以前、当ブログでEQの基本はカットEQであることをご紹介してきましたが、今回はトラックの特定帯域を強調してサウンドを作り込んで行く、ブーストEQの方法についてご紹介していきます。
この記事では、カット方向のEQを終えた状態前提で書いてます。まだカット方向のEQをしていない場合は、以下の記事を参考にそちらを先に済ませてからお試しください。
また、当記事内で使用しているパラメーターなどの用語については下記リンク先でご紹介しています。
ブーストEQを行う前に、カットEQのみで仕上げたサウンドをしっかりと聴き込んでおくことで、どのトラックのどのあたりの帯域が不足しているかを作業前にイメージできるかと思います。
目次
ブーストEQを使用する手順
それでは実際にどのようにブーストEQを使用するのかを見ていきたいと思います。
慣れてきたら必ずしも同じ方法をとる必要はありませんが、慣れないうちは以下の手順通りに行うと失敗が避けられます。
1.足りないと思う帯域付近を3~6dB程度ブーストする
カットEQ同様過度のブーストは厳禁です。
大切なのは、『足りないと思う』部分です、足りないと思わないところをブーストして探り始めると間違いなくわけがわからなくなります。
また、LOW/HIGHにシェルビングEQを使用する場合は選択可能なFREQUENCYのそれぞれ一番低いポイント、一番高いポイントから徐々に上げて/下げて行くことをお勧めします。
2.その状態でFREQUENCYを上下させてポイントを探る
探っていく過程で、高域なら抜けが得られたり、低域なら重量感が得られたり、とイメージしたサウンドにスッと近づくポイントがあると思います。
ブーストEQによく使用されるアナログモデリングEQはQが固定、またはGAIN連動である場合や、FREQUENCYに隙間がある場合が多いです。単音だけでなく、2MIXでしっかり聴き比べながら最適なポイントを探してみましょう。
操作帯域自体はしっくり来ていても、実際のサウンドがイマイチと言う場合には、別のEQプラグインを使用してみるのも良いでしょう。
3.EQポイントが見つかったらGAIN、Qを調整する
ブーストEQでは、カットEQよりも慎重に、「本当にこのブーストが必要かどうか」を考えながら行う必要があります。ON/OFFしながらトラックソロだけではなく、2MIX状態でも聴いて判断していきましょう。
この手順に限らず、ブーストEQをする際には、EQの前より後の方がトラックのボリュームが上がっています。トラックのPEAKを付けないように注意してください。PEAKがついてしまう場合は、ブーストEQよりも前段、ダイナミクスなどでレベルを下げてマージンを稼ぐ必要があります。
単音で聴くと抜けのいいサウンドなのに、2MIXで聴くと埋もれてしまう、そんなときは別のトラックのカットEQが不十分である場合が多いです。そういったときは、邪魔になっていそうなトラックを一つづつミュートして行くと、原因を素早く特定できると思います。
EQプラグイン比較
よく使うEQプラグインを使用して、ほぼ同一のEQをしたときにどのくらいサウンドの傾向が違うのかを比較してみます。スネアドラム、バスドラムの2つの楽器の単音をそれぞれ以下の条件にしてチェックしていきます。
- スネアドラムは10kHz付近をシェルビングで6dBブースト
- バスドラムは50Hz付近をシェルビングで2dBブースト、8kHz付近をピーキングで4dBブースト(Qが設定可能なモデルはQ=2に設定)
ノンエフェクトの単音はそれぞれこちらです。
Waves – Renaissance EQ
まずは私もカットEQとしてよく使用しているルネッサンスEQから見ていきましょう。
Renaissance Equalizerでは、各バンドの下部に備わっているカラフルなボタンでバンドごとのEQ ON/OFFを切り替えることが可能です。ON/OFFチェックに役立てましょう。
また、Wavesプラグイン全般の特徴ですが、Setup AとSetup Bの2つのセッティングを簡単に比較することが可能です。
画像内の[Setup A]と書いてある部分をクリックすると[Setup B]に切り替わります。また、[A→B]ボタンをクリックすると、現在のSetup Aのパラメーターが全てSetup Bにコピーされます。
例えば、Setup Aでブーストした帯域とは別の帯域をブーストしたものを試したい場合には、[A→B]ボタンでSetup Bに写して、Setup Bで試すことが可能です。その状態でA/Bチェックがワンタッチで可能な点がメリットですね。
さて肝心のサウンドがこちらになります。
プラグインバンドルの定番、Waves Goldにも含まれているプラグインで軽量な動作としっかりと効くEQが使いやすいどちらかというとお手軽EQのRenaissance Equalizerですが、しっかりと狙い所を抑えてくれています。
作為的な倍音感はありませんが、やはり使いやすさは素晴らしいものがありますね。
Sonnox – Oxford EQ
さて、次はSonnox Oxford EQを見ていきます。このOxford EQのTYPE-2は私のカット用EQのファーストチョイスにもなっています。
Oxford EQは中央のTYPE切り替えスイッチで4つのEQタイプを切り替えて使用することが可能です。今回はTYPE-1を使用しましたが、他のTYPEも使いやすく、カット時にはQが細くなるTYPE-2や、ブーストが得意なTYPE-3、QがGAINと連動可変するTYPE-4といろいろ使用可能です。
各バンドごとにINボタンでON/OFFすることができ、プラグインウィンドウ中央でA/Bと2つのEQを切り替えてA/Bチェックが可能です。
TYPE-1のEQは数値通りに作用してくれる印象がありますが、やはりキレイですね、品のない部分をブーストしてるはずなんですけど、上品に鳴ってくれてます。
Waves – H-EQ
H-EQのHはHYBRIDを表していて、Digital EQの良いところとAnalog EQの良いところを併せ持ったEQとなっています。
Digitalモードではマスタリングにも向いている緻密なイコライジングが可能です。各アナログモデリングEQではそれぞれの特色を出した、癖のあるEQが可能です。各周波数バンドごとに別のアナログモデルを使用することができる点が非常にユニークなEQです。
H-EQをカットで使うときはDigitalを選択することが多いのですが、今回はブースト用にアナログモデリングのUS Modernをチョイスしてます。
H-EQでも各バンドの表記(LMFなど)の左側についているカラフルボタンのクリックで帯域ごとのON/OFFが可能です。また、Wavesプラグインなので、当然Setup A/Bの切り替えもワンタッチで行えます。
H-EQにはANALOG機能とANALYZER機能をオミットした低負荷版のH-EQ Lightがあります。チャンネルEQに使用する場合にはこちらを使用するのも選択肢になります。
私はH-EQを主にマスターバスやサブミックスバスに挿すことが多いのですが、チャンネルEQとしてもいけますね。
UNIVERSAL AUDIO – Neve® 1081 Classic Console EQ
Neve 1081は音像を太くしたい場合などによく使用するEQで、ブーストしていくと中低域を少しブーストするだけで音像が太くなりながらも前に来てくれる印象があります。
各バンドのON/OFFはFreqencyツマミと共通なので、設定状況を維持したままのON/OFFチェックが出来ないのが残念ですが、実機を完全にモデリングしている以上諦めて使いましょう。また、ツマミの隙間に設置されているボタンは、高域、低域のピーキング・シェルビング切り替えスイッチと、中低域、中高域のQ幅切り替えスイッチです。非常にざっくりです。
Neve 1081に限らず、Universal Audioのアナログモデリングプラグイン全般では回路全体をモデリングしているため、全ての周波数バンドがフラットな状態でも、プラグインをインサートして通しただけでサウンドに倍音が加わったり、周波数特性が変わるなどの変化が生じます。
本来非常に消極的な意味で捉えられがちな特徴ですが、独特のアナログ感をインサートした段階で得られるのでやたらにブーストする必要がなく、結果的に音楽的なMIXに仕上がっていく印象があります。
アナログ感や倍音についてはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
Neve 1081にはGAINの目盛りがなく現在値を知る術がないので、ブースト値は目算です。
アナログの太さ、高域の倍音感っていうんですかね、良い意味で、パラメーターどおりの正確なEQではないんだと思います。ただ、非常に音楽的なサウンドになっているのではないでしょうか?
Waves – API550B
最後はWavesのAPIモデリングEQ 550Bです。
APIのEQにはQコントロールがありません、これが一番の特徴です。実際にはQはGAINに連動して可変します。API独自のプロポーショナルQと言われる仕様で、ブースト・カット量が多ければQが細く、少なければQが広く、と連続的に可変していきます。
これにより、アタック音をピンポイントでブーストする、など狙いを絞ったイコライジングを非常に得意としています。高域・低域にはピーキングシェルビングの切り替えがついています。
また、Frequencyツマミだけでなく、GAINツマミも表面に記載されている数値ぴったりでしか仕様できません。3dBのブーストとか5dBのカットとかは出来ません。
一見非常に不便なのですが、ドラムセットのEQを全てAPIで固めた場合などにキャラクターが近づき、セットに一体感をもたらしてくれる、などのメリットもあります。
また、個人的な感想で恐縮ですが、パラメーターが間を取れない、このとっても大雑把な目盛りだと、1dB単位で悩む必要がないのがとってもいいんです。いい意味で早い段階で諦めがつく、というべきでしょうか。
H-EQにも搭載されているのですが、WavesのアナログモデリングプラグインにはANALOGスイッチが搭載されています。ANALOGスイッチはアナログ回路のシミュレートをON/OFFするスイッチとのことですが、正直Universal Audioなどと比べて今ひとつな印象なので私はONで使用しておりません。
OFF時よりも倍音感は増すのですが、アナログ機器特有のホワイトノイズが無入力状態でも出力され続けるため、インサートするトラックが多いと、かなりノイズが気になると言う点もあります。
さて、実際のサウンドが以下になります。
これもまたよいですね。アナログ感、感じていただけたんじゃないでしょうか。
個人的に、APIはモダンなロックドラム系のファーストチョイスになっています。中高域〜高域のスピード感が素晴らしく、少量のブーストでもパキッとしたサウンドが得られます。
3行でまとめると
- ブーストEQ前にしっかりカットEQを!
- イメージをしてからブーストすること!
- アナログEQプラグインで独特の倍音感を!
最後に
今回はブーストEQの考え方などをご紹介してきました。
デジタル機器は基本的に意図しない歪みは起こりませんが、フルビット(扱えるデータの大きさの限界)を超えた瞬間に音楽的ではない歪み方をします(PEAKがついたときなど)。一方、アナログ機器はPEAKに近づくに従って、だんだんと歪んでいきます。
プラグインはデジタルなのでフルビット状態では使い物にならない歪み方をするのですが、アナログ特有のだんだん歪んで行く部分をプラグインレベルでしっかりシミュレート出来ているのが素晴らしいと思います。
アナログをシミュレートしているプラグイン製品には、レベルオーバー寸前までレベルを突っ込んでやると真価を発揮するものもあります。
お手持ちのプラグインでいろいろ試してみると、新たな発見があるかもしれません。
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