ドラム音源をはじめとして、ソフトウェア音源にはパラアウト、マルチアウト機能がついているものも多く出回っています。
パラアウトをすることによって、ドラム音源やストリングス音源など複数の楽器が含まれている音源を楽器ごとに処理することがが可能になります。
ミックスバランスの調整や、音質の補正がDAWのフェーダーやEQのみで行えるために、いちいちプラグインの画面を表示させる手間が省けることや、MIX段階のCPU負荷、メモリ使用量の軽減など数多くのメリットがあります。
今回の記事ではXLN Audio社のAddictive Drums 2を使用して、パラアウトのメリットや実際の操作方法について項目別に解説していきます。
また、パラアウト、マルチアウト機能が備わっていないプラグイン音源を使用している場合にも擬似的にパラアウトを行う方法もあります。
目次
プラグイン音源のパラアウトとは?
パラアウトとはパラレルアウトの略で、並行した出力のことをさします。転じて、プラグイン音源など内部トラックごとに複数の出力先に出力する方法のことをさすようになりました。意味合いとしては英語のMultiple Output=マルチアウト=複数の出力の方が近いです。
通常ドラム音源やストリングス音源はインストゥルメントトラックにインサートして使用しますが、そのままでは2MIXで出力されてしまいます。MIXに慣れないうちは2MIXで出力された方が調整するのに楽だったりもするのですが、慣れてくるとリバーブや音質などに納得できなくなってきます。
次の項目からはパラアウトを行うメリットについて見ていきましょう。
パラアウトを行うメリット
冒頭でも簡単に触れましたが、プラグイン音源をパラアウトする代表的なメリットを3つあげていきます。
EQ処理やバランスの調整がしやすい
プラグイン音源の中にも簡易的なEQが備わっていることが多いですが、本職のEQプラグインと比べて表示が小さかったり効きが甘かったりすることが多いです。
また、プラグイン音源内部のミキサーでバランスを取るためには、いちいちプラグイン画面を立ち上げなくてはなりません。フェーダーも短いことが多く、バランスは取りづらいです。
プラグイン音源のパラアウトを行うことで、DAWで使用可能なEQやダイナミクス、リバーブなどのエフェクトを個々の楽器に使用することができるため、音作りの幅が広がります。
特にドラム音源に多く見られる傾向ですが、デフォルト状態=プラグインでサンプルを読み込んだ直後の状態でEQやリバーブ、コンプレッサーにチューブサチュレーターなどエフェクトがてんこ盛り状態であることが多いです。生音をしっかりサンプリングしたことが売りのプラグインでも生の楽器の音とは程遠いサウンドになってしまっていることがあることに注意しましょう。
特に曲者がオーバーコンプです。コンプレッサーで潰れまくったサウンドは確かにカッコいいのですが、ベロシティを書いてもサウンドと音量が変化しないことは生楽器ではありえません。強く演奏すれば大きな音が、軽く演奏すれば小さい音が出てしかるべきです。
ドラム単体でデモトラックなどを再生した際に派手なサウンドに聴かせるためのメーカー側の工夫だとは思うのですが、やり過ぎ感は否めません。本来MIX内でドラムだけをソロで聴くとちょっと寂しいものです。
私は他の楽器が入る余地がなくなって、アレンジ上の音数を見誤る可能性などを恐れてサンプルを読み込んだ直後に内部エフェクトを全てOFFにして使用しています。
CPU負荷・メモリ使用量の軽減
高品質なプラグイン音源ほどサンプル数が多く、それらのサンプルを展開するためにメモリを多く消費します。
また、内部にミキサーを持っているプラグインの場合、ミキサーのサイズにもよりますが、CPU負荷が高く、同時に複数起動するとDAWの動作に支障をきたす恐れがあります。
パラアウトが必要なものに限らず、プラグイン音源はフレーズが決まって、ベロシティも書けたら一旦オーディオ化して元のインストゥルメントトラックをOFFにして置くのがオススメです。修正が必要な場合にだけ元のトラックをONにして修正するのが良いでしょう。
プラグインのCPU、メモリ負荷の対策については下記記事も参考になるかと思います。
視覚から得られる情報が多くなる
DAWのメーターや波形の表示、インサートしているプラグインの状況など、視覚から得られる情報が多くなります。例えば、プラグイン出力のどこかで内部クリップが発生している場合、2MIX状態だと発生原因を突き止めるのに苦労しますが、パラアウトしていればメーターのクリップインジケーターを見るだけで判断可能です。
また、波形が表示されていることで、楽器の鳴っているタイミングが視覚的に捉えられるのも大きなメリットです。MIX時にEQをする際など、たまにしか鳴らないタムの位置をMIDIノートで追う必要が無くなります。
プラグイン音源のパラアウト設定方法
前述の通り、実際にプラグイン音源をパラアウトする方法を見ていきましょう。今回は、XLN Audio社のドラム音源、Addictive Drums 2を使用して解説していきます。
Addictive Drums 2上での設定
Addictive Drums 2での設定は2ステップだけで完了です。
1.各キットのEQやダイナミクスエフェクトをOFFにする。
すでにEQやダイナミクスなどの処理が行われているとパラアウトするとメリットが薄れてしまうため、これらをOFFにします。私は前述のようにプラグインを起動し、キットをロードした直後にOFFにしています。
逆にサウンドはこのままで、フェーダー調整だけをDAWで行いたい場合はONのままにしておく必要があります。
2.各トラックにSeparate Outを設定する
Addictive Drums 2のミキサー画面、フェーダーの下の方に下向きの矢印[↓]ボタンがあり、このボタンをクリックすると、画像のようなプルダウンメニューが立ち上がります。
初期設定では全トラックMasterに設定されています。この設定では内蔵ミキサーのMasterトラックで2MIXになって出力がなされます。今回は各キットごとのパラアウトを行いたいので、Separate Outに設定します。
Pre Faderは内蔵ミキサーのフェーダー前の信号、Post Faderは内蔵ミキサーのフェーダー後の信号を指しています。DAWのフェーダーを使用してMIXを行う場合は全チャンネルPre Faderに、現在のバランスを保ったままパラアウトを行う場合はPost Faderに設定するのがよいでしょう。
また、+Masterを選択すると各キットごとの出力とMasterトラックへの出力が両方同時に行えます。ちょっと使用例がパッと思いつかないのですが、そんな機能です。私は使ったことがありません。
ちなみに、⌘を押しながらプルダウンを表示、選択を行うと各キットの個別トラックを一括でSeparate Out設定可能です。Addictive Drumsを使用している人は覚えておいて損はないショートカットですね。OHトラックとROOMトラックも同様に同時に切り替え可能です。
DAW側の設定
今度はDAW側の設定を順を追って見ていきましょう。
1.使用するキットの本数分のトラックを用意する
キットの個数分のトラックを作成します。⌘+Shift+Nですね。
編曲作業の途中段階でパラアウトを行う場合はAux入力トラックを、MIX手前の段階でオーディオ化を前提に行う場合はオーディオトラックを作成しましょう。私は後者のタイミングでパラアウトを行うのでオーディオトラックを作成しています。個別キット用にはモノラルトラック、OHとROOM用にはステレオトラックを作成しましょう。
トラックの作成数ですが、2タム1フロアの一般的なドラムセットだと、バスドラム、スネアドラム、ハイハット、タム×2、フロアタム、オーバーヘッド、ルームマイクのモノラル6トラック、ステレオ2トラックのようになると思われます。
せっかくなので、ここでZAL的ドラムのパラアウト術風味のひねり(?)を加えてみましょう。上記と同様のキット構成だと、作成するトラックはモノラル8トラック、ステレオ2トラックになります。増えているのはバスドラムのビーターマイクとスネアドラムのボトムマイクです。
バスドラムは低音楽器ではありますが、高域にも打面のヘッドとペダルのビーターが接触した際のアタック音があります。このアタック音を別のトラックに分けることで単体で処理を可能にしてフェーダーでのバランス取りを可能にすることができます。
また、スネアドラムのボトムマイクも欠かせません。スネアドラムの裏側にはスナッピーと呼ばれる響き線(金属のバネがいっぱい合わさったやつ)が付いています。このスナッピーが裏面のヘッドと擦れることで特有のサウンドを出しています。ボトムマイクはこのスナッピーの響きを録音するためのマイクで、パラアウトすることで単体処理が可能になります。
説明が前後してしまいますが、Addictive Drums 2のキットごとのEDIT画面で、SNARE、KICKにはそれぞれキット画像の下にスライダーがあります。通常はこれを使用してスネアドラムの打面(Top)と裏面(Bottom)、バスドラムのビーター音(Beater)と表面ホールの音(Front)のバランスを取るのですが、私はDAWで別トラックに立ち上げます。
ちなみにSnare Buzzでは他のキットがスネアドラムを振動させて、スナッピーが鳴る状態を再現できます。
書き出しの段階で、スライダーを片方に振り切って1回書き出しを行い、その後に反対側に振り切ってもう一度書き出します。FLEXIトラックに同じキットをロードしてリンクすれば一回の書き出しで済むのですが、そう何回も書き出す訳ではないので、いいかな、と思っています。途中段階でトリガー使いたくなったときに困るかも、とか思ってもいます。
2.各トラックのI/Oで入力にプラグインを選択する
閑話休題、だいぶ横道にそれましたが、本題に戻ります。
プラグインインストゥルメント側で設定を済ませると、DAWのインプット選択の中に『プラグイン』の表示が現れます。
ステレオトラックにはOverhead、Room、Busが表示されます。
モノラルトラックには各キットの出力とステレオトラックのL/R成分がそれぞれ表示されます。
それぞれのキットをDAWの各トラックにアサインしていきましょう。
またまた、余談で恐縮なのですが、私はプラグインインストゥルメントのタムの数字の並べ方とパンニングに非常に疑問を持っています。シンバルのパンニングもですね。
右利き用の一般的なドラムセットを正面、ライブ会場などで客席から見た場合、タムは左側からフロアタム、ロータム、ハイタムと並んでいます。シンバルは左側に低い音のシンバルが、右側に高い音のシンバルが来るのが普通です。
エンジニア目線で考えると、ドラムセットは配置とトラック順が一致していた方がオペレートがしやすいので、左側のトラック、つまり番号が若い方がフロアタムになります。番号が大きい方が高い音のタムになります。
ですが、多くのドラム音源では番号が若い方が高い音のタム、大きい番号がフロアタムになっているのです。また、プリセットのパンニングがドラマー側から見たパンニングになっています。シンバル類もドラマー目線のパンニングですね。
左にあるトラック番号の方が大きい状態に私の精神が耐えられないので、パラアウト時にタムの番号を入れ替えて、オーバーヘッド、ルームもLRを入れ替えてオーディオ化しています。
細かいことですが、音源制作に使用するものはリスナーの目線に立って作っていただきたいものです。
3.トラックレコーディングを行いオーディオ化する
最後にトラックレコーディングを行い、プラグイン音源をオーディオ化します。実際にオーディオ化する前に、一度曲の中腹あたりをインプットモニターや試し録りをしてみてレベルチェックを行っておくことをお勧めします。
レベルチェックで問題があれば、プラグイン内で調整してから再度チェックします。問題が無ければ1曲通して再生し、録音して行きます。この時、DAWのPANやフェーダーでラフにバランスを取っておくと、後の作業にスピーディーに移ることができます。
パラアウト機能の無いプラグインでのパラアウト
本来の意味のパラアウトでは無いのですが、パラアウト機能が無いプラグインでも少し工夫をすることで、各トラックごとにDAWでプラグインを挿してフェーダーを使用してMIXを行うという目的を達成することが可能です。
擬似パラアウトの手順
1.内蔵ミキサーのソロ機能を使用する
プラグイン内蔵ミキサーのソロボタンを使用して単一のキットのみ発音される状態にします。この時、プラグイン内蔵のエフェクトはOFFにしておきましょう。特にリバーブ類をかけ取りすると、後のMIXが大変困難になります。
ソロ機能が無い場合は、目的のキット以外のフェーダーを絞りきるなどして、発音され無い状態にしましょう。
また、ドラムセットをマルチマイクした時の他のキットの被りこみを積極的に再現したい場合、この時に他のキットのフェーダーを絞り切らずに若干残しておきましょう。
2.DAWで目的のインストゥルメントトラックをソロにする
DAW上でもプラグイン音源がインサートされたトラックをソロにします。
ここまでの設定で、DAWを再生しても目的のプラグイン音源内の目的の楽器、キットのみが発音される状態になります。
3.DAWでバウンスを行い、オーディオ化する
DAWでバウンスを行って、楽器、キットの単音をオーディオ化します。作成したオーディオファイルをインポートすることで単一の楽器、キットのみのオーディオトラックが作成できます。
これらの手順を必要トラック分繰り返すことで、パラアウトを行った時と同様に各キット、楽器ごとのオーディオトラックを作成することが可能です。
パラアウトのデメリット
いいことばかりに思えるパラアウトにも多少のデメリットはあります。ここでは解決法も合わせてご紹介していきます。
使用するオーディオトラック数が増える
トラック数が増えることはメリットだけではありません。オーディオインターフェース付属の試用版DAWなどではオーディオトラック数に制限がある場合があります。プラグイン音源のパラアウトをオーディオ化することで、制限されたトラック数を圧迫してしまうことが考えられます。
対処法としては、上位版のDAWに乗り換えることが挙げられます。これを機に乗り換えを検討してみるのもよいでしょう。
CPU負荷が増える場合もある
プラグイン音源を単純に2MIXでオーディオ化した場合に比べて、複数トラックで書き出した場合は使用するプラグインエフェクトの本数が多くなります。結果としてCPU負荷が大きくなる場合も考えられます。
対処法としては、プラグインエフェクトでサウンドが決まったらもう一度バウンスして同時に使用するプラグインを減らすことが挙げられます。根本的な解決を目指す場合、よりハイスペックなマシンに買い換える必要が出てきてしまいます。
元の音源のサウンドが得られない
プラグイン内蔵ミキサーのマスターになんらかのエフェクトがインサートされていて、そのエフェクトが音源のサウンドを決定づけるものだった場合、また、それらが非表示でなんのエフェクトが使用されているか不明な場合、パラアウトを行うことで、2MIX出力時とは全く別のサウンドになってしまう可能性があります。
対処法としては、パラアウト機能が無いプラグイン音源を擬似パラアウトする方法同様に、各キットごとにソロにしてバウンスしていく方法が挙げられます。この方法であればプラグイン内蔵ミキサーのマスターバスを通過するため、マスターエフェクトを得ることができます。
それでも、ものによっては別物のサウンドになってしまう可能性は捨てきれません。
3行でまとめると
- パラアウトでMIXに幅を!
- プリセットサウンドに惑わされ無い!
- パラアウト機能がなくても工夫次第!
最後に
さて、プラグイン音源のパラアウトについて、いかがだったでしょうか?
途中かなり脱線してしまいましたが、スネアやバスドラを2トラックで立ち上げる方法はかなりおすすめです。他のドラム音源でも可能なものがあるので、やったことが無い方は是非お試しください。
ドラムトラックだけでもパラアウトしてやると、生ドラムの録音素材同様にルームマイクやスネアを歪ませたり、ベースコンプのサイドチェーンにバスドラムを入れたり、思いのままですよ。
Facebookページ作ってみました。
いいね!とかしていただけると歓喜します。
こんにちは
記事全部読みました。
同様のやり方でprotoolsにAD2のパラアウトのAUX入力トラックを作ってそのAUXトラックの
inputにAD2のキットを割り当てる際にFlex1, Flex2, Flex3とあるのですが
これらは何なのでしょうか?
宜しくお願い致します。
勉強中さん
コメントありがとうございます。
AD2のFlex1〜3出力には、Flex1〜3にアサインされているキットの出力が割り当てられます。
キットの一覧画面の右下の3つです。
使用しているキットによってはここに、トリガーなどが割り当てられているかと思います。
ご返事ありがとうございます。
AD2とprotools初心者なのですが通常AD2のFlex1〜3というのはエキストラなキットを
割り当てられるものといった感じでしょうか? (カウベルや追加のクラッシュシンバル等)
宜しくお願い致します。
勉強中さん
返信が遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
ご質問の件、flexiスロットに関してはそのような認識で問題ないと思います。
通常のキット用スロットの機能に加えて、既存のキットとリンクさせて同時発音させるような使い方も可能です。
この辺りに付いては、取扱説明書を見ながらお試し頂いた方が理解できると思います。