DTM/DAW

ギターやベースをDAWによりよい音で録音するための方法〜その2〜

前回は録音時の音質向上方法についてご紹介して来ましたが、今回はその2としてDAWで行う録音後の音質向上方法についてご紹介していきます。録音段階でしっかりとした素材が録れていることが前提になりますが、確認してみてください。

前回記事は以下になります。直接こちらの記事に来た方は先に前回記事をご覧ください。

また、エンジニア・クリエイター向けの記事では各種プラグインなどを詳細に解説していますが、本記事はプレイヤー向けの記事ということでここではそれらの解説は省略させていただきます。気になる方はDTM/DAWカテゴリの他記事もご覧ください。



目次

DAWでの音質向上方法

さて、前回の記事ではレコーディング時に音質を向上させる方法をご紹介して来ましたが、プリアンプやシミュレーターのかけ録りを行なっていない場合にはライン直の音で録音がされていることかと思います。基本的にはそれらのライン音をアンプ音に変えるための方法を解説してきます。

アンプやシミュレーターを使用した録音を行なっている場合には多くの項目は不要と思いますが、参考適度にご覧いただければ幸いです。

無音部分をカットする

サビの前のブレイクなど「無音を演奏する」パートでは小さなノイズも気になります。また、2小節前から聴いて録音をしていると、テイクの頭に2小節分の無音が発生しますが、この時もボリュームの上がった楽器の弦を触っているため、小さなノイズが発生しています。

録音された直後のデータでは目立たなくても、コンプレッサーなどを使用して小音量部分が相対的に持ち上がってくるとこの本来無音のはずの部分に存在する音が気になって来ます。それぞれのトラックでは小さいノイズでもテイクを重ねていく中でチリも積もります。

私は各トラック内の演奏部分以外、意図しない音は基本的にMIXの前段階でカットしてしまいます。弦楽器のフィンガーノイズやボーカルのブレスノイズなどについてはライブ感を得るために活かすことが多いですが、前述のブレイク部分やテイク頭などの意図しないノイズはカットしています。

細かい作業ですが、少しの手間をかけるだけで仕上がりが向上するので手間を惜しまずやっておきましょう。

また、カットした部分にはDAW側でほんの短いフェードイン・アウトを設定してくれることがほとんどですが、再生時に該当部分でノイズが発生する場合には手動でフェードを書きましょう。

アンプシミュレーターを使用する

送られて来たエレキギタートラックを確認してみたところ、ロー感の全く感じられない細いサウンドだったので、「これどうやって録りました?」と聞いたところエレキギター→コンパクトプリアンプ→オーディオインターフェースのLine入力と接続して録音したんだけどスカスカになっちゃった、とのことでした。

一見なにも間違えていないのですが、使用したプリアンプにはキャビネットシミュレート機能が搭載されていないようでした。はい、原因コレです。許可をいただいて必要以上にブーストされた低域をカットしてからKEMPER PROFILING AMPLIFIREののCABINETセクションを通して別ファイルを作成しましたが、意外と同じ勘違いをされている方が多いように思います。

プリアンプやアンプシミュレート系のドライブペダルにはライン出力が備わっていて、本来それをギターアンプやベースアンプのリターン端子などに接続して使用します。こうすることで接続先アンプのプリアンプ部分をバイパスしてパワーアンプ→スピーカーキャビネットと鳴らすことが出来るように設計されています。

プリアンプ側にキャビネットシミュレーター機能が搭載されていればONにすることで、このパワーアンプ→スピーカーキャビネット部分での変化を再現してくれるのですが、備わっていない機種では楽器用アンプ用に設計されたスピーカーを経由しない状態でフルレンジ環境に放り出されます。その結果、前述の用にスカスカサウンドが出来てしまったわけです。

逆にKEMPERユーザーやFractal Audioユーザーの方にはキャビネットシミュレーターがかかった状態でアンプやスピーカーに接続しライブ使用されている方もいらっしゃいます。やんわりと指摘はしています。

アンプシミュレータープラグインは実際のアンプと同様に使用できるのがメリットで、各社から色々リリースされています。モデルによっては先程の用にキャビネットシミュレーター部分だけを使用可能だったり、リアルタイムプロセッシングが可能だったりするので、試してみるのもよいでしょう。

AMPEG SVT3PRO

こちらはUniversal Audio社からリリースされている、定番Ampeg SVT-3 PROのプラグインです。実機と全く同じUIを持っていて、FX Rackでキャビネットとマイクの選択が可能です。UADプラグインと呼ばれる外部DSPを使用したプラグインで、リアルタイムで使用しながら録音することも使用可能です。

Marshall

こちらはSoftubeのMarshall Plexi Super Leadプラグインです。ツマミのキャップが取れてたりオールド感を演出するUIですね。こちらもアンプに立てるマイクを選択することが出来るのですが、わからなければ初期状態のまま使用しても問題ありません。

Sound Machine Wood Works

こちらは一風変わったエレアコ用のUADプラグインSound Machine Wood Worksです。ピエゾピックアップで録音されたエレアコのサウンドをお手軽操作でアコースティックギターをマイク録音したサウンドに変えてくれます。操作もいたってシンプルで、基本的にはSOUND MACHINEダイヤルを回してアコースティックギターのモデルを選ぶだけです。

ここまでの3つはUniveral Audio社のUADプラグインで、使用するには同社製のDSP内蔵オーディオインターフェース、または外部DSPユニットが必要になります。

UADについては下記記事をご参照ください。

IK AMPLITUBE4

こちらはIK Multimedia社のAmplitube4の画像です。こちらもライセンスこそはありませんが、どこかで見覚えのあるUIとAMP MODELからどのアンプのモデリングかは一目瞭然です。

IK AMPLITUBE4 CABINET

同じくAmplitube4のキャビネットシミュレーターセクションです。これもどこか見たことのあるキャビネットなのではないでしょうか?他にはPOSITIVE GRID社のBIAS AMPシリーズなどがこのカテゴリでは高評価です。

Amplitubeに代表されるアンプシミュレーターは高度な計算を必要とされるプラグインであるためCPU負荷が大変大きく、多数のトラックに同時に使用するとCPUオーバーロードエラーが発生しDAWの再生が満足に行えなくなってしまう場合があります。

下記記事でCPUオーバーロードエラーの対処法を解説しているので、合わせてご覧ください。

 

IK MULTIMEDIA / AmpliTube MAX
IK MULTIMEDIA / AmpliTube MAX

上記でご紹介したIK MultimediaのAmplitubeシリーズにオプションのアンプモデルを全て乗せたお得なアンプシミュレータープラグインです。

ギターアンプだけでなく、ベースアンプのモデリングも収録されているので、ベーシストの方にもオススメです。 UIが実際のアンプに近いのでDAWやプラグインに不慣れな方にもわかりやすく、比較的簡単に使用することができます。

Positive Grid / BIAS AMP 2.0 Professional
Positive Grid / BIAS AMP 2.0 Professional

Amplitubeが簡単UIで気軽にアンプを選べるシミュレーターなら、Positive GridのBIAS AMPは操作項目が多くアンプを作れるシミュレータープラグインです。真空管アンプのプリ菅やパワー菅を自由に組み換えて自分だけのアンプを作って使用できます。公式にもAMP DESIGNERとなっていますね。

作り込み可能なサウンドの幅が非常に広いのが最大の特徴で、ギターアンプからベースアンプまで色々なアンプをデザインできます。ドライブトーンでの倍音の出方などは実際のアンプと比べても区別がつかないレベルで優秀で、負荷に見合った活躍をしてくれます。

設定項目が多いので操作が若干複雑なので初心者の方は使いづらさを感じる面もありますが、プリセットから弄って行くことでこの面白さに慣れていくと思います。私はギターのサウンドをBIAS AMPで作る際に、アンプデザインが楽しすぎて時間を忘れて弄っていたことがあります。

ハードウェアでリアンプを行う

DAW内でアンプシミュレータープラグインを使う方法以外にベースアンプやギターアンプのトーンを得る方法があります。それはハードウェアのアンプシミュレーターやプリアンプ、実際のギターアンプなどを使用してサウンドを作り、それを再びDAW内に取り込む方法で、この方法をリアンプと呼びます。

アンプシミュレータープラグインは複数トラックに同時使用することが可能ですが、ハードウェアを使用する場合にはハードウェアの台数分しか同時に使用できません。しかし、当然ながらCPUに負荷はかからず、ライブで使い慣れた機器のプリセットなどをそのまま使用できるので、簡単にいつものサウンドを作ることが出来ます。

リアンプを行う方法は、オーディオインターフェースのライン出力からギターアンプの入力端子に接続→ギターアンプの出力をオーディオインターフェースの入力に接続し別トラックにレコーディング、というのが一般的です。

ギターアンプを使用する場合にはキャビネットにマイクを立てて集音します。しかし、自宅でギターアンプを満足な音量で鳴らせる環境があることは稀で、宅レコといった環境に限ればあまり現実的ではありません。このような場合、ロードボックスを用意してレコーディングを行います。また、アンプシミュレーターやプリアンプであれば、ライン出力端子からオーディオインターフェースに接続することで、リアンプが可能です。

近年のアンプヘッドにはレコーディング用にキャビネットシミュレーターが内臓されているものも多く、そういった端子からライン出力を取ることで実際にアンプをマイク録りしたようなサウンドを得ることが可能です。

Kemper Profiling Amplifier / Kemper Profiling Power Rack
Kemper Profiling Amplifier / Kemper Profiling Power Rack

私も愛用しているKemper Profiling Amplifierでは、実際のギターアンプやベースアンプのトーンをアンプの特性とキャビネットの特性に分けて機器内に保存することが出来ます。ここで解説をすると長くなってしまうので、詳しくは下記記事で解説しています。

実際に複数のギターアンプやベースアンプを使用してリアンプを行う場合、それらのアンプを使える状態で保有している必要がありますが、空間的・経済的な原因により現実的ではありません。KEMPERを使用することで、多数の機種のアンプを使い分けることが可能なので、リアンプだけでなく、ライブでも非常に役にたちます。

ライブでの使用も考える場合にはパワーアンプ搭載モデルが圧倒的にオススメです。

また、ギターアンプとしてのイメージが強いですが、600W出力のパワーアンプを搭載しているのでベース用キャビネットを十分に鳴らすことが可能です。ベーシストの方にもライブやレコーディングで使用されている方が多く現場で活躍しています。

HUGHES&KETTNER / Black Spirit 200
HUGHES&KETTNER / Black Spirit 200

Hughes & Kettnerは好きなギターアンプメーカーの一つで、TRIAMPに代表される抜けのいいドライブサウンドが気に入っています。このBlack Spirit 200は200Wのギターアンプヘッドにキャビネットシミュレーター機能付きDIが内蔵されているモデルで、ライブでもレコーディングでも同じケトナーサウンドを使用することができます。



EQ、コンプなどで処理をする

無音部分を処理し、ライン音からシミュレーターやプリアンプなどでアンプトーンを生成したら、一旦別トラックに書き出してアンプシミュレーターなどをOFFにします。DAWによってはバイパス状態でもプラグインによるCPU負荷が発生するので、確実にOFFにしてCPUリソースを解放しましょう。

ギタートラックやベーストラックを単音で聴いている状態ではいい音でも、それらのトラックがMIXの中で活きるように調整を行う必要があります。以下、ごく基本的な部分について簡単にご紹介をします。

まずはDAWのフェーダーとPANを使って大体のボリュームバランスを取ります。ベースは基本的にセンター定位、バスドラムと一緒に聴いた時にどちらかが目立ちすぎることが無いような音量に、ギターはリードパート以外はセンター定位を避け、ベースに埋もれない程度の音量に調整します。

MIX全体で聴いた時に全パートがクリアに聴こえていれば、この段階までは問題なしです。正直なところ、バンド内デモであればここで完成で良いと思います。

その後、MIX内でクリアに聴こえないパートがある場合には、各楽器が聴こえるようにEQやコンプレッサーなどのプラグインを使用して処理を行うわけですが、この処理は一朝一夕には身に付きません。以下ベースパート、ギターパートを処理する初歩的な方法を簡単に解説いたします。全ての状況に当てはまる訳ではありませんが、設定の参考にしてみてください。

ベーストラック

  • バスドラムとの分離が悪い場合にはEQで40〜80Hz辺りをカットする。切りすぎるとLow感が失われるので慎重に。
  • Low感が物足りない場合にはEQで200〜400Hz辺りをカットしフェーダーで下がったレベルを戻す。
  • 聴き取りづらい箇所がある場合にはコンプレッサーを浅めにかけてレベルをならす。
  • 抜けが悪くフレーズが聴き取りづらい場合には2〜4kHzを3dB程度ブーストする。

ギタートラック

  • ベースとの分離が悪い場合や抜けが悪い場合にはEQで100Hz程度のHPFを入れ300〜600Hz辺りをカットする。
  • 高域が痛く感じる場合には3kHz辺りを細いQでカットする。
  • 埋もれて聴き取りづらい場合にはエレキは4〜8kHz辺り、エレアコは6〜12kHz辺りで抜けがよくなるポイントを3dB程度ブーストする。

繰り返しになりますが、これらは目指すサウンドの方向性や楽曲の方向性を考慮していない参考値です。EQは基本的にはカットで使用し、カットしたことで下がった音量をフェーダーで戻すようにしてください。

実際にはベーストラックやギタートラックには音作り用のコンプを深めにかけたり、ギタートラックの抜けを出すためにもっと大胆なブーストを行うこともありますが、慣れないうちには行わず、アンプ段階での音作りを見直すようにしましょう。そうすることで、単体では物足りなくてもアンサンブルの中で抜けてくるサウンド作りが身につきます。HR/HM系の重たいディストーションギターも単体で聴くと意外と軽い音をしているものです。



3行でまとめると

  • 無音部分は積極的にカット!
  • アンプのトーンをプラグインで!
  • 実際のアンプを使うのもオススメ!

最後に

前回はレコーディング前〜レコーディング中のポイントについて解説してきましたが、今回はレコーディングされた素材をDAWで編集する方法についてご紹介してきました。

本文中でも触れていますが、単体でのいい音とMIXの中でのいい音は必ずしも同一ではありません。むしろ、多くの場合で全く異なります。それはDAW内の中だけの話ではなく、ライブを行う際にも言えることです。

プラグインEQやコンプレッサーに頼らなくても、各パートのプレイヤーがアンサンブル内でのサウンドを意識的に作って行くことで相対的にMIXのバランスは向上し、全体のサウンドも確実によくなります。

たかがデモ製作にDAWを使っているだけと考えずに、アンサンブルで抜ける音作りの研究手段としてもお役立ていただければ幸いです。

 


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