DTM/DAW

ギターやベースをDAWによりよい音で録音するための方法〜その1〜

かつてはエンジニアの道具という印象が強かったDAWも今では宅レコ用の作・編曲用ツールという面がとても強くなってきました。EDMなどのトラックメーカーだけではなく、ギタリストやベーシストでも作曲やデモ作成用にDAWを使用する方は多いです。

シーケンスのトラックと違い、ギターやベースなどの生楽器は演奏技術やフレージングだけではなく、録音の仕方などによってクオリティーが大きく左右されます。

今回はエレキギターやエレクトリックアコースティックギター、エレキベースなどの電子弦楽器をDAWでよりよい状態で録音するための方法について考えていきます。

エンジニアやクリエイター向けの方法は確かに効果的なのですが、経験やMIXの技術を要する方法が多いです。本記事では、普段バリバリライブ活動をしていて、DAWはデモ作成にしか使用していない方にも使用していただける方法を主体にご案内していきます。



目次

DAW入力前の音質向上方法

DAWに限らずレコーディングでは、レコーダーに入力される前に音質的な部分やサウンドの方向が決定づけられることが多いです。

当然、優れたアンプシミュレータープラグインを使ったり、スタックタイプのギターアンプなどを使用してリアンプを行ったりすることで後からサウンドのキャラクター付けをすることも少なくありませんが、録音前に方向付けが行われているに越したことはありません。

例えばエレキギターを持ってライブを行う時に、ハーフトーンが似合う軽快なカッティングをリアに搭載されたハムバッカーで演奏したり、逆に骨太なバッキングトラックをボリュームを絞ったビンテージギターで演奏することは無いと思います。

DAWを使用した自宅レコーディングでもこれは同じで、モニター用に使用するアンプシミュレーターなどの設定と合わせて満足出来るクオリティのサウンドで録音を行うべきです。

新しい弦をチューニングして使用する

コーティング弦が存在しなかった時代のレコーディングでは、1日に幾度となく弦交換を行いながらレコーディングをしていました。

現在はコーティング弦が広まっていて飛躍的に弦寿命が伸びているのですが、張ってから数ヶ月経過した弦などでは演奏頻度などにもよりますが、弦本来のサウンドは失われていることが少なくありません。また、張ってから時間の経った弦はピッチも不安定になっています。

そのような状態で録音をしても良いサウンドが得られるわけがないので、レコーディング前には必ず弦を交換するようにしましょう。

弦を張った直後はピッチが安定しないので、しっかり伸ばして繰り返しチューニングを行っておきましょう。録音を始めてからも各テイク間などに頻繁にチューニングを行いながら進めるべきです。

以下の記事に新しい弦を使用するメリットについて解説しているので、合わせてご参照ください。

使用するケーブルにこだわる

ALLCABLE

楽器本体とオーディオインターフェースやDI、プリアンプを接続するシールドケーブル、DIやプリアンプからオーディオインターフェースに接続するキャノン(XLR)端子を備えたケーブル(以下マイクケーブル)も録音の質に大きく関わってきます。

シールドやマイクケーブルは音声信号を伝達するための導線であると同時に、それぞれ電気的な抵抗を持っています。電気的な部分だけで考えれば、この抵抗が小さい方が優れていると言えるのですが、音声信号に関しては一概にそう言うことも出来ません。

と言うのも、ケーブルごとに異なるこの電気的な抵抗が音質に与える部分は大きく、サウンドに対しても決して無視できない要素を持っているからです。

「シールドを変えたらベースやギターのサウンドが変わった気がする」と言う経験をお持ちの方も多いかと思いますが、それは決して気のせいではなくシールドの持つキャラクターがサウンドに反映されているからです。

高級なケーブル=音が良いという図式は必ずしも成り立ちませんが、例えばBELDEN8412とかMONSTER CABLEは音が太いとか、CANARE GS-6やCUSTOM AUDIO JAPANは原音忠実とか、各シールドごとにサウンドのキャラクターを持っています。目指すサウンドによってこれらを適切に使用することで録音のクオリティーは確実に上昇します。

普段ライブ活動を行っている方にとって、シールドは当然ライブでも使えるのでこの部分の投資は決して無駄にならないのでオススメです。

シールドの持つキャラクターについては下記記事もご参照ください。

また、外部プリアンプやDIのXLR出力とオーディオインターフェースを接続するマイクケーブルもシールドほどではないものの音質に確実に影響を与えます。各ケーブルのキャラクターなどについては今回は解説を行いませんが、CANAREやBELDEN、MOGAMIなどの定番メーカーのものを使っておけば安心です。

以下は自作ケーブル用の記事ですが、既製品シールドやマイクケーブルの線材を判別する目安にお役立てください。

プリアンプを使用する

エレキベースやエレキギター、エレクトリックアコースティックギターをライン録音する場合。楽器の出力信号はDAWへの入力前にオーディオインターフェースの入力段で増幅されます。多くの場合Hi-Z/LINE/MICで共通のこの増幅段は電子弦楽器に特化されているわけではなく、どんな楽器にも平均的に作用するようにフラットな設計がなされています。

そのため、各楽器に特化したプリアンプよりも平らで味気ないサウンドに録音されてしまうことがほとんどです。

基本的にアンプシミュレーターを使用しないエレクトリックアコースティックギターではプリアンプを使用することでクオリティーが大幅アップする傾向にあります。エレアコ用だとFISHMANやL.R.Baggsあたりが有名どころでしょうか。レコーディングだけではなくライブパフォーマンスにも使用可能で一石二鳥ですね。
FISHMAN / Aura Spectrum DI Preamp
FISHMAN / Aura Spectrum DI Preamp

FISHMANのAuraはエレアコに最適なDI機能を持ったエレクトリックアコースティックギター用プリアンプです。最大の特徴は入力されたピエゾピックアップのサウンドに、AURAアルゴリズムによって生成されたマイク録りをしたかのようなサウンドブレンド出来ることにあります。

コンプレッサーやEQ、チューナーやハウリングの抑制機能も備わっていて、ライブパフォーマンスにもDAWでのレコーディングにも使用できる万能プリアンプとしてオススメです。
L.R.Baggs / Venue DI
L.R.Baggs / Venue DI

L.R.Baggsもエレアコ用プリアンプメーカーとしては定番です。Venue DIはDIの名を冠していますが、製品カテゴリとしてはプリアンプにあたります。特筆すべきは4バンド+PresenceコントロールのEQセクションです。lo midとhi midの2バンドは作用帯域を連続可変させることが可能で幅広いサウンドに対応しています。

また、gainツマミを上げレベルを稼いで行くと、専用設計のプリアンプならではの美味しいところを中心にレベルが盛り上がってくる印象で、treble presenceでの高域コントールと合わせてアコースティックギターに必要な倍音コントロールもこなしてくれます。

 

エレキギターと比べてライン音の比重が高いエレキベースにも、プリアンプの存在が欠かせません。こちらはAVALON DESIGNやTECH21が有名ですね。また、好みのベースアンプがある場合、アンプメーカーのリリースしてるプリアンプにも注目です。こちらもライブにも使えるツールなので無駄がありません。
AVALON DESIGN / U5
AVALON DESIGN / U5

エレキベース用のプリアンプと言えばこちらを外して考えられないAVALON DESIGNのU5プリアンプです。よくDIと表現される方が多いのですが、正確にはプリアンプのカテゴリになります。

Boostツマミで入力信号のレベルを調整し、以下の6種類のトーンからサウンドキャラクターを選択して使用します。

avalon_filter

エレキベースでは1か2を使用している方が多いように感じます。当然フラットな特性が必要であればTONEスイッチをOFFにすることでTONE回路をバイパス可能です。Boostツマミを高めに設定しドライブ感を加えたサウンドが特徴的で、元々の太いサウンドと合わせてエレキベースには最適なプリアンプとなっています。

 

TECH21 / Sansamp Bass Driver DI V2
TECH21 / Sansamp Bass Driver DI V2

TECH21と言われてもピンと来ない方でも、サンズアンプと言えばピンと来るのではないでしょうか。かつてその歪みサウンドで一世を風靡したBass Driverのバージョン2です。こちらもDIと銘打っていますが、メーカー公式で”Much more than just a direct box”とのことです。DRIVEやEQが豊富に備わっているところからもプリアンプにカテゴライズされます。

歪みの量を決めるDRIVE、3バンド+PRESENCEのEQ、バイパス音をMIXするBLENDの3つのセクションとLEVELで構成されています。MIDとBASSの2バンドは作用周波数を切り替えることが可能です。歪みのコントロールに重きをおき低域が太くロックに特化したプリアンプです。



DIを使用する

DIとは、Direct Injection (Box)の略で、電子弦楽器などのはいインピーダンス信号をマイクなどのローインピーダンス信号に変換したり、アンバランス入力をバランス出力するための機器です。詳しくは下記記事で解説しています。

ローインピーダンス化バランス伝送のどちらも長距離伝送に有利なのでライブ会場などで使用されています。

と、ここまでを見るとDAWでのレコーディングに不要に思えますが実際はそうではありません。前述の通り、オーディオインターフェースの入力回路は特定の楽器に特化しておらずフラットな特性のものが多いため、録り音も平らになってしまいがちです。高品位なオーディオインターフェースでは比較的ローエンドからハイエンドまでをキャプチャーしてくれる印象がありますが、エントリーモデルなどでは中域に寄ったサウンドになりがちです。

アンプシミュレータープラグインを使用する場合にもドライ音のレコーディング状態はとても大切なので、使用してみることをオススメいたします。

また、DIを使用する最大のメリットは録音用の出力をXLR出力から直接オーディオインターフェースへ接続し、レコーディングモニター用の回線をDIのTHRU出力からエフェクターなどを経由してオーディオインターフェースに入力することで、モニターだけにエフェクトをかけて、完全にドライなサウンドを録音できることにあります。

近年ではDSP内臓オーディオインターフェースも多く、DSPミキサー上のギターアンプシミュレーターなどで同様の操作が出来たりしますが、エントリーモデルなどには搭載されていなかったり、レイテンシーの問題があったりとうまく行かないこともあります。上記の方法で接続し録音を行うことで、この問題は一気に解決します。
RUPERT NEVE DESIGNS / RNDI
RUPERT NEVE DESIGNS / RNDI

DAW用DIとして考えた時に最適解の一つになるのがこのRNDIです。プレイヤーサイドにはあまり耳馴染みがないRUPERT NEVE DESIGNですが、レコーディングスタジオなどのスタジオ機材の分野では伝統のある超有名ブランドです。

DIとしての基本的な機能のみに絞ったシンプルなデザインですが、そのサウンドは本物です。低域から高域までストレスの全くないレスポンスを持ちサウンドの輪郭から細部までをしっかり捉えてくれるので楽器を選ばず使用可能です。

録りの段階でエフェクトをかけ過ぎない

ライブで普段使用しているエフェクターを全部繋いだ状態でレコーディングに臨まれる方が多いのですが、これはあまりオススメ出来ません。使用していないエフェクトや空間系などDAWで調整を行うものを外した状態でレコーディングを行いましょう。

コンパクトエフェクターを複数台接続した状態では、接点数の増加や信号経路から来るノイズが増えます。また、いわゆる音痩せが起こりやすく楽器本来のサウンドを損なってしまう場合があります。

特にエレキベースはコンプが強くかかった状態で録音を行うと、録り音のダイナミックレンジが狭くなり、抑揚のない平坦な状態で録音されてしまいます。失われたダイナミックレンジはMIXで取り戻すことが出来ないので、録音時に強めのコンプが必要であればDAWや上記のDIを使った分岐でモニター回線だけにコンプをかけるなどの対応をしましょう。

適切な入力レベル設定を行う

送られて来た素材がデジタル歪みを起こしていてそのままでは使えない、という事例が意外と多く見受けられます。ほとんどの場合、デジタル歪みの原因は入力レベルオーバーによるクリップです。DAWで扱うデジタル音声データは最大ビット数が決められていて、この最大ビット数をオーバーするとクリップを起こします。

逆に録音時の入力レベルが低すぎる場合、録音される音声データの解像度が低く、それをデジタルゲインで適正レベルまで引き上げるとノイズフロアまで上がってしまうために非常にS/Nが悪くなります。

メーターの描くカーブにも特徴があるので、慣れないうちは適切な設定は難しいのですが、最も強くピッキングするパートでクリップインジケーターが点灯しない位のレベル設定を目指しましょう。

以前先輩エンジニアの方に入力レベルの説明を受けた際に、デジタルカメラの画像を参考として上げていただき理解が深まったので、私もそれ以来携帯電話などのデジタルカメラを使って説明を行うことが多いです。

まず、下記画像内2枚の写真をご覧ください。

解像度を画像で説明

当ブログで使用したMacのキーボードの写真です。被写体はエンターキーです。

左の写真は元画像から該当部分を切り抜いたもの、右の画像は元画像の該当部分が画面に収まるところまでデジタルズームしたものです。全く同じサイズの全く同じ画角の写真ですが、左の画像の方が目に見えて鮮明に撮ることが出来ています。

解像度が高い画像が必要であれば被写体に寄るのがベストです。オーディオファイルも基本的には同じで、左の状態が被写体に寄った状態=適正入力レベル状態、右の状態が離れた状態からズームして撮影した状態=小さいレベルのファイルをデジタルゲインで持ち上げた状態にあたります。

次に下記画像もご覧ください。

寄りすぎて切れてる

同じく2枚の写真で、左の写真は先ほどと同じものです。右の写真は元画像をより狭い範囲で切り取ったもので、より被写体に近い部分で撮影したのと同じ状態です。エンターキーの画像に占める面積は右画像の方が大きいですが、左下と右上部分がフレームアウトしています。

こちらを音声データに置き換えると、左は適度に寄って撮影した状態=適正な入力レベルで録音された状態、右は寄りすぎて被写体がフレームアウトしている状態=入力レベルが大きすぎてデジタルクリップが起きている=音声データとして使用できない状態となります。

例えば、(自分でも意味不明ですが)エンターキーの左下部分が今回の写真のテーマだったとしましょう。左の写真ではその形を確認することが出来るし、必要であればその部分にズームインすることも出来ます。しかし、右の写真では左下部分の実際の形状は不明で、ズームアウトすることも出来ません。復元不可能です。

どうでしょう、少し理解が深まりましたでしょうか?

電子弦楽器の録音に限ったことではないのですが、このような理由から基本的にDAWで扱う音声データはクリップを起こさない中で可能な限り大きめに録っておくことが重要です。

楽器とPCの位置や向きとノイズ

マイク録音を行う際には周囲の雑音がマイクに被り込んでしまうためにノイズ対策がしっかり行われていますが、ライン録音ではあまり気にされないことが多いようです。

自宅でDAWを使ってレコーディングを行う環境では基本的にPCに向かって作業をすることになりますが、困ったことにPCは空気中に目には見えない電気的なノイズを撒き散らしています。それらをピックアップが拾うことで耳に聞こえるノイズとして録音データに現れていまいます。

残念なことに、これらにはPCと楽器(ピックアップ)の物理的な距離をあける以外に明確な対処法がありません。距離を開けるという対処法が確実なのですが、ご自宅ではそうも言っていられないのが実情ではないでしょうか。

デスクトップPCであれば、長めのモニターケーブルや長めのUSBケーブルを用意することでノイズから逃れることが可能です。しかし、ノートPCをお使いの場合にはキーボードとの距離関係の問題であまり距離を開けられないことが多いです。外付けキーボードを使用しても、ディスプレイが見えなくては録音もできません。

私も自宅ではノート型PCを使用しているので、この辺りは悩みどころです。ギターを持ってデスク周りをうろつき、ノイズがよく飛んで来る場所を探して対処しています。結構大きな要素を持っているのが、ピックアップとPCの向きで、PCの前で楽器を持った状態でも90度横を向くとノイズが混入しなくなったりしています。

大切なのは距離を離すこと、それが無理なら真正面を避ける、というのが対処法になります。

楽器本体で行うノイズ対策に関しては下記記事で詳しく解説をしています。




3行でまとめると

  • 弦は新しいものをチューニングして使うべし!
  • DAWへの入力音はしっかりと作り込むべし!
  • レベルは適切に調節すべし!

最後に

今回はベースやギターの録音時にサウンドクオリティをアップするための方法について解説してきました。

意外と意識していなかった方も多いのではないでしょうか?

この記事の続きとなるDAWに録音した後については下記記事でご紹介しています。

近年の音楽制作現場では後編集を前提とした録音が多くなっている印象ですが、私は後編集では楽器の本来持つサウンドを100%引き出すことは出来ないと考えています。制作現場は時間的な制約もあってレコーディング作業に時間をかけられない状況もあるわけなのですが、レコーディング段階でしっかりと録音を行うことでクオリティは確実に向上します。

 


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