.弦のゲージを変更したとき
弦のゲージを変更すると、弦の張力が変わります。
弦の張力が変われば、当然トラスロッドとの力の釣り合いが取れなくなるので、ネックの調整が必要です。
太いゲージに変更した場合には、弦の張力が勝るため順反り方向に、細いゲージに変更した場合は逆反り方向にネックは変化していきます。
2.チューニングを変更したとき
普段レギュラーチューニングで使用しているギターを1音下げチューニングにして使用する、などの場合にもネック調整が必要です。
普段よりもチューニングを下げた場合には逆反り方向に、上げた場合には順反り方向にネックが変化します。
3.長期間立てかけて置いたとき
ヘッドとボディエンドを支点に壁などに長期間立てかけておいた場合にも、ネックは反っていきます。
吊り下げ型のギタースタンドを使用することで対処可能ですが、どうしても立てかけて保管する場合には、定期的に立てかける向きを変えるのがよいでしょう。
特にレスポールなど、ヘッドに角度の付いているギターは立てかける向きに注意しましょう。
4.季節の変わり目
突然ですが、日本には四季があります。冬場は気温が低く、空気は乾燥しています。夏場は気温が高く、湿度が非常に高い状態です。エレキギターは木材と金属で構成されているので、環境によってそれぞれの素材が変化していきます。
冬場は金属は収縮し木材は乾燥しますし、夏場は金属は膨張し、木材は湿気を含みます。その環境の変化でネックのコンディションも影響を受けます。
どのタイミングで変化が起きるかは個体の差によるところが非常に大きく、確実なことは言えませんが、定期的にネックをチェックしておくことで、少しの変化にも気付くことができるでしょう。
5.弦を緩めておいたとき
これには諸説あるため、項目として取り入れるかどうか悩んだのですが、入れておきます。
前述の通り、ギターのネックはチューニングされた弦とトラスロッドにより引っ張り合うことで反りのない状態を保っています。保管するときに弦を緩めておくことで、弦のテンションが大きく下がり、トラスロッドの張力により逆反り方向に反っていきます。
次に使用するタイミングで弦をチューニングしたところで、すぐにはネックの反りは戻らないと考えられます。
また、使用している楽器のトラスロッドがシングルアクションロッドである場合、順反りよりも逆反りの方が深刻なことも弦を緩めない方がよいと考える根拠です。
実際、私は長年ギターの弦を張りっぱなしで使用していますが、それが原因と思われるネック反りの経験はありません。柔いネックのギターは張ったままにして置くと反ったりするのかもしれませんが、私の環境では経験がないためなんとも言えないところです。
緩める派の方々もそれによってネックが反ったことがない、という方が多く、楽器屋さんでもディスプレイしている楽器はほとんど弦を緩めているので、緩めても良いとは思うのですが、現在困っていないため、現状を維持しています。
どちらかと言うと、弦を緩めた方が弦が長持ちするといったことがメリットなのかもしれません。
なんにせよ、定期的にネックコンディションをチェックすることで小さな変化も見逃さないようにするのが良さそうです。
以上が私の考察です。
トラスロッドの調整方法
さて、ここからは実際にトラスロッドを調整する方法についてご紹介していきます。
トラスロッドもギターによって調整方法が違うのですが、基本的には弦と反対方向に力がかかる曲がったネジだと思ってください。
順反りしている場合は、弦の張力にトラスロッドが負けている状態なので、トラスロッドを締める方向にネジを回します。逆反りしている場合には、弦の張力がトラスロッドに負けている状態なので、トラスロッドを緩める方向にネジを回します。
注意点として、一回に回す角度は90度(1/4回転)程度に抑えて、「ピキっ」などの嫌な音がした時はすぐに回すのをやめてください。
また、年代もののギターや、すでにトラスロッドが限界近くまで回されているギターはトラスロッドが回りづらくなっている場合があります。絶対に無理には回さず、楽器店さんに相談してください。
トラスロッド調整に必要な工具は、多くの場合ギター購入時のケースに説明書などと一緒に入っています。入っていなかったり無くしてしまっている場合は、別途用意してください。
レスポールタイプのトラスロッド調整方法
必要な工具:プラスドライバー(トラスカバー外し用)、ボックスレンチ(できればメーカー純正など、専用のもの)
レスポールタイプのギターはヘッド側にトラスロッド調整用のボルトが出ています。画像のように通常はカバーがかかっていて、カバーのネジ止めを外してから調整する必要があります。
カバーを外した状態がこちらです。
さすがアメリカン、見えない部分の作業が非常に雑です。
さておき、この真鍮製の六角形にボックスレンチを当てて、回すことでトラスロッド調整が可能です。
順反り時には時計回りに、逆反り時には反時計周りに回すことで反りを解消できます。
ストラトキャスタータイプのトラスロッド調整方法
必要な工具:長めの六角レンチ
ヘッド側にトラスロッドが出ているストラトキャスタータイプのギターは長めの六角レンチをヘッドの穴に差し込むことでトラスロッド調整が可能です。
上から覗き込んだ画像がこちらです。かろうじて六角ナットが見えるでしょうか?
こちらに六角レンチを突っ込んで回すのですが、トラスロッド調整用の六角レンチじゃないと、届かない深さにトラスが出ています。L字形長い方を使って、仮に届いたとしても短い方では力が入らずに回らないこともあります。
大人しく専用の六角レンチを使用しましょう、
レスポールタイプ同様に、順反り時には時計回り、逆反り時には反時計回りに回すことで解決できます。
50年代モデルのビンテージ系ストラトモデルやテレキャスたーモデルなどはヘッドにトラスロッドが出ていません。どこにあるかというと、ネックのボディ側のジョイント部分の中に入ってしまっています。このようなモデルのトラスロッドの調整はネックを外して行う必要があります。
そのため、弦を張ったまま、調整具合を確認しながらのトラスロッド調整が不可能です。ハードル高めなので、楽器店さんに相談するのもよいでしょう。
その他のギターのトラスロッド調整方法
多くのギターは上記のレスポールタイプとストラトタイプのトラスロッド調整方法が当てはまりますが、手元に変わったギターがあったのでご紹介いたします。
画像はSCHECTER EX-Vのネックエンドです。何か黒い丸いのが見えています。拡大して見ましょう。
丸いのに穴がたくさん空いています。
そうです、これがトラスロッドです。
特殊な工具は一切必要なく、細めのドライバーや六角レンチのL字の長い方でも折れないものならなんでもよいのでこの穴に入れればトラスロッドの調整ができてしまいます。ちなみにスーパーアジャストシステムと言う名前だそうです。
Schecterの独自技術だと感心していたのですが、なぜかFender USAのAmerican Eliteシリーズにも同様のホイールがついています。Schecterだけのもので特許とかも取ってると思ったので、これにはびっくりしました。
3行でまとめると
- 弦が勝つと順反りする!
- トラスが勝つと逆反りする!
- 絶対に無理はしない!
最後に
さて、今回はトラスロッドの調整についてご紹介してまいりました。
うるさい位に連呼していますが、トラスロッドの調整は絶対に無理には行わないでください。最悪の場合、ネックが破損してネック交換を余儀なくされます。と言っても、一度に90度までを守って慎重に調整すればそんなことになる確率は低いのですが。
ネックを自分でチェック、調整できるようになれば、ギターのコンディションを把握して調整できることになります。弦高やブリッジの調整などもネックがしっかり調整されていなくてはできません。そのスタートラインに立つことができるのです。
そう言った意味でも、是非身につけておきたいスキルです。
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