ギターにこだわって、エフェクターにこだわって、アンプのセッティングにもしっかりとこだわって、ギターサウンドは生まれてきます。
しかし、ギターのシールドにまでこだわっている方はそう多くないように感じられます。ケーブルの画像に『#MY NEW GEAR』と言うタグがついているのを見たことがない気がします。
確かに、ギター本体やエフェクターに比べると大きな変化はない部分ですが、せっかくのこだわりトーンがケーブル部分で劣化してしまっていては元も子もありません。逆にエフェクターでコントロールしていた部分をケーブルで賄えれば、音痩せも抑えることができます。
というわけで、今回は、ギターのシールドを変えるとサウンドはどこまで変わるのかについて考えてみます。サウンドサンプルも参考に、ケーブル選びの一助となれれば幸いです。
今回は、定番のものを中心に手元にあった7種類のケーブルを比較していきます。
目次
シールドの比較方法
まずは、シールドの比較方法について決めます。
シングルコイルピックアップ搭載のFender Stratcasterとハムバッカーピックアップ搭載のSCHECTER EX-Vを使用して、UNIVERSAL AUDIO apollo 8pのHi-Zインプットに入力し、UNISONスロットにインサートしたENGL RT765を通した音をそれぞれ録音して、それを比較していきます。
文章にすると複雑そうですが、宅レコ環境ながらアンプ直に限りなく近い状況で録っています。
手弾きによる誤差を出来るだけなくすために、なるだけ手弾きは避けたかったのですが、録音データをリアンプするLo-Z環境では想定よりもサウンドに差が出なかったので、Hi-Z入力で直接録音しています。
そのため、当然データは各ケーブルごとに別テイクになってしまっています。できる限り同じように弾いたつもりですが、録り音を聴きながら弾いてしまっているので、よく聴かなくても大分違う出来になっています。サウンドサンプルについては参考程度にしていただければ幸いです。
サウンドサンプルに不安があるので、各テイクをアナライザーにかけて、そのピークホールドの画像も合わせてアップしています。フルレンジのアナライザーで目盛りも荒いものなので、大きな違いは認められませんが、こちらも参考程度に考えていただければと思います。
また、今回比較に使用したケーブルは全て約5mのものです。
比較に使用したギターについて
シングルコイルでの比較用には画像のストラトキャスターを使用しています。
ピックアップはリアのシングルコイル(Seymour Duncan STK-S4b)のみを使用しています。
ハムバッカーでの比較にはこちらのEXCEEDを使用しています。
こちらもリアのハムバッカー(Suhr SSH+)のみを使用しています。
比較に使用したプラグインについて
シングルコイルの比較には、ENGL RT765のCHANNEL 2を上記のセッティングで使用しています。倍音の通り方も見たかったので、かなり歪ませています。
ハムバッカーの比較はこちらです。TREBLEをちょっとあげただけです。
それでは、ここからは実際にケーブルがサウンドに与える影響について見て行きたいと思います。
CANARE / GS-6
ギターシールドの定番中の定番、CANARE(カナレ)のGS-6です。サウンド面、取り回し面どちらもクセがなく、非常に使いやすいケーブルとなっています。私は新しいケーブルを評価する時に、このGS-6を基準にしています。
ちなみに、市販品では同社のコネクタが使用されていますが、今回使用したケーブルのコネクタにはSwitchcraft 280を使用しています。
CANAREのケーブルはマイクケーブル・ラインケーブル含めてカラーバリエーションが豊富だったりします。画像は緑のケーブルですが、他にも、赤、オレンジ、青、黄色があります。当然、黒もあります。黄色はかなりショッキングなカラーリングです。
シングルコイル
上の画像は、フレーズ全体をアナライザーにかけたものです。エレキギターのサウンドに大きく影響を与えるのは、80Hz〜8kHz位間だと考えてください。また、フレーズが5弦解放絡みなので、基音の220Hz付近が盛り上がっています。
これがこの後にご紹介するシールドの基準になっています。
ハムバッカー
こちらはハムバッカーピックアップでの録音データをアナライズしたものです。なんとなく、6弦解放を起点にしてしまいました。
フロイド機にしてはローエンドが思ったよりも出てくれています。こちらもこのGS-6を基準に他のシールドと比較して行きたいと思います。
CUSTOM AUDIO JAPAN / Guitar Cable
CUSTOM AUDIO JAPAN、その名もGuitar Cableです。
こちらもサウンド面でのクセがないのが特徴の、フラットなシールドと言うことができるのではないでしょうか。
シースがCANARE等と比べて若干柔らかく、変な巻きグセが付いてしまうとケースの中で絡まりやすいので丁寧に巻いて収納しましょう。
シングルコイル
グラフ上では2kHz〜3kHzあたり、ちょうどシングルコイルのジャリっとした部分がよく出ている印象を受けます。グラフ全体を見ても、味付けがなく、GS-6よりもよりフラットな特性をしているのかな、と感じます。
グラフでの差がサウンドにも出ていますね。上の方がジャリっと前に出てくる印象があります。下の方もしっかりと出ていて重心が変に高くなってしまうこともありません。
ハムバッカー
偶然の要素もあるとは思いますが、中域がとても綺麗なグラフが取れました。サウンドもそのもの、非常にフラットでストレスなく全帯域が出ています。
GS-6に比べると少し角が取れたサウンドに感じますが、どちらも素直な特性でジャンルやピックアップを選ばないケーブルと言うことができるのではないでしょうか。
BELDEN / 8412
これも超定番、アメリカ生まれのBELDEN 8412です。こちらもコネクタは280を使用しています。
8412は元々はマイクケーブルとして作られているために、内部構造が1芯+シールドではなく、2芯+シールドといった構造になっています。
他記事でもお伝えしていますが、このケーブル、シースが硬いです。また、太さもあるので、使用するコネクタ次第では熱収縮チューブが通らなかったりします。DIYで作成する場合には、そのあたりにも注意が必要です。
ちなみに今回画像でご紹介しているのは、BELDEN的にはREDカラーのケーブルですが、日本人感覚だとピンク色のケーブルです。他にも黒(BLACK)、ショッキングなイエロー(YELLOW)、キツめの水色(BLUE)のカラーバリエーションがあります。
シングルコイル
サウンドのクセがあまりグラフに現れていませんが、中低域と高域にピークを感じます。ローミッドを中心に圧を感じることもあって、音量自体も大きく感じます。
シングルコイル向きな印象はないですが、歪ませても細くならないシールドとして良いかも知れません。
ハムバッカー
低域から中低域にかけてグラフ上でもしっかりと盛り上がりを読み取れますね。80Hz〜100Hzあたりまでのローエンドもしっかりと伝達してくれています。
中低域ばかりに耳が行きがちですが、中域〜中高域もしっかりと出ているので、抜けが悪い印象は受けません。
それにしても太いです。弦のゲージを上げたようなサウンドが出ています。
BELDEN / 9778
他のケーブルとの区別をつけるために赤のメッシュチューブを被せていますが、BELDENの9778です。このケーブルもギターシールド界の定番中の定番ですね。
BELDENのギターシールドの中では比較的フラットな特性をしている印象があります。
また、シースの硬さも硬すぎることがなく、取り回しの面でも問題ありません。
シングルコイル
自分でも驚いているのですが、GS-6と非常に近いグラフになっています。サウンド面では若干9778の方が重心が低い印象があるのですが、非常にフラットな特性をしていると言うことができます。
BELDEN=ローミッドが太いのイメージを持って9778を選ぶと失敗してしまうかも知れません。100Hz付近のローエンドは8412に似た感じを受けますね。
ハムバッカー
こちらもGS-6にかなり近いグラフになっています。シングルコイルの時同様に、若干こちらの方が重心が低いので音圧感、音量感は9778の方があります。
ジャリっとした部分が少し不足している感じがしますが、抜けが悪い印象は受けませんね。今回一番イメージと違う結果が出たのがこの9778です。
SOMMER CABLE / the spirit “XXL”
日本のCANARE、MOGAMI、アメリカのBELDENといったケーブル界の定番メーカーがありますが、こちらはそのヨーロッパ版、ドイツ生まれのSOMMER CABLEからthe spirit “XXL”です。ちなみにSOMMERは「ゾマー」と読みます。
日本ではあまりメジャーなメーカーではないですが、試しに使ってみたところ、印象がよかったので現在も継続的に使用しています。半透明のシースを使用して中身のシールド材を見せているのがオシャレだそうです。
こちらのケーブルのコネクタにはOYAIDEのP-275Mを使用しています。メッシュチューブをかける場合にはP-275Mでは径が収まらないので、P-285Mが必要です。
シースは若干太めですが、標準的な硬さで取り回しは良好です。
シングルコイル
CAJのGuitar Cableに近い、かなりフラットな特性ですが、聴感上ではこちらの方が若干ハイミッドにピークを感じます。
倍音も綺麗に出てくれているので、アンサンブルに埋もれることもなさそうですね。
ハムバッカー
ハムバッカーでもCAJに似たグラフが取れました。シングル同様に中高域〜高域のピーク感はこちらの方が強く感じられます。
サウンドを聴いてみると、重心が意外と低いですね。ドンシャリ傾向が強いですが適度なピーク感なので、嫌らしさがなく使いやすいサウンドです。
NEO by OYAIDE / G-SPOT CABLE
黒のメッシュチューブを被せてしまっていますが、NEO by OYAIDEのG-SPOT CABLEです。Guitarにスポットを絞って、ギターの美味しいところを引き出してくれるケーブルということです。
こちらもコネクタにはP-275Mを使用しています。
シースはかなり柔らかいです。また、表面が汚れを集めやすい質感なので、対策が必要かも知れません。
シングルコイル
中低域が意図的に抑えられていて、その分中高域が出ています。低域も十分に出ているドンシャリ傾向のシールドですね。
単品だと中高域の抜けが良い印象どまりですが、アンサンブルに入ると浮いてしまう寸前位まで抜けてきます。メーカーもシングルコイルとの相性について自身があるようで、シングルコイルの痛い部分を抑えて抜けさせてくれるケーブルとしては大変素晴らしいものがあります。
ハムバッカー
ハムバッカーでも中低域を抑えて中高域でピークを出しているグラフが取れています。
中高域のピークが作用して、輪郭がしっかりと出ていますね。
ただ、ハムバッカーで骨太サウンドを出したい時には、中低域が若干不足して感じられることがあるかも知れません。個人的には、この位中高域が抜けている方が好きなのですが、好みが別れるところだとは思います。
NEO by OYAIDE / QAC-222G
最後にご紹介するのもNEO by OYAIDEのQAC-222Gです。メッシュチューブ越しにもわかる真紅のケーブルです。現在は黒色のものも切り売りで入手可能です。こちらのコネクタは純正のQAC-222G専用コネクタです。
マイクケーブルのQAC-222をギター・ベース用に再調整したケーブルとのことで、構造としては、QAC-222同様、2芯+シールドという構造になっています。
シースは標準的な太さではあるものの、比較的硬く、取り回しには少々気を使うケーブルです。
シングルコイル
全帯域に渡ってしっかりと出ているグラフが取れました。特に低域がしっかりと出ていますね。
元気なサウンドです。そしてボトムが太いですね。かなり意図的に低域寄りにシフトさせている感じを受けます。多弦ベースなんかにも良いんじゃないでしょうか。低域に存在感がありながらも、音程感を失わない中域が出ています。
シングルコイルではグラフでの見た目以上に、しっかりと高域も出ているのが印象的です。
ハムバッカー
シングル同様ボトムが太いです。今回はアンプセッティングを固定して比較をしている関係上、対応できていませんが、アンプ側のLOWが1目盛り位は下がるんじゃないでしょうか。
高域のブライトな部分もしっかりと出ているので、低音が被って抜けて来ないこともなさそうです。
シングルコイルピックアップに向いているシールド
それでは、シングルコイルサウンドを並べて聴き比べていきます。
個人的にはシングルコイルピックアップにはしっかりと抜けるサウンドを出力してもらいたいので、中高域〜高域にピークがきているシールドが好みです。そういった観点で選んでいくと、NEO by OYAIDEのG-SPOT CABLEは非常に抜けがよいですね。同じくNEOのQAC-222Gは抜けすぎて重心が軽いように感じられます。
同様の観点で他のシールドを見ていくと、CAJ Guitar CableとBELDEN 8412は若干抜け不足に感じてしまいます。
抜け感を出しつつも低域〜中低域に存在感が欲しい場合、SOMMER CABLE the spirit “XXL”は非常に使い勝手が良いですね。ピークが非常に高い帯域にあるようで、アンサンブルに入った時に強い印象があります。
逆に、シングルコイルピックアップで太いサウンドが出したい場合、8412が非常によいローミッドの出方をしています。アンプのセッティング次第では、CAJやQAC-222Gも良いんじゃないでしょうか。
ジャンルを選ばずになんでもできるシールドという観点では、BELDEN 9778が頭一つ抜けている感じがします。当然CANARE GS-6も色付けがなく、アンプのセッティング次第でオールマイティな働きをしてくれます。
MONTREUX / BELDEN #9778-5m-SS[1156]
ハムバッカーピックアップに向いているシールド
大前提として、ハムバッカーピックアップ搭載機でも、レスポールのように元がふくよかなミディアムスケールのギターと、今回使用したようにロングスケールでフロイドローズブリッジの情報量が不足しがちなギターでは大きくサウンドが異なります。
当然、同じピックアップで同じケーブルを使用しても同じ傾向のサウンドにはならない点にご注意ください。
では、こちらも並べて聴いてみます。
私は、シングルコイルに求めるものと対照的に、ハムバッカーには太さを求めています。必然的に低域〜低中域がしっかり出ているケーブルが候補に上がってきます。当然、抜けを確保するため、倍音のコントロールのためにある程度高域にも主張は必要です。
そういった観点で考えると、BELDEN 8412は非常にハムバッカー向きと言うことができそうです。今回はかなりハイパワーなピックアップを使用していますが、ビンテージ寄りの出力を持ったピックアップをレスポールに乗せている場合などにはよりよい結果になるのではないでしょうか。
NEO bu OYAIDE QAC-222Gは低域と高域のバランスが良いですね、裏バネがなっているのをしっかりと伝えてくれる位高域まで出ています。レンジの広さでは比べるケーブルがないです。先ほどとは逆に、G-SPOT CABLEはちょっと低域が重くなりすぎな感じを受けました。こちらは、シングルコイル向きですね。
ボトムがしっかりしていて、高域にもしっかりとピークがきていると言う点で、SOMMER the spirit “XXL”はここでも光っています。私もそうなのですが、ライブ演奏中にコイルスプリットを多用するタイプのギタリストには、スプリット時とのキャラクターの差が際立つ、このタイプのシールドがオススメです。
ハムバッカー使用時の帯域バランスでは、BELDEN 9778とCAJ Guitar Cableがどちらも良いと感じます。どちらかというと、9778の方が粒が細かいモダンな歪みに合うように感じます。逆に、ジャンルを選ばずに使えるのはCAJですね。ギター本体とアンプの特性を活かしやすいケーブルです。
シールドの基準にしているGS-6ですが、帯域バランスがフラットな分、モダンなロックトーンでは線の細さを感じることがあるかも知れません。
3行でまとめると
- ケーブルにも得手不得手がある!
- まずはCANAREを基準に考えよう!
- 取り回しも大切な要素!
最後に
今回はケーブル7種の比較記事でした。正確にはCANARE GS-6と他の6種を比べた記事でした。サウンドサンプルでは伝わりきらないことも多いかと思いますが、実際に自分で試してみると概ね言ってることは伝わるんじゃないかと思っています。
当記事では既製品ケーブルをご紹介していますが、ケーブルは自作してしまった方が安く、お好みの長さに作れます。工具分の初期投資は必要ですが、パッチケーブルなども含めてケーブルを入れ替えていく過程ですぐに元が取れてしまったりします。
ケーブルの自作については、以下の記事で詳しく解説しています。
これを機にDIYに挑戦してみるのもいいんじゃないでしょうか。
当ブログのFacebookページです。
少しでも皆様のお役に立てたら「いいね!」していただけると歓喜します。