ギターの弦は金属製の弦の張力の強さによって音程が決まります。張力が高ければ弦は強く引っ張られ音程が上がり、張力が低ければ弦は弱く引っ張られ音程が下がります。
ギター弦を構成する金属は、金属疲労や酸化、温度変化などの影響でこの張力と音程の関係が崩れチューニングがズレます。弦は消耗品である以上、これらに関してはある程度仕方のない部分ではありますが、演奏している最中にチューニングが頻繁にズレてしまう場合、ギター側に問題があるかも知れません。
ギターに新しい弦を使用するメリット、言い換えれば古い弦を使用することのデメリットについては下記記事で解説しているので合わせてご覧ください。
ギターの弦は抑えたり、チョーキングを行うことで引っ張られます。慣らしを行って伸びが安定している弦では一時的に伸びた分だけ戻ることで元のチューニングをキープします。
しかし、この時にペグに巻いてある部分の弦が伸びてしまったり、ナットやブリッジとの摩擦で戻りきらなかったりすることで伸びた分と同じ分だけ戻ることが出来ずにチューニングがズレます。
これを可能な限り解消しているのが、フロイドローズに代表されるダブルロックトレモロ、所謂ロック式トレモロを搭載しているギターです。これらのギターは派手なアームプレイを行ってもチューニングがズレにくいことから多くのロック系ギタリストに愛用されています。
現在お使いの楽器がロック式トレモロを搭載している場合には今回の記事はあまり役立たないかも知れません。
しかし、トレモロ非搭載ギターやロック式ではないトレモロ搭載ギターをお使いの方でもパーツ一つで演奏中のチューニングをズレを解消する方法があります。
それは弦を巻き取るペグ(チューニングマシン)をロック式ペグ(チューニングマシン)に交換することです。
本来はチューニングを合わせるために回すのみを指してペグと呼び、弦を巻き取る部分も合わせるとチューニングマシンやマシンヘッドと言うのが正式名称ですが、本記事では日本で一般的に使用されているペグと言う表現を使用させていただきます。
目次
ロック式ペグとは
通常、ギターの弦はペグ上でポストや巻かれている弦自身との摩擦によって半固定されています。
画像のようにポストには弦が複数回巻き付けられているのが通常です。この巻き数が少ないと摩擦が不十分になり弦が抜け落ちてしまうために、3回程度巻くのが良いとされています。この巻き付けた部分が一時的な張力からの復元時に一緒に戻されてしまうことで、元のペグ〜ブリッジ間よりも長くなり張力が低下することでチューニングが下降します。
ちなみに、チョーキング時などにペグが回転して緩んでしまう場合は別問題です。純粋にペグが張力に耐えられなくなって回ってしまっているので、ロトマチックペグの場合は頭についているネジを時計回りに回してトルク調整をおこないましょう。クルーソンタイプはグリス以外にトルクを調整する手段がないため、最悪ペグ交換になってしまうかも知れません。
この部分はロックペグを載せたギターでは以下の画像のようになります。
画像はGotoh製のロック式ペグですが、先ほどの画像と比べると各弦はポスト半周程度しか巻かれていません。ポスト内部に仕込まれた固定機構によって弦を固定しているので、摩擦を得るために巻き数を増やす必要がないからです。
巻き付けられた部分の遊びがほとんど無いため、一時的に張力が変化しても元の張力に復元しやすく、結果としてチューニングが安定します。
私はロック式トレモロ搭載ギター以外は全てロック式ペグに交換して使用していますが、温度などによる不可避のもの以外、演奏中の大きなチューニングズレは経験していません。寒冷地の日没後に野外で行われたステージでは、ネックも逆反りをして散々な目に合いましたがそれはかなり特殊な状況です。
ロック式ペグの種類
一口にポスト内部で弦を固定すると言っても、その固定方法はメーカーにより違いますが基本的に、弦を巻きつけるポスト内が中空になっていて、そこに金属製の固定具をヘッド裏面方向から差し込むことで固定を行っています。
前述のロックペグはペグの回転に連動して内部の逆ネジが回ることで弦をポストに固定するタイプですが、Fender製のロックペグなどでは、下記画像のようにヘッド裏面についた固定用ネジを手動で回して固定するサムロック式・サムホイール式・サムターン式などと呼ばれる方式でロックを行います。
このFロゴのツマミをヘッド裏から見て時計回りに回すことで弦をロックします。
たまに混乱して回す方向がわからなくなりますが、左手でホイールを持って人差し指が親指の上に来る側の向きが締める方向です。と言っても、ロックをするのは弦交換の時だけなので大きな問題はありません。
移動中に緩んだりするのが嫌なので、増し締めを行う際には細心の注意を払っています。
ロック式ペグを使用するメリット
ここまでロックペグについて解説を行って来ましたが、ここからはロックペグを使用するメリットについてご紹介していきます。
「ロックペグのメリットってチューニングが安定することじゃないの?」と思われるでしょうが、実はチューニング面以外にもメリットがあります。
演奏中のチューニングが安定する
ロックペグに交換する目的の一番はコレです。間違いありません。
こちらについては前項で解説したとおり、通常のペグと比べるとチューニングは格段に安定します。
弦の交換が速い
通常のペグの場合、弦をしっかり伸ばしてからポスト2個分程度の余裕を持って巻き始めます。挿し込み式のクルーソンでは弦を切ってからポストに挿して折り目を付けて巻き始めます。巻いている間にも常にテンションをかけながら巻かないとポスト部分に緩みが生じてチューニングが不安定になってしまいます。3周程度の適切な巻き数にするためにはギア比1:18のペグの場合54回転もペグを回さないとなりません。
対してロックペグは弦をポストに通して、強めに引っ張った状態で弦を固定してから巻き始めて半周程度で巻き終わります。ギア比1:18ペグでは9回転程度で巻き終わります。
また、弦交換後に弦を引っ張って伸ばすことでチューニングの安定を図る際にも、遊びの部分が少ないので素早く安定させることが出来ます。
巻き数の少ないロックペグならではの大きなメリットです。
ナットが長持ちする
ギターの弦はチューニング時や演奏時にナットの上をネックと水平方向に移動します。この時ナットと弦の間には摩擦が生じて、この摩擦によりナットが摩耗します。4〜6の巻き弦を考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
弦交換の際や、チューニングを合わせる際にもこの摩擦によりナット溝が削れていきます。ナットの溝は弦高を決める要素でもあるので、削れることで徐々に弦高が下がっていき、ビビリなどの原因になります。
また、ネックと垂直方向にナット溝が削れていくことで、ナット溝の中で弦が遊んでしまいサスティンが伸びなくなったり、開放弦の立ち上がりが悪くなったりしてしまいます。
基本的にナットは消耗品なのですが、ロックペグを使用することで寿命を伸ばすことが可能です。
サスティンが伸びる
製品にもよりますが、ロック式ペグは通常のペグに比べて部品の点数が多いため本体の重量が重い傾向にあります。特にサムロック式のロックペグでは手で持った時に感じるレベルで重量が違います。この傾向は元々の重量があるロトマチックタイプの方がクルーソンタイプよりも顕著に現れます。
ペグを装着したヘッドの重量が増し土台がしっかりとすることによって弦振動が逃げづらく、結果としてサスティンが伸びることになります。
ただ、この特徴は単純にメリットだけとも言いづらく、弦振動がボディやネックに伝わることでギター全体が「鳴る」ことを邪魔してしまうことも否定できません。
ギター本体の鳴りをキープしたい場合には、ロックペグの重量がなるべく現在のペグと変わらないものを選びましょう。
ペグの交換方法
ペグの交換は元のペグと同じ形のものを選んでおけば非常に簡単です。弦を外してから、ペグの固定を外し、ヘッドからペグを抜き、新しいペグを固定するだけです。
クルーソンタイプでは、裏面のネジがヘッドとペグの固定に使用されています。ストリングポストの径と長さ、ネジの位置が合っているものに交換することで、ドライバー一つでポン付け出来てしまいます。
ロトマチックタイプでは、裏面のネジは回転防止の意味合いが強く、ヘッドとの固定にはヘッド表面の六角ナットが使われています。こちらは裏面のネジと表面の六角ナットを外すことで交換可能です。現行のFender純正ロトマチックペグではヘッド裏面のくぼみにペグの突起をハメ込んで回転防止に当てられているため、ヘッド裏面にねじ止めはありません。
オススメのロック式ペグブランド
ここからは、タイプ別にオススメのロック式ペグについてご紹介を行っていきます。
御自身のギターに現在取り付けられているペグのメーカーを確認して、同じメーカー品があればそれに交換するのが一番安心です。
GOTOH
ペグやブリッジで世界的にも大きなシェアを持つ国産ブランドです。正式名称は後藤ガット有限会社で、交換用パーツの生産だけでなく、国内、海外問わずメーカー製ギター用のペグやブリッジのOEM生産なども行っています。
ロック式ペグのラインナップは幅広く、現行のほとんどのギターにネジ穴を開け直すことなくマウント可能です。私も所有ギターのほとんどにGotoh製のマグナムロックと呼ばれるロック式ペグを使用しています。また、トレモロブリッジもほとんどGotoh製に載せ替えています。
ペグの精度が非常に高く、また「油の中から糸を引き抜くような滑らかな動き」により引っ掛かりが少なく、チューニングの微調整をする際にも使いやすいのが特徴です。国産メーカーならではの安心感があるのも良いですね。アコースティックギター用の製品ラインナップが多いのも特徴的です。
Gotohのペグは[SD91-HAPM-05M-L6-N]のような型番で表されます。赤字で表示した[M]がマグナムロックの頭文字で、ロック機構を持っている製品に付けられています。
Gotohの型番の読み方については下記ページでも解説を行っています。
SD91やSD510などクルーソンタイプのロックペグラインナップが豊富で、私もFenderCSのストラトキャスターとGibsonのレスポールに使用していますが、どちらもギター本体を加工することなくポン付け出来ています。
Schaller
Schallerはドイツのギターパーツブランドで、日本語的にはシャーラーと読みます。主にロトマチックタイプのペグを生産していて、コンポーネントギターなどでもシャーラー製ペグがセールスポイントになるほど高品位なパーツを製作しています。
ロックペグでもロトマチックタイプのロックペグを多くリリースしていて、FenderのAmericanシリーズにポン付け可能なF-Seriesや弦をヘッドの表面から固定するトップロックスタイルのものなどバリエーションも豊富です。
Sperzel
ロックペグと言えばアメリカのSperzelと言うくらい古くからサムロック式のロックペグを生産していて、ロトマチックタイプのロックペグに特化したブランドです。日本語的にはスパーゼルと読みます。
スパーゼル製のロックペグは他社製のロトマチックタイプのロックペグと比べて重量が軽く、ギター本体の鳴りを重視したいギタリストにオススメです。ジェフ・ベックも使用していることで有名です。
ヘッドへの固定にはネジを使わない構造ですが、その代わりにヘッド裏に回転防止用の穴を開ける必要があるので楽器店様に依頼するのが良いでしょう。持ち込みで取り付け可能かどうかを事前に確認しておくとスムーズです。
HIP SHOT
アメリカのギターパーツブランド、ヒップショットもロックペグで有名なブランドです。一時期、一部のギタリストの間ではロックペグのことをヒップショットと呼ぶ人たちもいたほどです。実際には同社のロックペグはグリップロックと名付けられています。
クルーソンタイプの取り付けられているギターに加工なしでロトマチックタイプのロックペグを載せることの出来る製品など、変わった製品もリリースしています。全体的に重量感があるので、USA製ギターを使用していてサスティンを伸ばすために交換する場合には検討してみても良いかも知れません。
更にチューニングを安定させるためには
ロックペグを使用しても100%チューニングがズレない訳ではありません。どんなことをしても100%と言うことはありえないのですが、ここからはロックペグを使用した上で更にチューニングを安定させる方法を簡単にご紹介します。
まずは、冒頭のリンク先でもご紹介している通り、新しい弦を使用することです。古くなった弦は酸化などにより重量バランスが崩れてチューニングが安定しなくなります。
弦を張った直後にしっかりと伸ばしておくことも重要です。巻き癖を取りつつ予め伸ばしておくことで、演奏中に弦が伸びてくることが減って結果チューニングが安定しやすくなります。
弦の伸ばし方については下記記事で解説しています。
他には、弦とブリッジやナットの接点が摩擦を持つことによってアームプレイやチョーキングを行ったあとにチューニングがズレやすくなることもあります。こう言った場合には、2B位の鉛筆で弦溝をなぞってやると滑りがよくなります。
鉛筆を使用するのが憚られる方は、以下のような専用の潤滑剤を使用してみるのもよいでしょう。
BIGBENDS / Nut Sauce Lil-Luber
ブリッジは直接手に触れるので抵抗があり、試しにナットだけに使用してみたところ確かに効果を感じることが出来ました。鉛筆だと黒くなってしまうのが気になるので、必要であればこちらの方を使おうと思います。
あとは、こまめにチューニングをする癖を付けることです。リハーサル時には曲間の未ーディング時に、ライブ中はMC時などにパパッと済ませてしまいましょう。ライブでの使用も考えると、エフェクトボードに組み込めて、暗いステージでもみやすいチューナーがオススメです。
KORG / PB-CS Pitchblack Custom
KorgのPitchblack Customは正面以外からもみやすい高輝度メーター付きのフロア型チューナーで、チューニング時にはミュート、バイパス方式はトゥルーバイパスとステージ用のチューナーとして欲しい機能が多く備わっているのでオススメです。
3行でまとめると
- ロックペグでチューニング安定!
- 弦の交換もスピーディー!
- それでも新しい弦を使うことは大切!
最後に
今回はギター用のロッキングチューナー、所謂ロックペグについてご紹介してきました。トレモロ搭載ギターでも非搭載ギターでも演奏中のチューニングズレは少ないに越したことはないので、悩んでいる方がいれば交換してしまいましょう。
本文中でもご紹介しましたがGOTOH製のラインナップは幅広く、USA製ギターでも殆どの場合無加工で取り付けられるためオススメです。
ピックアップなどに比べると一見地味なパーツ交換ですが、チューニングやサウンドに与える影響は少なくないので、検討してみてください。
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