DTM/DAW

操作性も仕上がりもUP!プラグインへの入力レベルを調整しよう!

DAWを使用したデジタル環境でのMIXでは、マスタートラックだけではなく各トラックのレベル管理も大切です。

レベルの調整と言えばフェーダーで行うのが基本ですが、プリフェーダーインサートスロットの入出力レベルはいくらフェーダーを触っても変化しません。

レベル管理が適切ではない場合にはトラックがクリップしたり、フェーダーが常に上がったor下がった状態になってしまいMIX作業に悪影響を及ぼします。また、デジタル歪みの発生やS/Nの低下など仕上がりにも影響が出てきます。

MIXに使用されるダイナミクス系のプラグインを使用する際にもこのレベル管理は非常に重要です。特にモデリングプラグインコンプレッサーなどではスレッショルド固定の機種も多く、コンプレッサープラグインへの入力レベルを適切にコントロールしないと有効に作用させることが困難になります。

今回は、お問い合わせもいただいているコンプレッサーをはじめ、プラグインへの入力レベルコントロールに関して解説していきます。



目次

レベルコントロールの必要性

1176_input_large

まずは、上記の画像をご覧ください。Universal Audioの1176LNモデリングプラグインの画像です。この機種はスレッショルドが固定の代わりに入力レベルを調整して使用するタイプのコンプレッサーです。

上記の画像ではINPUTがかなり小さい状態で使用されています。元となったアナログ機器では基本的に目盛りの中央付近が最も細かいコントロールが可能で、S/Nの面でも有利になります。この状態ではツマミを少し触っただけでパラメータが大きく変化してしまい、繊細なコントロールがしづらいです。

また、1176LNではINPUT回路のアナログ的な歪みもサウンドの特徴にもなっているので、この状態で使用しても良さを十分に活かすことは困難です。

1176_input_middle

こちらの画像は1176LNの前段でレベルを落としたものです。INPUTの目盛りに注目すると標準的な位置にセットされコントロールがしやすく、サウンド面でも1176LNらしさが出ています。プラグインの使いやすさ、サウンドの両面でこちらの設定の方が有利になります。

ここでは1176LNを例に取りましたが、EQの前段でレベルが大きすぎるとブーストを行った際にクリップしてしまったり、逆に小さすぎるとEQの効きが悪かったりと不便なことが多々あります。

今回は積極的には解説を行いませんが、アナログ出しを行う際にもレベル調整はとても大切です。アナログ機器には最大入力レベルや入力感度などの値があり、例えば-10dBv受けの機器に+4dBu規定の出力を放り込むと入力段で歪みを起こし正常に作用しません。

前段でのレベル調整方法

プラグイン前段でのレベル調整にはいくつかの方法があります。

ここからはレベル調整の方法ごとに解説して参ります。デジタルでのレベルコントロールでは基本的にどの方法で調整しても差は現れないので好みの方法を使用するのがよいでしょう。

また、しっかり録音できている素材やシーケンスソフトで書き出したオーディオ素材のレベルコントロールではプラス方向にコントロールを行うことは稀で、殆どの場合マイナス方向にコントロールを行います。

1.DAW標準の機能を使用する

region

こちらはProToolsのクリップ画像です。2本のリージョンを表示させていますが、各クリップの一番左下の部分に注目してみてください。小さい画像ですが、それぞれ[-3.8dB]、[0dB]と表示されています。また、その左に小さいフェーダーのようなものが表示されています。

これはProTools標準のクリップゲイン機能です。

クリップゲイン機能では、トラック内の各クリップごとに再生レベルをコントロールすることが可能です。

clipgain1 clipgain2

画像のフェーダー部分をドラッグすることでクリップのレベルを調整できます。波形も対応して大小してくれるので、視覚的にもわかりやすくオススメの方法です。

このクリップゲイン機能のポイントはトラックではなく、クリップごとに機能するところです。

例えば、Aメロでは丁度良いレベルだったボーカルトラックがサビでは大きすぎてオーバーコンプになってしまう。というのはよくある状況です。フェーダーオートメーションでは後述のAUXトラックを使わない限りプリフェーダーインサートの入力レベルを調整することはできません。

クリップゲイン機能を使用することで、Aメロはそのままのレベルでサビのクリップだけを5dB下げるというような操作が可能になります。さらっと書いていますがとても画期的なことです。サウンドメイク用のコンプレッサーをある程度かけた状態でレベルコントロールが行えるというのがクリップゲイン一つで可能になります。



2.前段のプラグインで調整する

プラグインには入出力レベルの調整機能を持ったものが多くあります。それらの機能を使用してレベル調整を行う方法です。AvidのTrimのようにレベル調整機能だけを持ったプラグインも存在します。

クリップ、リージョンごとのレベル調整機能を持たないDAWでは上記の方法が不可能なため、こちらの方法で調整しましょう。

sonnox_trim

画像はSonnoxのOXFORD EQです。真ん中に表示されているTRIMツマミで-20dBまでのレベルコントロールが可能です。基本的にはEQでブーストを行った際に使用する前提で実装されているものと考えられますが、EQ→COMPの接続順を取る場合にはこのTRIMを使用することでコンプレッサーへの入力レベルを調整することができます。

fb202_trim

FilterBankをはじめとしたMcDSPのプラグインには入力出力それぞれにツマミが設けられていて、画像のFilterBank F202それぞれ±24dBまでの調整が可能です。

HPF/LPFではインプットレベルを調整することはあまりありませんが、Analog Channelなどのレベルを変化させたり、歪みを付与するプラグインでは入力を上げて出力を下げることでより多くの歪みを得るなど工夫が可能です。

nevep_sat

こちらはUniversal AudioのNeve Preampです。左のツマミがプリアンプコントロール、右のツマミが出力レベルコントロールです。

アナログ感が欲しいトラックに、プリアンプコントロールでブーストした分OUTPUTを下げて使用する使い方が一般的です。

個人的には前述のクリップゲイン機能を使用することが多いのですが、ブースト方向のコントロールが必要な場合にはこちらのNeve Preampを使用することが多いです。デジタルでブーストすると味気ない雰囲気になってしまうトラックにアナログ的な暖かさが付与されるので、MIXに馴染みやすいように感じられます。

 

どのプラグインにも共通ですが、クリップゲイン機能のようにトラック内の一定のパートだけをコントロールしたい場合には、プラグインオートメーションを使用してOUTPUTやTRIMなどレベル調整用のコントロールのオートメーションを作成するのがよいでしょう。

3.AUXトラックを使用する

makeaux

レベル調整を行うオーディオトラックの出力先をAUXトラックに設定し、オーディオトラックのフェーダーを使用してレベル調整を行う方法です。ステレオAUXトラック経由で出力することでPANの設定も保持されます。

一見面倒なこの方法ですが、複数のトラックに同じ設定のプラグインを使用したい場合などには便利です。

例えば、エレキギターのパートが5本あるけど同時になっているのは多くても2本という場合、それぞれのトラックでEQをしてからAUXトラックでまとめてCOMPをかけることができます。トラックコンプとして使用する場合EQ→COMPの接続順の場合に限りますが、CPU/DSPリソースの節約にもなります。

一旦AUXトラックに出力することをバス送りなどと呼び、バス単位で楽器をまとめながらMIXすることをステムミックスと呼んだりします。詳しくは下記記事をご覧ください。

レベル調整とアナログ感

プラグイン前段でレベル調整を行う必要性や方法についてはここまでに紹介してきましたが、他にもメリットがあります。その中でも今回はアナログ感を得ることができる、という部分に注目していきます。

「なぜプラグインの前段でレベル調整をすることとアナログ感が関係あるのだろう?」とお思いでしょうが、実はこれ、大いに関係があります。

簡単に言うとアナログ感とは、アナログ回路の中でも特にレベルアンプやバッファアンプなどの増幅段で付加される歪みのことを指します。歪みと言ってもネガティブな意味ではなく、倍音が多く付加されることで音楽的な温かみなどを得ることができます。アナログ感について詳しくは下記記事でご紹介しています。

確かに、レベルを調整するだけではアナログ感は得られませんが、トラックのレベルを一旦下げアナログ回路やアナログモデリングプラグインで増幅することでアナログ感を得ることができます。

録りの段階で適正ゲインが稼げていないトラックは、特にレベル調整をせずにアナログ段で増幅すれば問題ないのですが、所謂ラインものと呼ばれるエレキピアノやキーボード、エレキベースやアコースティックギターなどの楽器群や、シーケンスプラグインなどでMIDIをオーディオ化したトラックなどはレベルは大きく振れているが、デジタル臭さが抜けきらない、などの状況に陥りがちです。

そういった状況で、クリップゲイン機能やEQなどでレベルを下げ、後段のアナログモデリングプラグインでブーストすることで、クリップさせることなく倍音を付加することができます。

CONSOLE_1

画像のSoftube Console 1ではINPUT GAINとVOLUMEが設定されています。また、独立した倍音付加コントロールのDRIVEが設定されているので、1つのプラグインで入力レベルを落とす→倍音を足す→出力レベルを調整するということが可能になります。使用している感じだとDRIVE=5.0あたりから倍音がレベルごとが持ち上がってくる印象です。

上記画像ではクリップゲイン機能を使用して入力レベルを調整→カットEQ→COMPと経由しているために、DRIVEで持ち上がった分のレベルをVOLUMEで微調整しているだけですが、トラックにConsole 1をひとつインサートすればレベル調整から倍音の付加まで広く行えます。
SOFTUBE / Console 1 Mk II
SOFTUBE / Console 1 Mk II



3行でまとめると

  • EQ/COMPでクリップさせない!
  • プラグインの目盛りが扱いやすい!
  • アナログ感の付加も楽に!

最後に

今回はお問い合わせもいただいていたプラグインへの入力レベル調整についてでした。

実際、生楽器は録りで気を使っていれば倍音不足には陥りづらいのですがシーケンス類はどうしてもMIXに馴染まなかったりするのでレベル調整→倍音付加の流れを多用しています。Vocaloidなどにもオススメです。

個人的にはMIXの一番はじめにPANとクリップゲイン、フェーダーの組み合わせである程度バランスを取ってから作業に取りかかるのがルーティンになっています。

 


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