アナログコンソールを使用したレコーディング、ミックスではDAW完結の完全デジタル環境では得られない深みのあるサウンドを得ることができます。
しかし、小規模スタジオやホームスタジオではスペース、予算、メンテナンス性の関係でなかなかレコーディングコンソールを導入するのは難しいのが実情です。
今回は、アナログコンソールの大定番、Solid State Logic(SSL)の4000シリーズをモデリングしたプラグインをご紹介していきます。
かつては大規模レコーディングスタジオに多く導入されていたSL4000シリーズ、中でもEシリーズとGシリーズは名機中の名機として各社からモデリングプラグインが多数リリースされています。モデリングと謳っていなくても似たようなキャラクターのサウンドを持つプラグインは多いように感じます。
ちなみに、製造されていたのは1980年代なのですが、そのサウンドは今の音楽にも全く問題なくマッチしているのがすごいですね。
目次
SSL4000シリーズとは
Solid State Logic(SSL)はイギリス・オックスフォードに本社がある音響メーカーで、世界中のレコーディングスタジオで使用されているレコーディング用コンソールを製造していることで有名です。
レコーディングスタジオの定番になっているレコーディングコンソールSL4000シリーズ。多くのレコーディングスタジオで使用されていて、そのサウンドは意識をしていなくてもCDなどでよく耳にしています。
操作性での特徴は、自由度の高いルーティンが可能なところです。各チャンネルにダイナミクスセクションが搭載されているのですが、EQセクションとダイナミクスセクションの接続順をボタン一つで変更することができます。
4000EシリーズのEQセクションは製造時期によって特徴が異なり、LOWのツマミのカラーで見分けることができます。茶色のキャップがついているものはEシリーズ以前からの4000シリーズ同様のQ幅が広い緩やかな特性、オレンジはPULTECのEQの様な特性、黒のキャップはQ幅が狭いシャープな特性となっています。
プラグインでモデリングされているのは、主にブラウンノブと呼ばれる茶色キャップと、ブラックノブと呼ばれる黒色キャップのものですね。メジャーアップデートモデルのGシリーズではブラックノブタイプのEQが採用されています。
また、後発のXL9000Kシリーズでは、この伝統的なEシリーズのEQと9000Kシリーズ標準のEQを切り替えて使用可能になっています。
また、チャンネル部だけではなく、マスターセクションに搭載されている、マスターバスコンプもSSLのサウンドを特徴づけています。こちらも多くのメーカーがモデリングし、プラグイン化もされています。
チャンネルストリッププラグイン
アナログコンソールのインプットチャンネルをそのままプラグインにしたものをチャンネルストリッププラグインといいます。
コンプレッサー、ゲートなどのダイナミクス系エフェクトと、フィルター、EQを一つのプラグインで処理することで、サウンドが破綻することがないのがメリットです。また、視認性の面でも一つのウィンドウで全てのパラメーターが表示されるのもいいですね。
DAW標準のものや、アナログ的な癖のないオリジナルのチャンネルストリッププラグインもあるのですが、多くのチャンネルストリップはアナログコンソールの回路、特性をモデリングしたユニークなものになっています。
以下、各社からリリースされているSL4000シリーズをモデリングしたチャンネルストリッププラグインをご紹介いたします。
Console 1
Softube
Softube製のSL4000Eモデリングプラグインと専用コントローラーのセットがConsole 1です。
モデリング技術の分野で定評があるSoftube社がモデリングしたプラグインということもあり、大変お勧めできるプラグインとなっています。他のプラグインと比べるとUIが実機とかけ離れていますが、専用コントローラーのノブ配置とプラグインウィンドウ内の配置が一致しており、非常に操作がしやすいプラグインとなっています。
接続順の切り替えなど、オリジナルのSL4000Eの基本的な機能に加えて、ゲートセクションにトランジェントエフェクトが内包されていて、より現代的な音楽にマッチしやすくなっています。また、独自のDriveパラメーターを操作することで、他の設定に寄らず、SSLのアナログ感を調整することが可能です。
SOFTUBE / Console 1 Mk II
その他、Console1については下記記事で操作方法も含めて詳しくご紹介しているので、参考にしてみてください。
SSL E Series Channel Strip
Universal Audio
Universal Audio製のSL4000Eをモデリングしたチャンネルストリッププラグインです。UNISONプリアンプを使用したトラッキング(レコーティング)や、チャンネルストリッププラグインとしてMIXに使用することでSSLサウンドを手にいれることができます。
特徴としては、実機同様の豊富なルーティンと、EQタイプをBLK(ブラックノブ)/BRN(ブラウンノブ)と切り替えて使用できる点です。
他メーカーのプラグインよりも誇張表現のない、SSLそのもののサウンドを出してくれる印象があります。
UAD-2プラグインを使用するためにはapolloシリーズのオーディオインターフェースやUAD-2サテライト、PCIeなどのアクセラレータが必要になります。
UNIVERSAL AUDIO / APOLLO TWIN MKII DUO
また、UAD-2プラグインについてはこちらの記事も合わせてご覧ください。
SSL E-Channel
Waves
こちらはWavesのSL4000Eモデリングチャンネルストリップです。ツマミの並びがUADとは異なるので、どちらかに慣れていると一瞬戸惑います。
こちらも丁寧にモデリングがされている印象ですが、若干色付け感が強いように感じます。
また、Wavesのアナログモデリングプラグインでは、アナログ回路が持つ機器本体のノイズまで含めてモデリングされているため、ANALOGをONにするとDAWを再生していなくてもホワイトノイズが発生します。
単一のチャンネルに使用するならまだしも、複数のチャンネルにインサートするプラグインでは気になることが多いので、個人的には常時OFFで使用しています。
SSL G-Channel
Waves
こちらはWavesのGシリーズですね。
元々が味のないDAWで使用することを想定しているからか、Eシリーズ同様に色付け感が強いです。ANALOGスイッチについても同様です。
Eシリーズとの大きな違いはEQのカーブで、EシリーズのブラックEQではGAIN値に依らず設定したQ幅を保つのですが、GシリーズではGAIN値を変更するとQも連動して変わります。
GシリーズのEQでは各帯域を大きくブースト、カットを行うとQが狭まり、聴感上のGAINを保つように動作します。この振る舞いが非常に音楽的で、HFやLFで大胆にブーストを行なっても周辺の帯域に影響を及ぼしづらいので、サウンドを際立たせたい場合などに重宝します。
また、WavesからはSL4000GのEQ部分のみを抜き出したSSL G-Equalizerプラグインも用意されています。
Duende Native Channel
Solid State Logic
SL4000シリーズのモデリングではないので、番外編としてのご紹介です。意外とご存知ない方がいらっしゃるのですが、なんと本家Solid State Logicもプラグインをリリースしています。
このDuende Native ChannelではXL9000Kのモデリングを行なったプラグインです。前述の通り、XL9000KシリーズではEQセクションの[E]ボタンによって4000EのEQサウンドを得ることができます。
バスコンププラグイン
SL4000シリーズを語る上で欠かせないのがマスターバスコンプです。
マスターモジュールに組み込まれているバスコンプはMIXの一体感、混ざってる感を得るのに欠かせない、SSLサウンドのキモの部分にもなっています。
バスコンプなど、ミックスバスにプラグインをインサートする効果、方法については下記記事も合わせてご参照ください。
SSL G Series Bus Compressor
Universal Audio
Universal Audio、UAD-2プラグインのSSL G Series Bus CompressorはSL4000Gシリーズのバスコンプを丁寧にモデリングしたプラグインです。
マスターバスだけではなく、ドラムバス、ストリングスミックス、インストミックスなどによく使用しています。ドラムミックスバス→インストミックスバス→マスターで3重かかっている状態もよくありますね。
実機の特徴そのままなのですが、コンプレッションにより若干のドライブ感とアタック感が付加されて、よく混ざるのが特徴です。私的には、スレッショルド、レシオを浅めに設定して、ピークのみを若干叩いてやるような使い方がベストです。
本当にびっくりするくらいよく混ざります。
SSL G-Master Buss Comp
Waves
Waves特有の癖の強さが良くも悪くも特徴になっています。個人的にSSLのバスコンプには癖の強さを求めていないので、あまり使用しないプラグインです。低域がコンプレッションされていないのか、ローエンドが盛り上がる印象もあります。
重ねがけすると、癖が際立ってしまうので、マスターバスのみ、または、ドラムバスのみ、など割り切った使用がおすすめです。
定番のANALOGスイッチも当然搭載されていて、これまた定番のホワイトノイズを吐き出しますが、インプットトラックに多用するチャンネルストリップ、コンプ、EQプラグインに比べて、相対的にインサートする機数が少ないのであまり気になりません。
バスコンプとは名付けれてたいますが、高めのレシオでインプットトラックに使用しても面白いかもしれません。
また、前述のSSL E-Channel、SSL G-Channel、SSL G-EqualizerとこのSSL G-Master Bus CompはSSL 4000 Collectionというプラグインバンドルにまとめられています。
インプットトラック、ミックスバス両方に使えるプラグインがバンドルされているので、SSLサウンドを導入したい方にはおすすめです。
WAVES / SSL 4000 Collection
Duende Native Bus Compressor
Solid State Logic
正真正銘、本家SSLの4000Gシリーズバスコンププラグインです。
本物のSSLサウンドがCPUベースのネイティブ環境で再現できるというのが最大の特徴になっています。
他メーカーのプラグインと比べると大人しめというか、クリアなサウンドに仕上がる印象です。
SOLID BUS COMP
Native Instruments
公式にはSSLのモデリングとは謳っていませんが、SOLIDの名前とパラメーターが示す通り、このSOLID BUS COMPは4000Gのシミュレートプラグインです。
サウンド面では本家SSLよりも押し出し感が強く、似たようなキャラクターでありながら若干モダンな印象を受けます。
Dryミックスによるパラレルコンプレッションが可能なことが特徴で、レシオを高めに設定したサウンドを素のサウンドに混ぜ合わせていくような使い方もこのプラグインのみで可能です。
浅めのスレッショルド、レシオによる純粋なバスコンプ効果もしっかりと得られ、比較的負荷も軽いので気兼ねなく使用できるのがよいですね。
KOMPLETEを使用している方はバンドルされているので、使用してみることをおすすめします。
Native Instruments / KOMPLETE 11
KOMPLETEにバンドルされるエフェクトプラグインについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
3行でまとめると
- 伝統のSSLサウンドをプラグインで!
- Wavesは良くも悪くも個性が強い!
- 本家SSLはプラグインも上品!
最後に
アナログモデリングプラグインの王道SSL4000シリーズのプラグインをご紹介してきました。
カラーを強く出したいならWaves、実機のサウンドが欲しいならDuende Native、apolloシリーズを使用しているならUAD、といった感じで求めるサウンドや環境に合わせて選択するのがよいのではないでしょうか。
WavesのG-Equalizerは簡単、かつ低負荷でSSLサウンドを得ることが出来る点でおすすめできます。癖もそこまで強く出ないのでChannelよりも使い勝手がよいかも知れません。
今回ご紹介した中ではNative InstrumentsのSOLID BUS COMPが非常に健闘していた印象です。わざわざ単体で購入するほどのことはない印象ですが、KOMPLETEユーザーの方は一回使ってみるとよいと思います。
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