欧米人に比べて日本人をはじめとしたアジア人は小柄で、当然手のサイズも一回り小さくなっています。
努力で解決されている方も数多くいらっしゃいますが、残念なことにギターを弾く上で手の小ささは不利になる要素の一つでもあります。実際に私も手の小ささには悩んでいます。
手の大きさと言うと、スケールなど弦を押さえる左手にばかり注目しがちですが、意外と重要になってくるのがナット、ブリッジ上の弦の間隔です。
今回はそんなナット、ブリッジ上での弦の間隔(=弦間ピッチ、弦ピッチ)について解説していきます。
なお、ピッチという表現から音程のことと誤解されがちですが、本記事内、当ブログ内で『弦ピッチ』と言ったら弦の間隔のことを意味します。
目次
ナット上での弦ピッチ
ナット上での弦ピッチは基本的に各弦間で一律になっています。
後述の『弦落ち』対策のために全体的にほんの少しだけ6弦側に寄せてナット溝を切ってあるナットや、弦の外側同士の間隔を一定にするため、6弦側が広く、1弦側が狭くなっているナットもあります。
一般的にストラトキャスターなどの片側6連ペグのギターではチューニングマシンのポストからブリッジのサドルまでの直線上に溝が切られています。そのためナットに横方向の力はあまりかからず、ナット溝が広くなっていってしまうこともあまりありません。
逆にレスポールなどの3/3ペグのギターでは、ナット溝に横方向の力が掛かり続けているため、チューニング時などに巻き弦がナットを削ることでナット溝が広くなってしまいがちです。定期的に溝の状態をチェックして、早めに交換するようにしましょう。
ナットの幅とネックの幅と弦ピッチ
ほとんどの場合、ナット上での弦間隔はナット自体の幅=ネックの幅で決まってきます。ナット幅はエレキギターでは38mm〜45mm程度、アコースティックギターでは45mm前後、クラシックギターでは51mm前後となっています。
参考までにFender系のビンテージ系が42mm程度、モダン系が42.8mm程度、Gibson系が43mm程度です。その他メーカーでも概ね同程度の幅になっています。当然、ナット幅によってローフレットの演奏性に影響はありますが、個人的には指板Rの影響の方が大きいと感じています。
ナット上での弦間隔の基準値はナット幅(Nut Width)を6で割ったものです。そのため、幅広のナットであれば弦ピッチが広く、幅狭のナットであれば弦ピッチが狭くなります。また、ナットの幅はネックの幅と同一であるため、必然的にネック幅の狭いギターの方がナット上での弦ピッチが狭いギターになります。
さて、ナット幅を6で割ると言う部分に違和感を感じておられる方もいらっしゃることかと思います。そう、6本の弦の間は5箇所なのです。これには1弦と6弦の外側の余白の部分も他の弦の間隔の半分開けているから、という理由があります。
5(弦の間隔)+1/2(6弦からナットの淵まで)+1/2(1弦からナットの淵まで)=6ということです。
大きいサイズのフレットが打たれていて、ラウンドエッジ加工(フレットの淵を丸める加工)が行われているギターでは、ナットの加工の段階で弦溝を全体的に内側に寄せることもあります。その場合、各弦間は先ほどの基準値よりも小さくなります。
余談ですが、ナットの溝は弦の幅とほとんど同じく1.05mm〜0.25mm程度です。42mmのナット上に6本の幅の違う弦溝を0.1mm単位の精度で性格に切るクラフトマンやリペアマンの方々の技術というのは驚異的なものだと感じています。
ブリッジ上での弦ピッチ
続いては、ブリッジ上での弦の間隔です。
上の画像の赤い線が弦、青い線がその間隔です。一般的にはブリッジ上でも弦ピッチは各弦間で一律になっています。
一般的な弦ピッチは10.5mm程度〜11.3mm程度となっていて、ブリッジ形状やギターのモデルによって様々です。
たかが1mm無い位の差があるだけなのですが、各サドル、5箇所の弦間を合計すると4mmもブリッジ幅が変わってきます。ピックの厚みが1mm程度であることを考えるとこの差は無視できないものとなってきます。
また、E to Eスペース(6弦から1弦までの距離)がナット上では35mm程度なのに対して、ブリッジ上では53mm程度になっています。ネックの長さ分の距離が離れているとはいて、ギターの弦の外側が描くのは長方形ではなく、実は台形なんです。当然ネックもハイポジションに行くにしたがって幅広になっています。
弦ピッチ10.5mmのブリッジ
一般的なGibson Lespaulなどに搭載されているチューンオーマチックブリッジや、一部のUSA産Fenderのシンクロナイズドトレモロブリッジ、フィクスドブリッジ、PRSのギターなどに採用されているのがこの10.5mmピッチです。
弦の間隔が狭いことで、弦移動や弦飛びに有利でテクニカルなプレイにも向いています。なによりも後述の弦落ちが発生しづらいのが最大のメリットなのではないでしょうか。
反面、ピックや指が狙った弦の上下の弦に触れてしまう可能性も高いため、注意が必要です。とくに、開放弦をしっかりミュートすることが弦ピッチの広いギター以上に必要になってきます。
近年では、Fender USAのモダンタイプ(2点支持トレモロ)のストラトキャスターにも採用されています。弦ピッチが狭い方が好きな私にとっては大変ありがたい話ですが、本来の(?)ストラトキャスターの演奏性から大きく離れてしまっているという批判的な意見も耳にします。
一部ギターには10.0mmや10.2mmなどより幅狭のブリッジが搭載されていますが、全体から見るとごくわずかであるため、今回は割愛させていただきました。
弦ピッチ10.8mmのブリッジ
フロイドローズオリジナルトレモロやメキシコ産Fenderなどの一部のシンクロナイズドトレモロブリッジ、フィクスドブリッジに採用されているのがこの10.8mmピッチです。フロイドローズライセンスのブリッジには10.8mm以外のピッチもあります。
上記の10.5mmピッチと比べて、若干広いですが、持ち替えた際に違和感を覚えるほどではありません。また、よほどのことが無い限り、弦落ちも発生しないでしょう。
ブリッジ全体の横幅が広く、弦間隔が広いため、リアピックアップにハムバッカータイプのリプレイスメントピックアップを選ぶ際には対応しているものを選択しましょう。
Dimarzio社であれば『F Space』、Seymour Duncanであれば『トレムバッカー(=型番がTB-〇〇)』が対応しているピックアップです。
リプレイスメント用ハムバッカーピックアップについては下記記事もご参照ください。
弦ピッチ11.3mmのブリッジ
ビンテージタイプのストラトキャスターなど一部のシンクロナイズドトレモロブリッジの弦ピッチがこの11.3mmです。
さすがにここまで広くなると、レスポールタイプなど、他のギターから持ち替えた際にかなりの違和感を感じます。
ミスタッチの危険性は低く抑えられますが、逆に弦移動の際に次の弦に届かない『空振り』が発生しやすいピッチです。また、丁寧なフィンガリングを心がけないと『弦落ち』が多発します。
デメリットの紹介が先行してしまいましたが、コードストローク時に他のブリッジと比べて弦の発音タイミングがズレて、互いに干渉しづらいため、各弦の分離がよく、綺麗に響くのが特徴です。また、左手の親指をネックの上方から出して握り込む場合、ネックの淵から6弦までが近い幅広ピッチの方が演奏しやすい場合もあります。
弦落ちについて
弦落ちとは、指板上、特にハイフレットで多く見られる現象で、1弦や6弦がネックの淵から落ちてしまい、音がでなくなってしまう現象です。6弦側ではあまり影響を感じませんが、大きな幅のチョーキングビブラートをかけたり、プリングを行う際に1弦が落ちることは多くあります。
ネックの淵までの間隔が短い幅広ブリッジ搭載ギターで多く見られる現象で、ハイフレットの押弦時には神経を使う必要があります。
弦ピッチを変更するには?
ここからは、演奏性の改善のためなどの理由で弦ピッチを変更したい場合について解説して行きます。
ナット上での弦ピッチ変更
ナット上で弦ピッチを変更するためには、ナットの溝の切り直しが必要になります。当然、現在のナットから交換する必要と、新調したナットを加工する必要があります。
先ほどもチラっと触れましたが、これには超高度な技術が必要となるため、楽器店さんやリペアショップさんに相談しましょう。
また、フロイドローズタイプのロッキングナットは加工によって弦ピッチを変更することが非常に困難です。ライセンスパーツを作成しているメーカーもあるようですが、ネック幅ごとのラインナップになっているものが多く、これについては潔く諦めた方がいいかもしれません。
ブリッジ上での弦ピッチ変更
ブリッジ上での弦ピッチ変更には、基本的にブリッジやサドルの交換が必要になります。
なお、ブリッジとサドルが独立しているシンクロナイズドトレモロやフィクスドブリッジでもサドルのみを交換しても、取り付ける際のネジ穴の影響で弦のピッチは変更できません。サドルに隙間が空いている状態では正常に演奏できないので気をつけましょう。
チューンオーマチックブリッジ
チューンオーマチックブリッジでは、サドル溝の切り方で若干弦ピッチを変更できますが、新品のサドルと、ナット同様に高度な加工技術が必要となります。
また、チューンオーマチック搭載ギターは元の弦ピッチが10.5mmである場合が多く、それに合わせてネック幅も設定されています。そのため、弦ピッチをそれ以上の広さにに変更すると弦落ちの可能性が非常に高くなる点に注意しましょう。
ロック式トレモロブリッジ
フロイドローズなどのロックブリッジでは、ブリッジそのものをライセンス品などと交換することで弦ピッチを変更することが可能です。
トレモロユニット自体を支えているスタッドの間隔が共通であれば、加工の必要もなく載せ替え可能な場合もありますが、スタッド間隔が変更になる場合にはボディに大規模な木工加工が必要になります。これもプロフェッショナルのお力をお借りすることを強くオススメします。
2点式シンクロナイズドトレモロブリッジ
2点式トレモロでもフロイドローズ同様、スタッドの間隔が同じであれば、無加工で取り付けられることがあります。また、サドルを変更したい場合には、弦ピッチに合わせたサドルを選択する必要があります。
現状ウィルキンソンタイプなどの2点式のシンクロナイズドトレモロは10.5mmか10.8mmの弦ピッチが採用されている場合が多く、演奏性の上では大きな変化は望めないかも知れません。
個人的には交換用2点式シンクロブリッジはGotoh製品一択です。
GOTOH / NS510TS-FE1 C
型番号のNSはナロースペーシングの略で、幅狭ブリッジ(10.5mmピッチ)であることを表しています。NSなしの型番では10.8mmピッチです。
手持ちのストラトにも搭載していますが、Fender純正のブリッジから変更した際にチューニングの安定感、サウンドのまとまり感ともに大幅にアップしました。
また、標準装備のGotoh製サドルも悪くなかったのですが、色々試して見た結果、合わせるサドルにはKTS製のチタンサドルを使用しています。
KTS / PR-17
チタンの特性なのでしょうか、深めに歪ませた時にも芯が残りブライトさが失われず、音抜けを確保することができている印象があります。
KTS製品には上記の製品以外にもベンドスティール型のサドルもあります。
6点式シンクロナイズドトレモロブリッジ
6点式ブリッジでは、6本のネジの間隔が同じであれば無加工で乗せかえることが可能な場合もあります。6点式では弦ピッチによって取り付けネジ位置が異なる場合も多く、しっかりと下調べをした上で導入しましょう。
ビンテージタイプの6点式トレモロの多くは11.3mmピッチなので、弾きづらさを感じている場合には交換してしまうのがオススメです。
GOTOH / 510TS SF2 C
11.3mmから一気に10.5mmになると、逆に近すぎて演奏性が下がってしまう場合が考えられるので、まずは10.8mmに変更してみるのが無難です。
10.8mmピッチでビンテージテイストなサウンドを狙っていく場合は、サドル、トレモロスプリングも合わせて交換すると効果が大きくオススメです。
RAW VINTAGE / RVS-108
上記のRAW VINTAGE社製品はその名の通り、優秀なビンテージリイシューパーツで、簡単なパーツ交換だけでお手軽にビンテージっぽさを得ることが可能です。
また、現行のギターに多い10.8mmなどの狭めのピッチでビンテージギターのような演奏性、サウンドを狙う場合には弦ピッチを広げる(10.8mm→11.3mm)ことも考えられます。この場合にはネジの位置が合わない場合が多くあるので、細心の注意を払いましょう。また、ネックの幅によっては弦落ちが多発します。こちらもしっかりと確認しておきましょう。リプレイスメントメーカーの有名どころは他にはCallaham(カラハム)などですね。
フィクスドブリッジ
テレキャスターに代表されるフィクスドブリッジもシンクロナイズドトレモロ同様にブリッジ自体の交換が必要になります。
注意点に関しても同様にネジ穴の間隔が合っていない場合、木部に加工が必要になる点です。
3行でまとめると
- 狭いと弦移動はしやすいけどミスタッチに注意!
- 広いと弦落ちしやすいけどサウンドがクリア!
- 日本人には11.3mmは厳しいのかも!
最後に
今回は弦の間隔、弦ピッチについてお届けして参りました。
ギターを長年弾いている方でも気にしていなければ気付かなかったりする項目ですが、いかがだったでしょうか。
普段10.5mmとか10.8mmを使用している私が11.3mmのギターをお借りしたときに、自分でもびっくりする位に全く弾けなかったことがあります。軽くトラウマになりましたが、その時には理由が全くわかっていませんでした。
1本のギターを弾き続ける分には慣れという部分で大半がカバー可能ではありますが、複数のギターを日常的に持ち換える場合には、ある程度ブリッジ上での弦ピッチを揃えておいた方がよいのではないかと思っています。
当ブログのFacebookページです。
少しでも皆様のお役に立てたら「いいね!」していただけると歓喜します。