「ボーカルに使うコンプはコレ、EQはコレ」とか、「ベーストラックには必ず使用するプラグインがある」とかMIXをする際の自分ルールってあると思います。
数多くのプラグインを所有しているエンジニアの方々も普段からよく使うプラグインは限られていて、自分なりの定番プラグインと接続順をお持ちの方が多いです。まだ知らないサウンドの中に自分の理想があるのかもしれませんが、全てのプラグインをひとつずつ当たって行くのは、時間的・予算的問題により現実的ではありません。
プラグインスロットに使い慣れた定番プラグインを並べて、全体でひとつのチャンネルストリップのようにして作業を行うことで自分なりのキャラクターを持ったサウンドが作成可能です。また、プラグインの選定に時間がかからないため、作業時間も短縮されて効率的に作業を行うことが可能となります。
今回の記事では、このように便利なプラグインチェーン、エフェクトチェーンについて解説していきます。
目次
プラグインチェーンとは
そもそもプラグインチェーン、エフェクトチェーンとはなにを意味するのでしょう。
新しいエフェクトの手法なのか、と言われたら全くそんなことはなく、並び方を含めた普段使っているプラグインエフェクトのことを表します。プラグインの鎖、連鎖でプラグインチェーンです。
通常DAWでは複数のプラグインスロットがあり、スロットの上から下へと音声信号が流れて行きます。このとき、どのエフェクトを先に使用して、どのエフェクトを後に使用するかについて考える必要があります。
ある程度慣れている方は、自分なりの接続順というものがあるのではないでしょうか、その接続順がプラグインチェーンです。
アナログ環境での接続順
基本的にアナログコンソールでは、信号はコンソールの上部から下部に向かって流れていきます。
この写真のミキサーの場合、HA(マイクプリ)→HPF→COMP→EQ→各種SEND→PAN→アサインスイッチ→フェーダーといった流れです。画像ではPAN以降が切れてしまっていますが、HA(マイクプリ)→HPF→COMP→EQの並びは多くのミキサーで共通です。
マイクプリでインプットレベルを調整し、HPFで余分な低域成分をカットする。パワーのある低域をカットしてからコンプレッサーをかけてダイナミックレンジを調整する。レンジが整ったところで、音質を補正するためのEQを使用する。
レコーディングコンソールなどの大型コンソールでは比較的自由に各種接続順を組み替えることが可能ですが、写真のような小型ミキサーでは組み換えが行えないものがほとんどです。
自由が利かないとはいえ、このシグナルルーチンは大変合理的で無駄がありません。
DAWでは外部マイクプリ→オーディオインターフェースで音声信号を取り込んだあと、コンピューター内部でプラグインエフェクトを好きな順番に並べることができる反面、音質的に不利になりやすい接続順でMIXを行ってしまっている可能性があるので注意が必要です。
プラグインチェーンの組み方
ここからは、各楽器別にプラグインチェーンの構築方法の例をご紹介していきます。
基本部分のダイナミクス系エフェクトとEQの接続順は、COMP/GATE→EQまたは、EQ→COMP/GATEのどちらかです、どちらが正解ということはありません。これには諸説あり、トラックごとに変えて使用する方もいらっしゃいます。
私はどちらかと言えば後者に近いのですが、(サチュレーション系)→HPF/LPF→EQ(カット用)→COMP/GATE→EQ(ブースト用)という接続順をとります。理由としては、COMPが不要な低域や周波数の山に反応して、サウンドが必要以上に潰れてしまうのを避けるためです。
EQでブーストした後段にコンプを接続すると、ブーストした帯域にコンプが反応することで効きが悪くなり、ブースト量の調整をするたびにコンプのスレッショルドを調整する必要があるため、それらを回避するための接続順になっています。
また、アナログコンソールを使用したMIXではコンソールの各段階で信号の増幅が行われるため、複数段でのアナログ歪みが発生します。それらをデジタル環境で再現するためプラグインチェーンの頭にアナログをシミュレートしたサチュレーション系のプラグインをインサートすることも多いです。
接続順をある程度固定した状態で、各段階にいくつかのプラグインを用意し、それらを組み合わせていくことで、MIXを組み立てていきます。
仕上がりの方向性と手元のトラック、その日の気分など様々な要因によって最適なプラグインは異なってくるため、このトラックにはこのプラグインじゃなくてはいけない、というものはありません。ある程度自分の中でのベーシックはありますが、結構簡単に崩します。
しかし、それでは話が進まないので、以前MIXしたセッションから、いくつかトラックのプラグインチェーンを見ていきます。
プラグインの選定や設定内容よりも、『なぜ、この接続順のこのポイントでこのプラグインを使用する判断をしたか』という部分に注目してみていただきたいです。
プラグインチェーンの中身
実際に使用したプラグインチェーンの解説前に、引き出しというか、よく使うプラグインをご紹介します。
例えば、カット用のEQであれば、McDSP Filter Bank、Waves Renaissance EQ、Sonnox Oxford EQなどの中から目的のサウンドによって使い分けています。ピンポイントでカットしたい帯域がある素材には、2つ目のカットEQとしてQ1やQ2を使うこともあります。また、HPF/LPFを単体で使用する場合には、ほぼFilter BankのF202を使用しています。
カット用EQについてはこちらの記事もご参照ください。
ナチュラルにコンプレッションをしたい時には、Waves Renaissance Compressor、Sonnox Oxford Dynamics、McDSP Compressor Bankなどを、コンプで味付けをしたい時にはTubeTech、LA-2A、1176なんかを使用することが多いです。
コンプレッサーなどのダイナミクスエフェクトについては以下の記事もご参照ください。
ブースト用EQだと、NEVE 1073、NEVE 1081、API 550、PuigTec、Tube Techあたりを軸にしています、トラックの状態によってはカット用のEQでブーストもしたり、この段階にEQをインサートしないこともあります。
ブースト用のEQについてはこちらの記事もご覧ください。
考え方としては、HPF/LPF→カットEQは味付けのないプラグインを使用し、その前段にサチュレーションプラグインをインサートしたり、後段にアナログコンプ、EQのモデリングプラグインを入れてアナログ感を出す方向性です。
バスドラムのプラグインチェーン
画像はバスドラムの外側マイクトラックのプラグイン群です。疾走感のある楽曲だったので、重さの中に抜けのあるバスドラムを目指しました。もう一本の内側マイクのトラックはLOWを完全にカットしてビーターがヘッドに当たる音を主体にMIXしています。
- Analog Channel(AC101) – McDSP
アナログチャンネルシミュレーター - Filter Bank(F202) – McDSP
HPF/LPF - Transient Master – Native Instruments
トランジェントエフェクト - Oxford EQ(3Band) – Sonnox
カット用EQ(3バンド) - Tube Tech CL 1B – Universal Audio
モデリングコンプレッサー - Tube Tech PE 1C – Universal Audio
ブースト用モデリングEQ
上記の順にプラグインがインサートされています。
これらのプラグインの選択をし、順番を決めたのには以下のような理由があります。
まず、素の素材が全体的に固く感じたので、Analog Channelをインサートしてトラックに倍音を付加しました。このプラグインは、OUTPUTを絞って以降のプラグインに入力されるレベルを調整するためにも使用しています。
Analog Channelはいい感じに倍音が付加できるプラグインです。動作が軽いこともあり、気づいたらほとんど全部のトラックにインサートしている気がします。HPF/LPFよりも後段にインサートすることもあります。
次に、不要な低域をカットし、カットする帯域の直近のブーストを効率的に行うことができるFilter BankのFB202をインサートして低域を処理しています。不要な低域をカットしたところで、素材のサスティーンがイメージよりも長かったためにTransient Masterを使用してサスティーンを短くしています。
Transient Masterをはじめ、Native Instrumentsのプラグインは全体的に動作が軽いので重宝しています。
続いて、MIX内でベースの美味しい帯域と被っている部分と、後ろに下がって聴こえている部分をカットするために、クセがなく、設定した数値通りに作用するOxford EQのTYPE-2を使用しています。
Oxford EQは狙ったポイントのみをしっかりとカットできるので愛用しています、私はTYPE-2をよく使っています。
ここまでのプラグインチェーンで落ちたレベルを上げ、音量のばらつきを抑えつつトラックに暖かさを与えるために、真空管モデリングのTube Tech CL 1Bを使用しています。
Tube Techのコンプはインプットレベルを上げ目に設定することで、真空管特有の温かい歪み感が得られるので前段までにわざとレベルを落としたりして使っています。
最後にローエンドにふくよかさを、ハイエンドに若干のハリを加えるためにTube Tech PE 1Cを使用して仕上げています。
Tube TechのEQは実機同様ちょっと使い方に癖があるのですが、効果がとてもわかりやすく思った通りのサウンドが出てくるのでよく使用しています。WavesのPultecモデルと差し替えながら、どちらがいいか聴き比べることもよくあります。
また、ライブ感のあるサウンドなど、目指すサウンドによってはチャンネルストリッププラグインを使用して1台で済ませることもあります。
スネアドラムのプラグインチェーン
スネアのトップマイクのプラグインチェーンです。ボトムはスナッピー狙いでシャリシャリ言わせているため、単体で聴くとHIGHが寂しい印象です。
- Analog Channel(AC101) – McDSP
アナログチャンネルシミュレーター - Filter Bank(F202) – McDSP
HPF/LPF - Transient Master – Native Instruments
トランジェントエフェクト - Oxford EQ – Sonnox
カット用EQ - Oxford Dynamics -Sonnox
コンプレッサー - Tube Tech PE 1C – Universal Audio
ブースト用モデリングEQ
バスドラムと一体感を出したいので、基本的には似たようなプラグインを使用しています。
まずは、バスドラムと同様Analog Channel(AC101)とFilter Bank(FB202)をインサートしています。
Filter Bank(FB202)はPEAKツマミを使用してフィルターのレゾナンスを設定することができます。レゾナンスとは英語で共振という意味で、PEAKツマミを上げていくとフィルターのカットオフ周波数付近でブーストを行います。このPEAKの効きが素晴らしく、HPFでは音の芯の部分が、LPFでは抜けの部分がグッと前に出てきます。
このトラックも胴鳴りが長く感じたので、Transient Masterを使用してサスティーンをカットしています。
録り音の中域が若干コンコンしすぎているように感じたので、Oxford EQをカットのみに使用してメタルシェル特有のコンコン感を抑えつつ、ギターやボーカルトラックのためにスペースを空けています。
Tube Tech CL 1Bをインサートしたところ、いまいちイメージ通りのサウンドに近づいて行かなかったので、Oxford Dynamicsをインサートしています。使用しているのはCompressorとWarmthの2セクションだけです。
Oxford DynamicsのWarmthはサウンドに真空管的な暖かさを与えるエフェクトで、真空管系コンプがハマらなかったときに使ってみると良い結果をもたらしてくれます。
最後にバスドラムとキャラクターを近づけつつ、ハイエンドに抜け感を加えるためにTube Tech PE 1Cを使用しています。
バスドラムがチャンネルストリップ1台でいくときは、こちらもチャンネルストリッププラグイン1つでいくことが多いです。
ドラムサブミックスのプラグインチェーン
ドラムのサブミックスにインサートしているプラグインは以下の通りです。
- Analog Channel(AC202) – McDSP
アナログテープシミュレーター - C4 – Waves
マルチバンドコンプ - Solid Bus Comp – Native Instruments
バスコンプレッサー
ドラムのトラック全体に一体感を出すためにサブミックスにもプラグインをインサートしていきます。
まずは、Analog Channel(AC202)を使用してドラムセット全体に歪み感を足していきます。
AC101がコンソールのチャンネルシミュレーターであるのに対してAC202はテープレコーダーのシミュレーターです。基本的に倍音、歪み感の付加という目的は変わらないのですが、バスにはこちらの方が相性がいいように感じます。
次に、他の楽器と若干ぶつかっていたのが気になったのでC4を使用して部分的に軽く抑えています。
トラック数が多いセッションではドラムセットをあまり派手に作ってしまうと、後のトラックの置き場がなくなることがあります。完成形を先に想像して、まずはフェーダーでバランスを取ってみてからプラグインを挿していった方が失敗は少ないです。フェーダーを立ち上げる順番にも気を使ってみるとよいでしょう。
最後にSolid Bus Compをインサートしてキットごとのサウンドをドラムセットのサウンドにまとめています。
Solid Bus Compはメーカー公式でくっ付けるバスコンプと言われています。横型にはなっていますが、名前からしてSolid State Logic(SSL)のバスコンプのモデリングでしょう。サウンド的にはSSLの公式モデリングとは異なり、若干味気ない感じです。逆にその点がハマることが多いので、使用しています。
バスコンプは自分の中での定番がなく、H-Compを使用したりFairchildを使用したり、UAD-2のAPIモデリングが欲しかったり、やっぱりDuendeのSSLが使いたかったりしています。
ドラムバスにもう一声派手さが欲しいときなどには、NEVE 1073やV-EQ3をインサートして軽めにブーストしてやることもあります。
ベーストラックのプラグインチェーン
言い訳がましいですが、MIXからだいぶ時間が経っているために、このトラックのプラグイン選考基準をはっきり覚えていません。すごく悩んだだろうことはOFFになっていたプラグイン達とmemoの欄を見てなんとなくわかりました。
- Analog Channel(AC101) – McDSP
アナログチャンネルシミュレーター - Renaissance EQ(REQ4) – Waves
カット用EQ(4バンド) - Smack – Avid
コンプレッサー - NEVE 1081 – Univarsal Audio
ブースト用モデリングEQ
素材がライン録音のエレキベースをアンプシミュレーターでリアンプしたものだったので、そのままだとドラムと混ざらないと判断してAnalog Channel(AC101)で倍音を付加しています。
次にRenaissance EQでローエンドをなだらかに処理しつつ、混み合っている帯域がなくなるように他の楽器と分離させています。バスドラムとかぶる帯域は非常にシビアにコントロールして行く必要があります。
最終的にRenaissance EQに落ち着いていますが、Filter BankやOxford EQもほぼ同様の設定でOFFのまま挿さっていました。広めのQでなだらかにカットするEQというところで悩んだのだと思われます。
Renaissance EQは業界標準とも言えるEQで、ブーストすると若干クセや個性があるのですが、カット方向はとても素直に作用してくれます。そのため、私は主にカット方向に使用しています。
周波数の山をカットして均したところで、Smackを使用して倍音を付け足しつつコンプレッションしています。
SmackはNORM、WARM、OPTOに3モードが切り替え可能なコンプレッサーで、それぞれのモードで個性的サウンドが得られるのが魅力です。DISTORTIONノブで倍音と歪み感をコントロールできる点がユニークで、ODDでは奇数倍音のみを、EVENでは偶数倍音のみをO+Eではどちらの倍音も付加してくれます。ベーストラックには1176あたりと並んでよく使うコンプレッサーです。
最後にNEVE 1081を使用してローエンドを補強しつつ、弦の金属感を出すためにハイミッドをブーストしています。
ギタートラックのプラグインチェーン
メインのオーバードライブサウンドトラックにインサートされているプラグインチェーンです。ブリッジミュート主体のトラックで、重さも欲しいのですが、疾走感を損なわないように処理しています。
- Analog Channel(AC101) – McDSP
アナログチャンネルシミュレーター - Filter Bank(E606) – McDSP
カット用EQ(6バンド) - LA-2A Legacy – Universal Audio
モデリングコンプレッサー - API550A – Waves
ブースト用モデリングEQ
ベース同様ライン録音のリアンプトラックで歪んでいるのに若干オケから浮いている印象があり、他の楽器と馴染ませるためにAnalog Channel(AC101)をインサートして倍音を付加しています。
ローエンドの処理とハイエンドの処理、同時に耳障りな帯域をカットしたり、ボーカル用にスペースを作ったり、ハイエンドのロールオフ手前を若干ブーストして音抜けの改善も同時に行うためにFilter Bank(E606)を使用しています。
Filter Bank(E606)は非常に器用なEQで一台でカットからブーストまでそつなくこなします。LOWとHIGHのバンドのシェルビングEQではカーブに関する細かい調整が可能で、HPF/LPFと組み合わせて絶妙なブーストカーブを作ることが可能です。また、カット方向でも思った通りのカーブで切れてくれる印象があります。
サウンドの下地を整えた後、パートごとの音量差を埋めつつギターサウンドを一段前に前に出すためにLA-2Aをインサートしています。
私的にはLA-2Aはギタートラックの定番コンプで、まずはLA-2Aを試してみることほとんどです。LegacyバージョンのプラグインはUAD-1の頃にモデリングされたプラグインで、DSPリソースの使用量も控えめなので助かります。
トラックの最終段には埋もれないように高域を少し足し、ベースとのユニゾンパートなどで音を絡ませるため低域も少し足すためにAPI 550Aをインサートしています。ギタートラックによく使用するのですが、ざらつき感がありながらも耳障りではないサウンドに仕上がります。
ボーカルトラックのプラグインチェーン
- Studer A800 – Universal Audio
アナログテープシミュレーター - Oxford Supresser – Sonnox
ディエッサー - Renaissance EQ(REQ6) – Waves
カット用EQ(6バンド) - Tube Tech CL 1B – Universal Audio
モデリングコンプレッサー - NEVE 1073 – Universal Audio
ブースト用モデリングEQ
このボーカルトラックはダイナミックマイクを使用して、小型のオーディオインターフェースで録音されていました。そのため、デジタル臭く、音に暖かさが欠けていて、音程のあるナレーションを聞いているような印象を受けました。
まずはボーカルトラックの声の部分ではなくて、音の部分をオケに馴染ませ、音程のあるナレーションから歌声にするためにStuder A800をインサートしています。
Studer A800はアナログテープレコーダーをモデリングしたプラグインで、上記のような音源のデジタル臭さを和らげ、アナログの温かみを出すことできます。
無機質な『声』が、『歌声』になったところで歯擦音が気になり始めたため、Oxford Supresserを使用して抑え込んでいきます。
Oxford Supresserは幅を狭くしてもしっかり痛いところを潰してくれるディエッサーで、ボーカル以外にも色々なトラックに使用しています。音質も素晴らしいのですが、LISTEN INSIDE/OUTSIDEを使用することで、選択した帯域の音のみ、または、選択した帯域以外の音のみを選択してモニタリングができるため、作業性も大変高く便利なディエッサーです。
トラックのサウンドが整ったところで、トラック内のバランスを整えつつ、真空管の暖かさを加えてより音楽的にするためにTube Tech CL 1Bを使用しています。ボーカルトラックに使用する際はあまりINPUTは突っ込まずにナチュラルにコンプレッションをする設定で使用しています。
最終段には主役であるボーカルトラックを一歩前に出すためにNEVE1073を使用して、HIGHとMIDを少しだけブーストしています。
UAD-2のアナログモデリングプラグインは通すだけでサウンドにカラーが付くものが多いため、EQのツマミはフラットに近い状態でもサウンドに影響を与えます。足りないと思った要素を持っているプラグインをインサートすることで、自然に足りないものを補うことができるので助かっています。
プラグインチェーンを用意するメリット
さて、実際に使用したセッションからいくつかのプラグインチェーンをご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。やっぱりEQはコンプの後の方が良いだろうとか、どれだけAC101好きなんだ、とかいろいろ思うところがあったのではないでしょうか。
先にも申し上げた通り、プラグインの選定や設定内容は意外とどうでもよいのです。注目して欲しいポイントは『全てのプラグインの選定、接続順に理由がある』という部分です。
私がプラグインチェーンを一言で表すと『自分なりの勝ちパターン、連鎖、コンボ』になります。当然イレギュラーはありますが、パターンに入れれば後はまっすぐにMIXの完成に向かうことができます。
私論で恐縮ですが、MIXは完成形からの逆算で行うべきものです。完成形が見えてない状態であれこれと弄っても良い結果は得られません。プラグインは完成形のイメージをしっかりと持ってから、それに近づけるために使用すべきです。
以前の記事で紹介したプラグインのプリセット保存、呼び出しと、今回の記事で紹介したプラグインチェーンを使用して、よく使うプラグインを、よく使う設定で、よく使う接続順で準備しておくことで、「この素材からこんなサウンドを狙うならこのプラグインとあのプラグインを使う」と逆算できるタイミングが早くなり、MIXの早い段階から完成形に向かうことができます。
ProToolsでプラグインのプリセットを保存する方法は以下の記事をご覧ください。
毎回違うプラグインを使用して、違う接続順で、違う設定で使用していると、それぞれのプラグインの特徴がいまいち見えて来ず、サウンドの変化がプラグイン自体の特徴によるものなのか、接続順によるものなのか、設定によるものなのかの判別がつきづらく、解決に時間がかかります。
また、毎回同様のプラグインを使用していることで、素材の細かな違いや、自分の好みの推移など小さいことに気づくことができるのも大きなメリットです。プリセットから微調整を行なっていく中で、細かな違いを聴き分けられるようになることでMIXの技術は飛躍的に向上します。
参考までに、実際のプラグインスロットはこんな感じです。
楽器トラックでは最上段にサチュレーター、次にフィルター、カットEQ、コンプ、ブーストEQをインサートしています。使用しないトラックのスロットは飛ばし、常に何段目がどのエフェクトかをわかる状態にしておきます。各プラグインスロットに役割を持たせることで視認性も高まり、作業効率UPにつながります。
普段はミニフェーダーで作業を行うので、プラグインの名前が意味不明になっていることが多く、位置でプラグイン種を把握できるのは大きなメリットです。編集画面にプラグインも表示させる方は、より視認性の問題が大きくなるのでメリットを享受できるはずです。
3行でまとめると
- 接続順を固定することで各スロットに役割を持たせる!
- プラグインの特徴を生かして使用する!
- 最終的な2MIXをイメージしてから使用する!
最後に
長くなってしまいましたが、プラグインチェーンについてのお話でした。
エンジニアそれぞれに独自のプラグインチェーン、エフェクトチェーンがあるので、参考程度に考えてもらえれば幸いです。いろいろ試してみて自分自身のやり方を見つけてみてください。
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