今回の記事は、エレキギターサウンドの代名詞、ディストーション=歪み(ひずみ)サウンドについてです。CDやライブ会場などで耳にするエレキギターのサウンドはエレキギター本体から出力されるクリーンなトーンではなく、ほとんどの場合なんらかの形で歪んでいます。
元々はギターアンプからクリーンで大きな音を出すことが目的だったのですが、ギターアンプの増幅量の限界を越えて音が歪み始めてしまったことが始まりのようです。
一言で歪みサウンドと言っても、軽く歪んだクランチトーンから、真空管アンプや歪みエフェクターを使用したオーバードライブサウンド、ハードなディストーションサウンドまで幅広くあります。
今回は、そもそも歪みとはなんなのか、について解説していきます。
目次
歪み=オーバードライブとは?
アンプ=増幅回路の入力、増幅過多(オーバードライブ)によって、入力した信号がクリッピングを起こし、正確に増幅できずに波形のピーク部分が潰れてしまっている状態を指します。
例えば、上記の綺麗な正弦波が入力されたときに
このように波形の上下が切り取られたようになって出力されます。
ピークのみが潰れた状態だと軽い歪み、波形の中腹まで潰れた状態だと深い歪みとなります。
歪んだ音色は波形のピーク部分が平らで長く持続するため、同じピーク音量のクリーントーンと比べて、聴感上の音量が大きく、サスティーン(音の継続時間)も長くなります。音の密度が高く感じるのもこのように平均の音量がピーク音量と大差が無いためです。
オーバードライブサウンドの作り方
エレキギターのオーバードライブサウンドはあくまでも、意図的に歪ませたサウンドです。歪みを得るためにはなんらかの方法で歪ませてやる必要があります。
ここからはギターサウンドの歪ませ方について解説していきます。
1.ギターアンプで歪ませる
ギターアンプ本体の増幅回路を信号過多により歪ませる方法です。
現行のギターアンプの多く、特にMarshallに代表される真空管アンプでは入力信号を2段階に分けて増幅してサウンドと音量を決定しています。一段階目の増幅回路(プリアンプ、GAIN)とEQでサウンドを作り、二段階目の増幅回路(パワーアンプ、VOLUME)で音量を決定しています。いわゆる2ボリュームのアンプというやつです。
かつてのギターアンプは1ボリューム(正確に言うと1ゲイン)のアンプでした。そのためアンプ本体では音量を上げると歪みが深くなっていく状況で、大音量のクリーントーンや、小音量の歪みサウンドはどうやっても出せませんでした。
エレキギターのサウンドを歪ませるのは、主に一段階目のプリアンプ部(GAIN)です。多くのギターアンプではプリアンプ部があえて歪みやすい構造のドライブチャンネルが備わっています。
GAINとは?
GAINを直訳すると、[名詞]利得、[動詞]〜を得る、となります。音響機器の仕様書では電子利得なんて表現されたりもするのですが、意味合い的には入力信号の増幅量と捉えて問題ないです。入力信号を過大に増幅して、プリアンプ部で過大入力を発生させる=歪ませることがGAINの目的です。
アンプメーカーや機種ごとにプリアンプ部の回路に特徴があり、この特徴がギターアンプのサウンドの特徴を決定する大きな要因になっています。
他にも真空管アンプの場合、使用する真空管や動作電圧でもサウンドに大きな影響を与えます。
2.歪みエフェクターで歪ませる
歪みエフェクターとは、基本的には上記のギターアンプをオーバードライブさせた状況を人工的にシミュレートしたものです。
各社から数え切れない程の機種が発売されており、それぞれ個性的な歪みを演出してくれます。近年はプリアンプ回路を搭載して、実際にオーバードライブさせることのできるものが多いような気がします。こちらについては、過去の記事で紹介しています。
メーカーごとにジャンル分けをしていて各種エフェクターに明確な線引きはないのですが、以下、私個人の感覚で各種歪み系エフェクターを大きく3つに分けて、ジャンルごとに簡単に解説していきます。
1.オーバードライブ系
上記のようにギターアンプがオーバードライブを起こした状態をシミュレートしたエフェクターです。アンプの歪みに似た=ナチュラルさを売りにしているものが多い印象です。代表的なオーバードライブはBOSSのOD系、IbanezのTS系といったところでしょうか。
2.ディストーション系
Distortion=歪みそのものが名前になっているエフェクターです。ダイオードなどのクリッピング素子を使用し、オーバードライブ系よりも深い歪みを得られるものが多い印象です。BOSSのDS系やProcoのRATシリーズなんかが有名です。
3.ファズ系
FUZZ=[形容詞]毛羽立った、という意味の名前を持つエフェクター。原音にはない倍音を多く付加した特徴的なサウンドを得られる。GAINの調整によっては無入力状態でも勝手に発振を始める、弾いてないのにフィードバックし続けるエフェクターでもある。代表的なFUZZはArbiter ElectronicsのFUZZ FACE(現行品はJim Dunlop)やELECTRO-HARMONIXのBIG MUFFあたりでしょうか。
より深い歪みを得るためには?
上記の方法で歪ませたサウンドよりも深い歪みを得るためには、入力過多によるクリッピングということに注目して入力信号を大きくするのが一般的です。
ここからはより深い歪みのために、ギターアンプやエフェクターへの入力信号を大きくする方法についてご紹介していきます。
入力信号を大きくする方法
1.ブースターによるブースト
ブースターエフェクターを使用して、ギターアンプや歪みエフェクターへの入力信号を大きくする方法です。
ブースターにはOne Control製品などの専用のエフェクター以外にBOSSのBD-2(ブルースドライバー)やIbanezのTS-9(チューブスクリーマー)など、オーバードライブエフェクターがよく使用されます。
2.パワーのあるピックアップに交換
エレキギター本体の出力が大きくなれば、同じセッティングのギターアンプに接続した際により深い歪みを得ることができます。パワフルなことが売りのハイゲインピックアップに交換するのも一つの方法です。
リプレイスメントピックアップについては下記記事も参考にしてみてください。
3.ピックアップの高さを上げる
ピックアップ交換よりもお手軽なのがこの方法です。
弦振動を電気信号に変換するピックアップを弦に近づければ単純に出力は大きくります。
注意点としては、ピックアップは磁石で弦は金属という点で、当然お互いを近づければ磁力の影響を受けます。磁力の強いシングルコイルピックアップの場合、最終フレットを押さえた状態で1弦側で1.6mm程度、6弦側で2.0mm程度は離れていることが望ましいです。
ハムバッカー搭載のギターの場合、ピックアップ表面に与える磁力の影響ががシングルコイルよりも弱いので、シングルコイルよりも近いセッティングにすることが可能です。レスポールなんかは、エスカッションとツライチにしても相当近いですね。
さらにEMGなどのアクティブピックアップは本体の磁力が非常に弱いので、弦が当たらない分にはどんどん近づけても大丈夫なようです。あまり近づけすぎるとハイ上がりなサウンドになってしまうので、どちらにせよほどほどが良いですね。
ピックアップの高さについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
4.より強いピッキングを行う
単純に強く弾くことで入力信号を大きくする方法です。1〜3までの方法と比べると歪みの上昇幅に限界はありますが、セッティングが変わってハウリングが発生するようなことがないことや、エフェクターを踏み替える必要もなく、音色をすぐに切り替えられるのが強みです。
こんな当たり前のことを、と思うかも知れませんがナチュラルなサウンドで太い歪みサウンドを出すためにはピックコントロールが一番有効な方法です。
ライブなどで若手のギタリストさんを見ると、自宅での練習環境のせいか、パームミュートをしたバッキング時にも撫でるように弾く方が多いような気がします。常に強いピッキングが良いわけではありませんが、バッキングで深い歪みを得たい場合はしっかりとピッキングをした方が音も太く出ます。
また、歪みサウンドの場合、ギター本体のボリュームやピッキングの強弱が音量よりも歪みの深さに直結します。音色ごとにエフェクターを踏み替えるのではなく、歪みの深さのコントロール、ディストーションコントロールを手元で行うことで、サウンドのバリエーションを増やすことができるのもメリットです。
目が詰まった高級な木材を使用した楽器を使用していても、ボディーをしっかり鳴らせなければ宝の持ち腐れになってしまいます。ギターの価格のほとんどは木材の価格であることを考えると非常にもったいないです。
3行でまとめると
- 歪みサウンドのためには入力を大きくする
- 歪みは大きく分けて3種類
- 歪みの読み方はユガみじゃなくてヒズみ!
最後に
今回はエレキギターサウンドの基本、オーバードライブサウンドについてでした。ピッキングのニュアンスで歪みをコントロールすることが出来ればエフェクター選びやサウンドの選択肢が広がります。また、GAINの設定値が下がることで音痩せやノイズの少ないサウンドになること間違いなしです。
個人的にはアンプで歪ませるのが好きで、あんまり歪みエフェクターを使用して音作りをすることがないのですが、参考になれば幸いです。
Facebookページ作ってみました。
いいね!とかしていただけると歓喜します。