2016年のプラグイン界の話題をさらっていったiZotopeのミキシングプラグインNeutron、なんと言っても最大の特徴はTrack Assistant機能により自動的に各トラックに最適なエフェクトを適用してくれるところでしょう。
Neutronのリリース当初はそんなことができるわけがない、と思っていました。
だんだんと話題になってきて、漠然とした焦りを感じ始めました。
実際に触ってみて感心はしたのですが、一部とても安心しました。
実際にいろいろ試してみたところ、このTrack Assistantはかなり正確にトラック内の楽器を判別してくれる印象があります。また、適用されるエフェクトもしっかりと考えられています。
今回はそんなNeutronを使ってみて気づいたNeutronの良いところ、Neutronの意外な弱点などをご紹介していきます。
目次
Neutronとは
NeutronはiZotopeから2016年にリリースされたEQ、ダイナミクス、エキサイター、トランジェントエフェクトを内包した統合チャンネルストリッププラグインです。
EQは8バンド+LF/HFシェルビングEQ+HPF/LPFの豪勢な作りになっていて、8バンド個別にアクティブEQに切り替え可能です。コンプレッサーも通常の1バンドコンプから、最大3バンドのマルチコンプ動作を行わせることが可能です。
また各モジュールはドラッグアンドドロップで簡単に接続順を変更したり、上部のスライダーを使用してパラレルエフェクトを行うことも可能です。
iZotopeならではのLearn機能により周波数分布を正確に分析し、EQポイントにFREQUENCYを合わせてくれるのみならず、Track Assistant機能により、冒頭でもご紹介したとおり、自動的にトラックに最適なエフェクトを適用してくれるプラグインです。
NeutronとNeutron Advanced
Neutronには通常版とAdvanced版が用意されていて、Advanced版では通常盤のNeutronの機能に加えて、各モジュールが個別のプラグインとして使用可能で、最大7.1chのサラウンドに対応しています。
各個別モジュールのプラグインではNeutronのキモとなるTrack Assistant機能が使用できないので、あえてAdvanced版を導入するメリットは薄いかな、と感じています。
Track Assistant機能
ここからは、早速噂のTrack Assistant機能の使用方法についてご紹介していきます。
Track Assistant機能とは、一言でいうとNeutronが再生されたトラックのサウンドを読み込んで、最適と思われるEQ、ダイナミクスエフェクトの設定を自動で行ってくれる機能です。
まずは以下の画像、これは起動直後のNeutronです。
当たり前ですが、まっさらな状態です。EQとCOMPがアクティブになっています。
初期設定では、起動時にプリセットを選択するウィンドウが表示されるようになっていますが、プラグインウィンドウを開くたびに表示されてしまうのでOFFにしています。画面上部のPresetsをクリックすれば、いつでもプリセットウィンドウを開くことができます。
NeutronのツールバーからTrack Assistantボタンをクリックすると以下の画面が表示されます。
トラックアシスタントが聴いているので、DAWを4〜10秒再生してください的なことが書いてあります。
指示に従って、DAWを再生状態にして10秒ほど画面を眺めます。
こんな感じで自動的にEQが適用されているのが見て取れます。また、EQ画面では表示されていませんが、Compressor 1とアクティブにされたExciterもNeutronが最適と思う設定に更新されています。
そうなんです、これだけでトラックの音作りが終了してしまうんです。
また、上部の[Track Assistant]右部の[▽]からTrack Assistantの動作モードを調整することもできます。
ModeではTrack Assistantで設定されるエフェクトの深さなどを設定できます。標準的な[Medium]、変化量を抑えたナチュラルな[Subtie]、かなり派手にエフェクトを行う[Aggressive]の3種類から選択可能です。
Presetではトラックのサウンドの方向性をTrack Assistantに指示できます。当たり障りのない無難な[Broadband Clarity]、低域、中域を押し出してくる[Warm and Open]、中高域、高域の抜けを演出する[Upfront Midrange]の3種類から選択できます。
Track Assistantにより出来上がったプラグイン設定をそのまま使用してもよいのですが、必ず各設定状況を確認した上で、気になる点があれば、細かく微調整をかけましょう。
その他の機能
Neutronのその他の機能は基本的には一般的なEQやコンプレッサープラグインと同様ですが、いくつか特徴的な機能が備わっているのでご紹介していきます。
Masking機能
2つのトラック間で重なっている帯域ではEQによって分離をさせるのが望ましいのですが、Track Assistantだけでは、単一トラックに対しての処理しか行えないために、トラック数が多くなれば干渉を起こす可能性が高まります。
そこで活きてくるのがこのMasking機能です。意味合い的にはマスキングの防止機能ですね。
使用方法は非常に簡単です。あらかじめ複数トラックにNeutronをインサートした状態で、上記画像の[Masking]ボタンをクリックし、右に表示されるプルダウンから分離させたいトラックを選択するだけです。
すると、このようにウィンドウ下部に指定したトラックのEQが表示されます。
元のトラックのEQウィンドウで背景が白っぽくなっている部分が重なっている帯域、上の赤いグラフでも見ることができます。この画面内の2つのEQを調整することで、干渉している帯域をバラして、音の分離を図ることができます。
周波数の被りを視覚的にも把握可能なので、スピーディーに作業を進行することができます。バスドラムとエレキベース、エレキギターとリードボーカル、ストリングスとシンセパッドなど近い周波数のトラックを分離させるのに便利です。
また、2つのEQの間にある[Sensitivity]のスライダーで干渉を検出する感度を調整可能です。Highの方が少しの干渉にも敏感に反応します。
スライダーの右側、[Inverse Link]を有効にすると、片方のトラックのEQをブーストした際に、もう片方のトラックの同じ帯域がカットされるように動きます。
それぞれのモジュール
さて、ここまではTrack Assistantを中心に解説してきましたが、ここからはそれぞれのモジュールについてご紹介していきます。
Advance版では各モジュールを単体のプラグインとしても使用可能です。
Equalizerモジュール
先ほどまで自動で動かしてばかりだったEQですが、前述のとおり、8バンドフルパラメトリックEQ+LF/HFシェルビングEQ+HPF/LPFの合計12バンドで構成されています。
また、Qタイプの選択が可能だったり、ダイナミックEQとしての動作が可能だったりとなかなかに高性能です。
ダイナミックEQとは、設定したThreshold以上の入力があった場合にのみ動作するEQで、ディエッサー的に使用したり、ダイナミックレンジの広いトラックに補助的に使用したりすることができます。
NeutronのダイナミックEQはCompressモードとExpandモードを切り替えて使用可能です。
Compressモードでのブースト時には、Threshold以下の入力には設定値通りのGAIN、Threshold以上の入力時にはGAIN値が減少して適用されます。Compressモードのカット時にはThreshold以下の信号はEQフラットの状態、Threshold以上の信号には最大で設定値のGAINが適用されます。
CompressモードのダイナミックEQを使用して、歯擦音あたりに狙いをつけたQの狭いカットEQを仕込んで置くことで、ディエッサーのように使用することが可能です。
逆にExpandモードでのブースト時には、Threshold以下の入力時にEQフラットの状態、Thresholdを超える入力に対しては最大で設定値のGAINが適用されます。Expandモードでのカット時には、Threshold以下の入力時に設定値のGAINが、Thresholdを超える入力にはGAIN値が増加します。
Compressorモジュール
特筆すべき特徴は最大3バンドまでのマルチバンド動作が可能な点でしょうか。ここでも[Learn]を使用することでマルチバンドの分かれ目(クロスオーバー)を自動で設定可能です。
パラメーターはRatio、Threshold、Attack、Release、Gainの一般的な項目に、KNEEが設定可能なところと、帯域ごとにDRY音をミックス可能なところ位でしょうか、サウンド的には若干角が取れてマイルドになる印象です。
Neutronでは、Compressor 1とCompressor 2の2つのコンプレッサーモジュールが同時に使用可能です。片方をマルチバンド、もう片方をシングルバンドとして使ったり、COMP→EQ→COMPと接続するのもよいでしょう。
Exciterモジュール
エキサイターとは、入力された音に倍音を付加して音を派手にする効果のエフェクターです。倍音を付加するという点では、サチュレーション系プラグインの一種として考えてよいでしょう。
サチュレーション系プラグインに関しては以下の記事も合わせてご覧ください。
Neutronのエキサイターモジュールでは、最大3バンドのマルチバンド動作が可能で、それぞれの帯域ごとに別の設定で倍音を付加することが可能です。
設定項目もユニークで、生成する歪みの量を決定するDriveと原音にどれだけ混ぜ合わせるかを設定するBlendの他に、X-Y軸を使用して4タイプの歪みを選択するコントロールが備わっています。
EQだけでは抜けて来ない高域の調整に使用したり、ローエンドの調整に使用したりすることで、MIXの中でそれぞれのトラックを際立たせることが可能です。
Transient Shaperモジュール
トランジェントシェイパーとは、いわゆるトランジェント系エフェクトです。トランジェントとは、音の波形のことをさします。
効果としては、入力音をアタック(立ち上がり)とサスティーン(余韻)に切り分け、それぞれのボリュームを調整することで、余韻を短くして原音をタイトにしたり、余韻を目立たせてルーズにしたりすることが可能です。
NeutronのTransient Shaperも一般的なトランジェント系エフェクト同様に、AttackとSustainでトランジェントのコントロールを行います。このモジュールも最大3バンドのマルチバンド動作が可能で、帯域ごとに別の設定を行うことができます。
ドラムのサブミックスにインサートして、バスドラムを中心とした低域とスネアドラムを中心とした中高域に別の設定で使用するなどが考えられます。また、低域だけが暴れてしまっているパーカッショントラックなどにも使えるかもしれませんね。
Neutronの弱点
さてここまで、Track Assistantや各モジュールの特徴など、Neutronの有効に使える部分についてご紹介してきましたが、このNeutronにも欠点は存在します。
ここからは、私が使用して感じた現段階でのNeutronの弱点について解説していきます。
CPU負荷が非常に高い
高度な演算と、豪華なエフェクトを使用しているためか、CPUに与える負荷が非常に高いです。
試しに96kHz/24bit環境で負荷試験をしてみたので、下記画像をご覧ください。
ProToolsのシステム使用状況ウィンドウの画像なのですが、CPUの使用率が30%になっています。また、各コアの負荷も軒並み高い状態になっています。
実はこれ、モノラル6トラック、ステレオ2トラックだけにNeutronをインサートして、それぞれにTrack Assistantを使用した直後の状態なんです。もちろん検証用のセッションなので、他のプラグインは一切インサートしていません。
ちなみに検証に使用したマシンはMacBook Pro (Retina, 15-inch, Mid 2015)、2.8 GHz Intel Core i7、16 GB 1600 MHz DDR3です。
Neutronは統合チャンネルストリッププラグインという特性上、かなり多くのトラックにインサートすることを想定されているはずなのですが、これでは同時に多数のトラックに使用するのは厳しそうです。
確かに未使用モジュールをOFFにすることで負荷の軽減は可能ですが、その分他のプラグインを使用するとなると本末転倒です。Advanced版の個別プラグインはNeutron本体と比べると低負荷ですが、他社の同種プラグインと比べるとそれでも重い部類に入ります。
同じくiZotopeのプラグイン、Ozoneも重いですが、あちらはマスタリング用プラグインなので、別セッションで使用すれば気にならないですね。
これがAAX環境特有のものなのかどうか、追加でVSTとAU版も検証してみました。どちらも96kHz/24bit環境です。
検証内容は、上記と全く同じオーディオファイルをインポートし、6モノラル、2ステレオトラックにNeutronをインサートしたうえで、Track Assistant機能を使用して全トラック自動的にチャンネル設定されたらそのまま再生を開始した上で、CPUメーターに準ずるものを観察します。
まずはAU版、Logic Pro Xだとこんな感じです。
ほとんどProToolsと変わらないくらいCPUメーターが振れています。動作自体もProTools同様に重たい感じです。
次にCubase AIでVST版を確認してみます。
動作は他と変わらず重たいのですが、信じられないくらいメーターが触れていません。
時間を空けて検証してみてもMac本体のファンの回転具合は他のDAW時と変わらず高回転状態なのですが、相変わらずメーターは触れていません。
Cubase AIのメーター精度によるものなのかは不明ですが、AAXやAU環境よりもVST環境の方が動作が軽量なのかもしれません。
ダイナミックレンジの広いトラックに不向き
あくまでもTrack Assistantを使用した場合に限りますが、長くても10秒ほどのオーディオしか解析せずに設定を行うので、再生していない部分のオーディオ信号は考慮されません。
そのため、アーティキュレーションが複数ありレンジの広いストリングストラックなどに使用するのは厳しいかもしれません。奏法ごとに別トラックにして使用するにも、前項のCPU負荷が原因で現実的ではありません。
打開策としては、最もレベルが大きくなる部分を再生してTrack Assistantを使用するのがよいのではないでしょうか。ボーカルトラックに使用する場合も、CompressorとダイナミックEQに関しては手動で再設定した方が安全です。
また、当然と言えば当然なのですが、ドラムセットのタムのトラックなど登場機会が少ないトラックに使用する場合は、ちゃんと鳴っているところを狙って再生を行わないとTrack Assistantが正常に機能しないので注意しましょう。
MIXが上手くならない
これはこじつけのような感じもありますが、NeutronのTrack Assistantに設定を任せ、自分の耳で調整を行わなくなってしまうとMIXの技術は絶対に向上しません。設定後の数字だけを盗み見ても同じです。
Track Assistantを使用して設定を行ったあとは、必ずNeutronをバイパスしたりしながらサウンドを耳で確認し、設定値の確認や微調整を行うようにしましょう。
Neutronの使いどころ
さて、弱点についてかなり厳しく書いてしまいましたが、使用方法を選べば今までにないプラグインとして、とても有効に使用可能です。
ここからは私が提案するNeutronのおすすめ使用方法についてご紹介してまいります。
サブミックスに使用する
負荷が高いなら絶対的なインサート数を減らそう、という考えからです。
Transient ShaperやExiciter、CompressorやアクティブEQなど、特にドラムのサブミックスに使いたいエフェクトが一通り揃っています。
ドラムのサブミックスに様々な帯域の音が詰まっているので、各モジュールがマルチバンド動作可能ということが大きなアドバンテージになります。また、シンバル類の突発的なアタックに追従可能なアクティブEQが備わっている点も見逃せません。
豊富なプリセットには当然サブミックス用のプリセットも揃っています。
EQポイントを探るために使用する
少々贅沢な使用方法ですが、Track Assistant機能を使用して、有効なEQポイントやその他モジュールの設定を探るために使用する方法です。
トラックのサウンドが抜けない原因は基音と倍音のバランスであったり、ローミッドがハイをマスキングしてしまっていたり、コンプレッサーのアタックが短すぎたり、と様々です。
NeutronのTrack Assistant機能を使用することで、原因が特定できなかったものが解決する可能性があります。問題が解決したら、そのままNeutronをインサートして使用するもよいですし、別のプラグイン
で同様の設定を試してみるのもよいでしょう。
この使用法は特にDTM/DAW初心者の方におすすめです。
Track Assistantで設定したEQやコンプの設定を基準に色々と触っていくことで、設定値とサウンドに与える影響の相関性を自分のなかに蓄積することが可能です。蓄積していくことで、MIXの引き出しも増え、トラックが抱える問題も早い段階で解決できるようになります。
iZotope / Neutron
iZotope / Neutron Advanced
Neutron AdvancedはMusic Production Bundle IIにも含まれています。Ozone Advancedなど他のiZotopeプラグインも合わせて導入をご検討されている場合はこちらのバンドルがお得です。
iZotope / Music Production Bundle II
3行でまとめると
- Neutronは自動化も可能な万能チャンネルストリップ!
- CPU負荷が大きいのが残念なところ!
- MIXの練習など、使い方を選べばとっても使えるプラグイン!
最後に
今回はiZotope Neutronについてご紹介してまいりました。
Ozoneを使用した時にiZotopeプラグインの重さは感じていたので、ある程度予想は立っていましたが、やはりかなり重かったです。記事の内容的にマイナス要素が目立ってしまっていますが、Track Assistantをはじめに、使える機能、面白い機能が満載なので、これからも色々試して行こうと思います。
また、Track Assistantを使ったMIX練習方法は、MIX初心者の方には特にオススメです。
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