DAWでの作業中に突然の再生停止、そうです、CPUオーバーロードエラーです。
こうなってしまうと、次第にディスプレイの処理がカクついたり、モニターがバツバツいったり、最悪の場合DAW自体が落ちてしまうこともあります。
今回はそうなってしまった場合の対処法や、そうならないための予防法についてご紹介していきます。
また、今回ご紹介する対策については、Mac本体のメンテナンスも合わせて行うと効果大です。今回の記事と合わせて以下の記事もご参照ください。
目次
CPUオーバーロードエラーの原因と対処法(環境編)
以下、考えられうるCPUオーバーロードの原因とそれぞれについての対処法を考えてみます。PC本体のメンテナンスも合わせて行っておくことでより良いコンディションで作業ができることでしょう。
他のアプリケーションと同時に起動している
ウェブブラウザでTIPSを見ながらのMIXなどは便利なのですが、CPUパワーをDAW以外にも使用することになるため、CPUオーバーロードの原因になります。
限られたCPUパワーやメモリリソースをDAWだけに使用するために、DAWでの作業時には他のアプリケーションの起動は控えましょう。
TIPSやマニュアル、歌詞やオーダーシートなどを参照しながら作業を行いたい場合は、タブレットやスマートフォンなどを使うと、DAWの動作とディスプレイ上の作業スペースに余裕が生まれます。
私は昔ながらの紙にプリントアウトする方法でメモを参照しています。資源の無駄と言われがちですが、手書きでササっと追記できたりメモ帳をかねることができたりと便利です。
バックグラウンドでOSが作業をしている
OSやソフトウェア、セキュリティソフトの更新、バックアップの作成など、起動中のパソコンは意外と多忙の身です。DAWの起動中にOSがバックグラウンドで自動的に作業をしている場合もあります。
セキュリティソフトは常時最新のウィルス定義を引っ張って来るためにバックグラウンドで非常に忙しくしています。DAWの使用時にはウェブの閲覧をしないと考えて、セキュリティソフトを一時的に停止しておくのがおすすめです。
普段PCを使用する際にログインするユーザーとDAWを使用する際にログインするユーザーを別にして、基本的な設定を変えて置くのもオススメです。
また、DAWソフトウェアメーカーは基本的に最新のOSでの動作をメーカーで確認するまではOSのアップデートを推奨していません。DAW用のPCではコントロールパネルやシステム環境設定などで、ソフトウェアの自動更新をOFFにしておきましょう。
コンピューターのスペック不足
PCのスペックは近年で大きく向上しました。そのため、少し前の年式PCでもDAWの動作環境を満たしていなかったりします。DAWメーカーの製品ページなどで動作環境を確認しましょう。
また、メーカーの動作環境はあくまでも最低限の動作を保証する環境であることが多いです。プラグインを使用したり、トラック数の多い、サンプリングレートの高いセッションを再生するには動作環境を余裕を持って満たしている必要があります。
DAWの推奨動作環境を満たしていてもプラグインを複数使用すると動作は緩慢になります。これについては段階的にバウンスしていく、などの工夫が必要なところです。
現在数社からDSP内蔵のオーディオインターフェースや、DSPベースのプラグインが発売されています。これらを使用することで、PC本体のCPUを使用することなくプラグインを使用することができます。
DSP内蔵オーディオインターフェース、UNIVERSAL AUDIO社のapolloシリーズのレビュー記事はこちらです。
メモリが固定されたままである
CPUではなく、メモリの話になりますが、PCは起動中に次の動作を速くしたり、よく呼び出すものをメモリに保存して行きます。
メモリ容量も有限なので、ある程度メモリが固定されていくと、実際に使用していなくてもOS側で確保されてしまい、DAWでアクセスできないメモリ領域が多くなってきます。そういった場合は、DAWでの作業を始める前にPCの再起動を行うのが効果的です。
ちなみに、私はDAW使用前は必ず再起動を行うようにしています。
上が再起動前、下が再起動後、どちらもキャプチャーソフトと、この文章を書くためのChromeのみ起動している状態です。メモリ解放アプリケーションを導入しているせいかあまり差が出ていませんが、確かに効果はみてとれるかと思います。
CPUが高温になっている
PCパーツの中でもCPUは専用クーラーでの冷却が必要なくらい高温になるパーツです。
CPUは熱を持つと処理速度(クロック)を落とし、自分が壊れないように守りに入ります。そのため、CPUが高温の状況下では安定した処理ができずスペックダウンしている可能性があります。
大型のデスクトップPCであれば内部のスペース的にファンで空冷するのみでも問題になりづらいのですが、ディスプレイ一体型のPCやノートPCではパーツ間にスペースがないため、内部の熱が逃げにくく、CPU温度が上昇しやすくなります。
対処法としては、一旦保存して再起動し冷めてから作業再開や、下敷きタイプなどのノートPC用のファンを導入することが挙げられます。また、デスク上の風通しをよくしたり、室温そのものを下げることでも改善がみられます。
また、コンピューターの内部に埃が溜まっていることが原因で空冷用の風が通りづらくなっている可能性も考えられます。自分で掃除可能な範囲は掃除して風通しをよくしておきましょう。
それにしても夏場の暑さは人間だけではなくPCにまで厳しいものなんですね…。
CPUオーバーロードエラーの原因と対処法(DAW編)
ProToolsユーザーにはおなじみ(?)のこの画面、ご丁寧に対処法を教えてくださってます。
H/Wバッファサイズを増やす
ProToolsさんのおっしゃる通り、H/Wバッファサイズを変更するのは有効です。
この値を増やすとスペースキーを叩いてから再生が始まるまでのレイテンシーが大きくなるなど弊害もありますが、MIX時には気にするほどのことでもないので、最大にしてしまってもよいかも知れません。
プラグインをオフにする
これまた、おっしゃる通り非常に有効なのですが、こっちだって、そう簡単にプラグインをオフにしたり削除はできません。
そのため、面倒ではありますが、1トラックずつフリーズ、コミット、バウンスなどをしてアクティブなプラグインの数を減らす方法を取るのがよいでしょう。
以下、私なりの方法です。
- 現在のセッションを保存し、ProToolsを終了する。
- PC本体を再起動する。
- ProToolsを起動する。
- 先ほど保存したセッションファイルをShiftキーを押したままダブルクリックで起動する。
- 全プラグインがオフの状態になっているので、重いプラグインがインサートされているトラックからプラグインをアクティブにし、コミット、バウンスしていく。
別の記事でも触れましたが、CPU負荷が非常に高い状態では正常に再生がされない場合があります。そのことに備えて、[全プラグインをオフ状態でセッションを開く]のショートカットを使用します。
プラグインがOFFになって、軽い状態で立ち上がったセッションファイルから、処理が重そうなプラグインがインサートされているオーディオトラックのプラグインのみをアクティブにしてコミット、バウンスを行い全体の負荷を軽減していきます。
ProToolsは上記のようなショートカットを知らないと便利に扱うことができません。これを機会によく使うショートカットを憶えておくと良いかもしれません。
このように、CPUオーバーロードエラーは結局はプラグインを一回オフにして対処しなくてはならない場合が多いです。その度にMIXを中断して対策に追われるのはたまったものではないので、可能な限りこうならないようにしたいところです。
また、オーバーロードエラーから復帰するためにも、どんな種類のプラグインが高負荷なのかを知っておくことで素早い対処が可能になります。
CPU負荷の高いプラグイン
ここからは大敵である負荷の高いプラグインを項目別に見ていきましょう。
プラグインメーカーによっても傾向がありますが、基本的に以下にご紹介するプラグインはいわゆる[重いプラグイン]に該当します。
リバーブ系
リバーブ系のプラグインは全体的に演算が複雑であることが多く、それに伴って負荷が高いです。
このリバーブ系に関しては、インサートエフェクトと違いセンドエフェクトはコミットやバウンスで対処がしづらく、フリーズも出来ないので、実質マシンスペック頼りになってしまうのも痛いところです。
他のプラグイン種で対応をするのが取り敢えずの対処法になってしまいます。
また、先ほども紹介いたしましたが、外部DSPベースで動作するプラグインを使用して負荷を分散するのも一つの手段として大変有効です。UADプラグインには高品位なリバーブも多く、そういった点でもオススメできます。
アナログEQ・COMP系
アナログ回路をモデリング、シミュレートしているプラグインは、複雑な増幅回路群の動作を演算によって処理しているため、デジタルEQと比べると非常に高負荷になっています。
中でもチャンネルストリッププラグインはシミュレートしている回路も長く、多くの演算を行うために高負荷な傾向があります。
MIXの終盤でもよく操作するプラグイン群なので、なかなかコミットやバウンスといった対処がしづらいところではありますが、完全にサウンドが決まったトラックについてはコミットやバウンスするのもやむおえない場合も出てきます。しかし、優先順位としては低めですね。
こちらも外部DSPベースのプラグインを使用することで対処可能です。
また、同じ機種をモデリングしたプラグインでもメーカーによって負荷が違ったりします。当然サウンドの傾向も違うのですが、複数のプラグインをお持ちの場合には挿し替えてみるのもありかもしれません。個人的な印象ですが、Wavesプラグインは軽量動作の印象があります。
プラグインインストゥルメント全般
CPUを使用したシンセサイザーやメモリにサンプルを展開して再生する音源など、どちらも非常に負荷が高いです。
作編曲段階では、コミットすることが出来ないのでNative Instruments社のKONTAKTのように未使用ノートのサンプルをPurge(パージ)出来るものはPurgeしておくのがよいでしょう。Purgeの方法と効果については下記リンク先の記事をご覧ください。
また、プラグインインストゥルメントは音色・フレージングが決まったら、コミットや、トラックをソロにしてからバウンスして、オーディオ化しておくのがよいでしょう。
その後、元のインストゥルメントトラックをOFFにして、出力したオーディオファイルを使ってMIXを行うことで、飛躍的に負荷が軽減可能です。
このときマルチアウト可能なプラグインインストゥルメントの場合、マルチアウトしておくと後の作業が楽になります。
下記リンク先記事ではドラム音源のAddictive Drums 2でマルチアウトを行う方法や、一般的にマルチアウトを行うメリット、注意点について解説しています。
ギターアンププラグイン全般
倍音やアナログ回路上での歪みのシミュレートを行うため、演算が非常に複雑でCPU負荷も最大級に高いプラグイン類になります。また、オーバーダブで多くのトラックを使用している場合にはそのトラック数分のアンプシミュレーターを同時に使用しなくてはなりません。
作業の早い段階でコミットやバウンスを出来ればよいのですが、歪みの深さなどオーディオ化した後では調整不能な要素が多いギターサウンドを、早めに決めることはなかなか困難なので、頭が痛いところです。
オススメの方法としては、録音後に歪み系、クリーン系などのおおまかな分類で仮のセッティングのプラグインを通して仮ギターのチャンネルを作成し、元のチャンネルをオフにして、他のプラグインインストゥルメントのオーディオ化後にじっくりとサウンドを詰めていく、というのがよいのではないでしょうか。
私はこれに長年頭を悩まされてきましたが、UAD-2プラグインのギターアンプを使用するようになってモニター、リアンプともにストレスから解放されました。
それでもDSPリソースを解放するために、MIX前にオーディオ化したり、外部ギターアンプを使用してリアンプしています。
実際のCPU負荷
では実際にCPU負荷がどれくらいかかるのか、重そうなプラグインを挿していって確認したいと思います。
Macのスペック
検証に先立ちまして、私の使用するDAWマシンのスペックです。
ごく一般的なMid 2015のMacBook Proです。
デュアルディスプレイ用にグラボ搭載モデルを選んでいます。これも負荷分散の考え方でCPU内部のリソースを少しでも減らすことに繋がっています。
プラグイン無し時のシステム使用状況
96kHz/24bitにて、16モノラルオーディオトラック、4ステレオAUXトラックのセッションを作成した直後の画像です。
全くと言っていいほど無負荷の状態ですね、キャプチャー用アプリケーションとChromeを使用しているため、メモリーは多めに触れています。
ちなみにバッファサイズは標準的な1024を選択しています。
CPU負荷検証開始
リバーブの中では非常に動作の軽いAvid標準のD-Verbを嫌がらせの用に挿して再生してみました。通常こんな意味のわからない使い方はしません。
再生中のCPU負荷は以下のとおりです。
あれっ、思ってたのと違う。
もっといっぱい振れると思ってたのですが、いまいちでした。入力信号が正弦波だったのもよくなかったのかもしれません。
それでは、と別の手段に出てみることにします。
ギタートラックを8本にダビングして全てにIK Multimedia Amplitube3をインサートしていきます。
おお、壮観な眺めです。これもやっぱりこんな意味のわからない使い方は絶対にしません。
さて再生中のCPU負荷はどうでしょう。
だいぶいい感じに上がって来ましたが、まだ正常に再生出来てしまいます。
BIG COUNTERの動きは大分ぎこちなくなって来ましたが、オーディオが途切れる素振りがありません。
それでは、さらにAmplitubeを増やして行きましょう。
と11個目を挿した時に、カラータイマーが回り始めました。
見事に応答しなくなりましたね。
なにを目標に検証してるかもわからなくなってきましたが…、再生中で無いにも関わらず、このときのCPU負荷は下の画像です。
再生していない状態でこれだけ振れてれば、いつ落ちてもおかしくない状態です。今回はオーバーロードエラーが出る前に落ちてしまいました。
検証結果
今回はMacが頑張りすぎな感じでした。
ただ、他のプラグインを一切使用せず、トラック数も少ない状態での検証なので、実際はもっと少ないトラックにしか同時に使用できないでしょう。
ちなみに、私は作業中常にディスプレイの端にこのシステム使用状況のグラフを表示させています。見慣れてくると視覚的に危ない状況がわかるので、トラブルを未然に防ぐことができています。
3行でまとめると
- DAW以外の部分に原因がある可能性あり!
- プラグインの種類によってCPU負荷が違う!
- それでもだめなら、地道にコミット、バウンス!
最後に
DAWを使う人々の頭を悩ませるCPU使用率とオーバーロードエラーについてご紹介してきましたが、実際に長時間の作業中にこの画面に出くわすとモチベーションが一気に降下しますよね。
私も取れる対応は全て取っているにも関わらず、特に大規模なセッションではこのポップアップに悩まされることも少なくありません。今ではDSPに大分処理を任せているのですが、部分的にしか登場しないリージョンを一つのトラックにまとめて、プラグインオートメーションを使ったり色々と工夫をして乗り切っています。
余談ですが、映像屋さんに、「映像系はもっと重いよー」って言われたりします。本当に恐ろしい話ですよね。
作業途中のプラグイン設定などはProToolsのクラッシュ時に設定が保存されないので、こまめなオーディオ化とこまめな保存、バックアップは必ず行いましょう。
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古い(失礼)記事にあれですが、思い切ってVEP使っちゃうとか。
万単位ですが悪い出費ではないよなぁとか思ったりしています
>名無しさん
コメントありがとうございます。
VEPって、Vienna Ensemble Proですよね。
以前気になっていたことはあるのですが、結局導入しませんでした。
今、ちょこちょこ調べてみたところ、以前のバージョンより大分便利になっていますね。
マルチコアCPUを満遍なく効率的に使うにはVEPいいかもしれないですね。